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真相
記者会見
しおりを挟む白木さんの機嫌が急降下したことが、眉間に深く刻まれた皺と剣呑に細められた目つきから感じ取れた。
僕も、『記者会見』という言葉で、今まで刑事ドラマを見ているようだった気分を、一気に現実に引き戻された。
現実は現実で、決して甘くないし優しくない世界だった。そのことを、数時間ぶりに思い出した。
「それって別の日に変更できないの?」
いつにない強引な調子で、白木さんが食い下がる。
「ホテルを押さえてるし、既にマスコミにファックスも回してますからね。この時間だから、記者はもう集まり始めている。それに、週刊誌の発売が明後日なんだ。それより先となると、今日しかない」
「柿谷君も、記者会見、行きたい?」
白木さんは今度は、助けを求めるように僕を見た。
「行きたくないよね? 行きたくないって言って!」と言いたげな切実な眼差しを向けられ、僕は三間と白木さんの間で視線をさ迷わせる。
助けを求め稲垣を見たけど、「俺を巻き込まないでくれ……」という感じでさりげなく目を逸らされてしまった。
「記者会見には……、僕が行く必要……ない、ですよね?」
どう考えても事情聴取のほうが優先順位は高い。
それを毅然と言うことができず、しどろもどろになるのは、一歩も引きそうにない三間の眼差しの強さの所為だろう。
「いる必要はないが、できればいてほしい」
三間が記者会見を開くとしたら、目的は一つしか考えられない。佑美さんとのことだろう。交際していたことを明らかにするだけなら、ホテルでの記者会見なんて派手なことはしないはずだ。結婚発表――きっとそれしかない。
あの記事が出る前に、佑美さんとの交際を認め、結婚の予定を大々的に発表することで、二股疑惑を潰す算段かと考えた。後にも先にも愛する人は一人だけだと、世間に知らしめるための会見。
僕を連れて行きたがるのも、きっと同じ目的だろう。僕が、無駄な期待を抱かなくてすむように。僕に、知らしめるために。
――そういえば……。さっき、専務との会話で、妊娠のこと話してたな……。
今になってようやく、そのことを思い出した。
クロロホルムをほとんど吸っておらず、意識を失くしていなかったのなら、三間もそれを聞いていたはずだ。
あの夜、『日本に帰ったら、アフターピルを飲みます』と言って、ゴムなしで最後までした。あの口約束を守らなかったことを知られたということは、僕の気持ちにも気づかれたということか……。
本音としては、できれば結婚の会見は、自分の目で見るよりもネットニュースのほうがよかった。でも、三間がそれを望むのなら仕方ない。
一夜限りの相手に無駄な期待を抱かせない。それもまた、彼なりの誠実だろう。そういうところも、好きだと思えるから。
了承を求めて白木さんを見ると、諦めの滲む溜め息を吐き、かすかに頷いた。
「えっと……、三間さんが、そう仰るなら……、そっちに行きます」
「……わかった。今日の事情聴取は諦めるから、そのかわり、明日も動けませんとかは絶対になしだからね!」
白木さんは僕ではなく、三間に、釘を差すように言った。
なぜ、明日のことまで心配するのかはわからない。
その後、現場の写真を撮っていた警察官に、首の切り傷や絞め痕の写真を撮られ、白木さんが三間のマンションまで覆面パトカーで送ってくれることになった。
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