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三間と社長と佑美さん

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「二人とも大学の演劇サークルに所属していて、俺が高2のときだから、社長が3年で佑美が1年だった。河川敷で何かわちゃわちゃやってるなーと思って、立ち止まって見ていたら、『おーい』って社長に呼ばれて。バイトで一人来られなくなったから、時間があるなら、君がこの役をやってくれないか、って、いきなり無茶ぶりされてな」

 窓の外を見るように視線を上げた顔が、懐かしそうに目を細める。
 三間にこんな顔をさせる社長や佑美さんを、羨ましく思った。

「昔から物覚えはよかったから、台本は一度読んだらたいていの台詞を覚えられた。演技は初めてだったけど、サークルの人達がみんな褒めてくれるから、自分でも、『俺って役者の才能があるかも?』なんて調子に乗ってしまってな。そのあと、飯を奢ってもらって、また来てほしいと言われて……。他にやりたいこともなかったから、放課後は毎日、演劇サークルの活動に参加するようになったんだ」

 三間が所属している芸能事務所のアプローズは、今の社長が脱サラして起業した会社だと、以前、マネージャーの白木さんから聞いたことがある。
 社長は大学の頃は脚本を書いていたが、起業後はマネージメント業に徹しているらしい。佑美さんの大学卒業と同時に企業し、佑美さんと、当時大学生だった三間が最初の所属タレントになったという話を思い出した。

 企業のタイミングからすると、アプローズの社長は、まるで佑美さんのためにサラリーマンを辞めて芸能事務所を立ち上げたようにも思える。でも、佑美さんは去年、アプローズを辞めて個人事務所に籍を移した。その理由は、三間との結婚のためだと噂されている。
 事務所の中で一番の稼ぎ頭だった女優に出て行かれたのだ。噂が本当なら、三間は社長の恨みを買っているのではないかと秘かに思っていた。
 けれど、社長の話をする三間の表情からは、社長に対する負い目や謝罪の念は全く感じられない。そもそも恨みを買っているのなら、仕事を減らされて、三間が人気俳優でい続けることはできなかっただろう。


「……以前は演技の相談をしに社長の家にもよく行っていたんだ。今年に入ってからは正月に行ったきりだけど、今度行くときはお前も誘う」

「へ? ……僕ですか?」

 急に矛先を向けられて、思わず声が裏返った。

「面倒見のいい人だし、何か困ったことがあったときは、他の事務所のタレントでも相談に乗ってくれるはずだ。知り合っておいて損はない」

 一度目の人生でも。そういう人がいたら違っていたのだろうか。
 そんな思いがよぎり、素直に頷いた。

「あ、はい……、じゃあ、機会があったら、よろしくお願いします」

 三間が何を考えているのか分からないことも多いし、僕を気にかけてくれるのも、親切心だけではない気がする。
 でも、一度目の人生では話してくれなかったことまで話してくれた理由は、一度目よりも信用してくれているからだろう。大切な人達との思い出を話したい相手に選んでもらえた。そのことは、手放しで嬉しいと思えた。






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