3 / 66
二度目のはじめまして
何故、この仕事を受けたのか
しおりを挟む「柿谷君ってホント美肌ねー。赤ん坊みたい。隈がなかったら今日もノーファンデでいけたけど……。ドラマの撮影が終わっても、忙しいみたいね」
顔に下地を塗ってもらっていた僕は、話しかけられ、ゆっくりと目を開けた。
鏡越しに、続いてファンデーションを塗ろうとしているメイクのヒロさんと目が合う。
この局お抱えのヘアメイクアーティストである彼は、すらりとした長身で髪は短く、見た目は普通の男性だけど、口調だけが女性っぽい。いわゆる「オネエ系」キャラで、女性の出演者から人気がある。僕もドラマの撮影中は、いつもお世話になっていた。
彼が言うように、鏡に映る自分自身は、両目の下に濃い隈ができていて、顔色も悪い。
「……まぁ……。おかげさまで……」
本当のことは言えないから、鏡越しに曖昧な笑みを浮かべてみせた。
隈の理由は、仕事が忙しかったからじゃない。三間に挨拶に行くことを考えると、昨夜は不安と緊張でろくに眠れなかったからだ。
しかし、そこは人気ヘアメイクの腕の見せ所のようで、疲れの滲む蒼白な顔がファンデーションにより明るく健康的な肌色に塗り変えられていく。
「あとは眉を整えるくらいでいいわね。夏希君みたいにパーツが完璧だと、楽でいいわ。これでベータなんだから、神様はホント不公平よねー。性別で差をつけるんなら、同じ性別の中でくらい、スペックを平等にしてほしいものだわ」
ヒロさんの愚痴に内心ドキッとしたが、そこは僕も俳優の端くれ。鏡に映る顔は眉一つ動かさず、ポーカーフェイスを貫いていた。
ヒロさんも本気で愚痴っているわけではなく、彼なりのリップサービスなのだろう。褒め上手なところも、女性陣からの人気の理由の一つだ。
顔を褒められたことは素直に受け取ることにして。
「でも、僕、ベータなのに運動神経鈍いし筋トレしても筋肉がつかないから、ヒロさんみたいにシュッと引き締まった体型に憧れます」
ベータであることをさりげなく強調し、誉め言葉を返すと、ヒロさんが、うふふ、と嬉しそうな顔をした。
中島佑美ほどではないけど、芸能プロダクションの専務に街でスカウトされるくらいだから、僕も顔の造形には恵まれていると自分でも思う。
くっきりとした二重の切れ長の目は、目が合った相手がぽーっと見惚れるほどで、鼻筋はすっと通っていて唇は薄い。
メイクなしだと中性的に見える顔に凛々しい眉が描き足され、俄然男らしくなった。
ノックの音がし、鏡の端に映っていた部屋の入り口のドアが開く。入って来たのはマネージャーの白木さんだった。
「二人には、来月の顔合わせのときに改めてご挨拶に伺いますって言っておいたから」
喋りながら近づいて来る彼に、鏡越しに「すみません」と謝罪する。
「三間さんが、『何であいつはこの仕事を選んだんだ?』って言ってたから、来月会ったときにちゃんと自分で説明してね」
「え……? あ、はい……」
僕の返事が曖昧だったせいか、白木さんが一瞬怪訝そうな顔をしたが、それ以上は何も言われなかった。
訊きたいのは僕のほうだ。と胸の内で呟く。
何故、あの人がこの仕事を受けたのか。
あの人との共演を避けるために、今回はこの映画を選んだというのに。
754
お気に入りに追加
1,658
あなたにおすすめの小説
αなのに、αの親友とできてしまった話。
おはぎ
BL
何となく気持ち悪さが続いた大学生の市ヶ谷 春。
嫌な予感を感じながらも、恐る恐る妊娠検査薬の表示を覗き込んだら、できてました。
魔が差して、1度寝ただけ、それだけだったはずの親友のα、葛城 海斗との間にできてしまっていたらしい。
だけれど、春はαだった。
オメガバースです。苦手な人は注意。
α×α
誤字脱字多いかと思われますが、すみません。
Tally marks
あこ
BL
五回目の浮気を目撃したら別れる。
カイトが巽に宣言をしたその五回目が、とうとうやってきた。
「関心が無くなりました。別れます。さよなら」
✔︎ 攻めは体格良くて男前(コワモテ気味)の自己中浮気野郎。
✔︎ 受けはのんびりした話し方の美人も裸足で逃げる(かもしれない)長身美人。
✔︎ 本編中は『大学生×高校生』です。
✔︎ 受けのお姉ちゃんは超イケメンで強い(物理)、そして姉と婚約している彼氏は爽やか好青年。
✔︎ 『彼者誰時に溺れる』とリンクしています(あちらを読んでいなくても全く問題はありません)
🔺ATTENTION🔺
このお話は『浮気野郎を後悔させまくってボコボコにする予定』で書き始めたにも関わらず『どうしてか元サヤ』になってしまった連載です。
そして浮気野郎は元サヤ後、受け溺愛ヘタレ野郎に進化します。
そこだけ本当、ご留意ください。
また、タグにはない設定もあります。ごめんなさい。(10個しかタグが作れない…せめてあと2個作らせて欲しい)
➡︎ 作品や章タイトルの頭に『★』があるものは、個人サイトでリクエストしていただいたものです。こちらではリクエスト内容やお礼などの後書きを省略させていただいています。
➡︎ 『番外編:本編完結後』に区分されている小説については、完結後設定の番外編が小説の『更新順』に入っています。『時系列順』になっていません。
➡︎ ただし、『番外編:本編完結後』の中に入っている作品のうち、『カイトが巽に「愛してる」と言えるようになったころ』の作品に関してはタイトルの頭に『𝟞』がついています。
個人サイトでの連載開始は2016年7月です。
これを加筆修正しながら更新していきます。
ですので、作中に古いものが登場する事が多々あります。
新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
カランコエの咲く所で
mahiro
BL
先生から大事な一人息子を託されたイブは、何故出来損ないの俺に大切な子供を託したのかと考える。
しかし、考えたところで答えが出るわけがなく、兎に角子供を連れて逃げることにした。
次の瞬間、背中に衝撃を受けそのまま亡くなってしまう。
それから、五年が経過しまたこの地に生まれ変わることができた。
だが、生まれ変わってすぐに森の中に捨てられてしまった。
そんなとき、たまたま通りかかった人物があの時最後まで守ることの出来なかった子供だったのだ。
ブレスレットが運んできたもの
mahiro
BL
第一王子が15歳を迎える日、お祝いとは別に未来の妃を探すことを目的としたパーティーが開催することが発表された。
そのパーティーには身分関係なく未婚である女性や歳の近い女性全員に招待状が配られたのだという。
血の繋がりはないが訳あって一緒に住むことになった妹ーーーミシェルも例外ではなく招待されていた。
これまた俺ーーーアレットとは血の繋がりのない兄ーーーベルナールは妹大好きなだけあって大いに喜んでいたのだと思う。
俺はといえば会場のウェイターが足りないため人材募集が貼り出されていたので応募してみたらたまたま通った。
そして迎えた当日、グラスを片付けるため会場から出た所、廊下のすみに光輝く何かを発見し………?
侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
謎の死を遂げる予定の我儘悪役令息ですが、義兄が離してくれません
柴傘
BL
ミーシャ・ルリアン、4歳。
父が連れてきた僕の義兄になる人を見た瞬間、突然前世の記憶を思い出した。
あれ、僕ってばBL小説の悪役令息じゃない?
前世での愛読書だったBL小説の悪役令息であるミーシャは、義兄である主人公を出会った頃から蛇蝎のように嫌いイジメを繰り返し最終的には謎の死を遂げる。
そんなの絶対に嫌だ!そう思ったけれど、なぜか僕は理性が非常によわよわで直ぐにキレてしまう困った体質だった。
「おまえもクビ!おまえもだ!あしたから顔をみせるなー!」
今日も今日とて理不尽な理由で使用人を解雇しまくり。けれどそんな僕を見ても、主人公はずっとニコニコしている。
「おはようミーシャ、今日も元気だね」
あまつさえ僕を抱き上げ頬擦りして、可愛い可愛いと連呼する。あれれ?お兄様、全然キャラ違くない?
義弟が色々な意味で可愛くて仕方ない溺愛執着攻め×怒りの沸点ド底辺理性よわよわショタ受け
9/2以降不定期更新
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる