侍従でいさせて

灰鷹

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初夜

初夜(2)

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 起こしていたはずの上半身は、いつのまにかベッドに横たわっていた。
 腰を跨がれ、上からのしかかられるようにして、唇を貪られている。

 必要最小限のことしか喋らない無口な人だということは、ほんの三日の付き合いでもわかる。まるでその反動のように、彼の舌は優しく、情熱的に、ユリウスの舌に絡みつき、口内を掻き回した。堪えきれずに洩らした喘ぎをも飲み込まれる。

 実らなかった初恋を未だに引きずっているくらいだから、今まで恋人なんてものはいなかった。もちろん、挨拶以外のキスも初めてだ。
 だから、キスがこれほど気持ちいいものだということを初めて知った。
 唾液が混ざり合い、互いの舌を貪り合う音が、これほど鼓膜に響き、それにすら感じてしまうものだということも。

 唇から溶かされるように、意識がふわふわし思考がままならなくなっていく。下半身に熱が集まり、前がキツくなるのがわかる。そこには、同じように張り詰めた、殿下のものが押し付けられている。
 互いに身じろぎするたびに、昂りが布越しにゆるく擦れ合う。それだけでも達しそうなほどに気持ちよかった。

 唇が解放され、吐息が触れ合う距離で視線が絡む。それを恥ずかしいと思わないくらいには、理性が蕩けきっている。

「いつもこんなに甘いのか? それとも、ヒートだからか?」

 同じことを思っていた。どうして、ライニ様の唾液はこんなに甘いのだろうと。アルファだからか? それとも、ラットを起こしているからか?
 鼻と口は繋がっているらしいから、その所為でもあるのかもしれない。
 オメガのフェロモンの甘ったるい香りとアルファの雄臭い官能の香りとが混ざり合って、息をするたびに濃く甘美な香りが鼻腔と口腔を満たしている。

 質問の答えは求めていなかったようで。

「ユーリ。体を浮かせてくれ。服を脱がせたい」
 
 そう言って寝間着の裾に手をかけられた。

 熱が出て部屋で休んでいるように言われたとき、ユリウスは寝間着に着替えてからベッドに潜り込んだ。頭からすっぽり被るタイプのその寝間着は、膝下までの長さで、ユリウスが体を浮かせないことには脱がせられない。
 自分では何も考えることができず、言われるがままに腰を浮かせ、両手を上げる。神業的速さで寝間着を引き抜かれた直後、後悔した。

 やっぱり、服を着たままのほうがよかった。
 食べ物に困ったことがないわりに痩せっぽっちで、ただ貧相なだけの男の体を優秀なアルファの眼前に晒すのは、お目汚しでしかなかった。
 
「ライニ様……、やっぱり寝間着を……」

 ――着たままでもよろしいでしょうか。と続けようとした言葉は、下着越しに張り詰めたものを撫でられ、喘ぎへと変わる。

「……ぁ……ヤッ……、ン…………」

「はは。もうこんなになっているのか」

 喜色の滲む声色だった。
 濡れた布が肌に張り付く不快感を自覚していただけに、羞恥で全身が赤く染まるのを、自分ではどうすることもできない。

 イかせるつもりのない、淡く緩慢な刺激に、内腿を擦り合わせ、無意識に腰が揺れる。

「ライニ様……」

 直接触ってほしい。
 そんな懇願を込めて名前を呼ぶ。

「まさかユーリが、そんなおねだりができるようになるなんてな」

 かつてないほど、くだけた口調だった。まるで、昔からの知り合いに向けるような打ち解けた物言いに、少し引っかかりを覚えたけど。
 覆い被さってきた殿下にふたたび唇を塞がれ、すぐに思考に、桃色の幕がかかった。



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