27 / 84
初夜
初夜(2)
しおりを挟む起こしていたはずの上半身は、いつのまにかベッドに横たわっていた。
腰を跨がれ、上からのしかかられるようにして、唇を貪られている。
必要最小限のことしか喋らない無口な人だということは、ほんの三日の付き合いでもわかる。まるでその反動のように、彼の舌は優しく、情熱的に、ユリウスの舌に絡みつき、口内を掻き回した。堪えきれずに洩らした喘ぎをも飲み込まれる。
実らなかった初恋を未だに引きずっているくらいだから、今まで恋人なんてものはいなかった。もちろん、挨拶以外のキスも初めてだ。
だから、キスがこれほど気持ちいいものだということを初めて知った。
唾液が混ざり合い、互いの舌を貪り合う音が、これほど鼓膜に響き、それにすら感じてしまうものだということも。
唇から溶かされるように、意識がふわふわし思考がままならなくなっていく。下半身に熱が集まり、前がキツくなるのがわかる。そこには、同じように張り詰めた、殿下のものが押し付けられている。
互いに身じろぎするたびに、昂りが布越しにゆるく擦れ合う。それだけでも達しそうなほどに気持ちよかった。
唇が解放され、吐息が触れ合う距離で視線が絡む。それを恥ずかしいと思わないくらいには、理性が蕩けきっている。
「いつもこんなに甘いのか? それとも、ヒートだからか?」
同じことを思っていた。どうして、ライニ様の唾液はこんなに甘いのだろうと。アルファだからか? それとも、ラットを起こしているからか?
鼻と口は繋がっているらしいから、その所為でもあるのかもしれない。
オメガのフェロモンの甘ったるい香りとアルファの雄臭い官能の香りとが混ざり合って、息をするたびに濃く甘美な香りが鼻腔と口腔を満たしている。
質問の答えは求めていなかったようで。
「ユーリ。体を浮かせてくれ。服を脱がせたい」
そう言って寝間着の裾に手をかけられた。
熱が出て部屋で休んでいるように言われたとき、ユリウスは寝間着に着替えてからベッドに潜り込んだ。頭からすっぽり被るタイプのその寝間着は、膝下までの長さで、ユリウスが体を浮かせないことには脱がせられない。
自分では何も考えることができず、言われるがままに腰を浮かせ、両手を上げる。神業的速さで寝間着を引き抜かれた直後、後悔した。
やっぱり、服を着たままのほうがよかった。
食べ物に困ったことがないわりに痩せっぽっちで、ただ貧相なだけの男の体を優秀なアルファの眼前に晒すのは、お目汚しでしかなかった。
「ライニ様……、やっぱり寝間着を……」
――着たままでもよろしいでしょうか。と続けようとした言葉は、下着越しに張り詰めたものを撫でられ、喘ぎへと変わる。
「……ぁ……ヤッ……、ン…………」
「はは。もうこんなになっているのか」
喜色の滲む声色だった。
濡れた布が肌に張り付く不快感を自覚していただけに、羞恥で全身が赤く染まるのを、自分ではどうすることもできない。
イかせるつもりのない、淡く緩慢な刺激に、内腿を擦り合わせ、無意識に腰が揺れる。
「ライニ様……」
直接触ってほしい。
そんな懇願を込めて名前を呼ぶ。
「まさかユーリが、そんなおねだりができるようになるなんてな」
かつてないほど、くだけた口調だった。まるで、昔からの知り合いに向けるような打ち解けた物言いに、少し引っかかりを覚えたけど。
覆い被さってきた殿下にふたたび唇を塞がれ、すぐに思考に、桃色の幕がかかった。
449
お気に入りに追加
1,059
あなたにおすすめの小説
初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。
君のことなんてもう知らない
ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。
告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。
だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。
今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが…
「お前なんて知らないから」
【完結】お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!
MEIKO
BL
第12回BL大賞奨励賞いただきました!ありがとうございます。僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して、公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…我慢の限界で田舎の領地から家出をして来た。もう戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが我らが坊ちゃま…ジュリアス様だ!坊ちゃまと初めて会った時、不思議な感覚を覚えた。そして突然閃く「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけにジュリアス様が主人公だ!」
知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。だけど何で?全然シナリオ通りじゃないんですけど?
お気に入り&いいね&感想をいただけると嬉しいです!孤独な作業なので(笑)励みになります。
※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
出来損ないのオメガは貴公子アルファに愛され尽くす エデンの王子様
冬之ゆたんぽ
BL
旧題:エデンの王子様~ぼろぼろアルファを救ったら、貴公子に成長して求愛してくる~
二次性徴が始まり、オメガと判定されたら収容される、全寮制学園型施設『エデン』。そこで全校のオメガたちを虜にした〝王子様〟キャラクターであるレオンは、卒業後のダンスパーティーで至上のアルファに見初められる。「踊ってください、私の王子様」と言って跪くアルファに、レオンは全てを悟る。〝この美丈夫は立派な見た目と違い、王子様を求めるお姫様志望なのだ〟と。それが、初恋の女の子――誤認識であり実際は少年――の成長した姿だと知らずに。
■受けが誤解したまま進んでいきますが、攻めの中身は普通にアルファです。
■表情の薄い黒騎士アルファ(攻め)×ハンサム王子様オメガ(受け)
大嫌いだったアイツの子なんか絶対に身籠りません!
みづき
BL
国王の妾の子として、宮廷の片隅で母親とひっそりと暮らしていたユズハ。宮廷ではオメガの子だからと『下層の子』と蔑まれ、次期国王の子であるアサギからはしょっちゅういたずらをされていて、ユズハは大嫌いだった。
そんなある日、国王交代のタイミングで宮廷を追い出されたユズハ。娼館のスタッフとして働いていたが、十八歳になり、男娼となる。
初めての夜、客として現れたのは、幼い頃大嫌いだったアサギ、しかも「俺の子を孕め」なんて言ってきて――絶対に嫌! と思うユズハだが……
架空の近未来世界を舞台にした、再会から始まるオメガバースです。
【完結】何一つ僕のお願いを聞いてくれない彼に、別れてほしいとお願いした結果。
N2O
BL
好きすぎて一部倫理観に反することをしたα × 好きすぎて馬鹿なことしちゃったΩ
※オメガバース設定をお借りしています。
※素人作品です。温かな目でご覧ください。
【本編完結済】蓼食う旦那様は奥様がお好き
ましまろ
BL
今年で二十八歳、いまだに結婚相手の見つからない真を心配して、両親がお見合い相手を見繕ってくれた。
お相手は年下でエリートのイケメンアルファだという。冴えない自分が気に入ってもらえるだろうかと不安に思いながらも対面した相手は、真の顔を見るなりあからさまに失望した。
さらには旦那にはマコトという本命の相手がいるらしく──
旦那に嫌われていると思っている年上平凡オメガが幸せになるために頑張るお話です。
年下美形アルファ×年上平凡オメガ
【2023.4.9】本編完結済です。今後は小話などを細々と更新予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる