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過保護な主
過保護な主(8)
しおりを挟む熱に浮かされたようなふわふわした感覚は馬から降りた後もずっと続いていた。殿下の後について食堂に行ったのは覚えている。
この家では、主も使用人も関係なく、朝餉も夕餉もみんなで同じ時間に同じテーブルについて食べる。
食欲がなかったが、正直に言ったら余計な心配をかけてしまいそうな気がして、皿の上にあるものを無理に口の中に詰め込んでいた。
馬を降りてからもずっと、ポーチで夫妻と共に殿下を送り出すまで、殿下の顔を見る勇気はなかった。殿下は相変わらず無口だったし、お喋りなエレナも何も言わなかったから、特に変わった様子はなかったのだろう。
ユリウス一人が、馬上にいたときの動揺と気まずさをいつまでも抱えていた。
午前中、洗濯をしながら、頭がぼーっとして体が重く感じるのも、そのせいだと思っていた。
洗った衣を絞り、竿に干そうと腰を上げたとき。
「ユーリ様。お顔が赤いようですけど、もしかして熱があるんじゃないですか?」
先に衣を干していたエレナに言われて、掌を額にあてたら、確かに熱かった。
子供の頃から、ピクニックに行ったりしてはしゃぎすぎると、決まってその夜は熱を出した。
今回も似たようなものかもしれない。はしゃいだつもりは全くないのだが。
鼻水や寒気はないから、風邪ではないことはこれまでの経験でなんとなくわかる。
「夕方までに下がらなかったら、熱冷ましの薬草があるので、それを飲みます」
都に行くまでの道中、何が起こるかわからないので、使うかもしれない薬草は一通り持ってきている。熱が出たときは、いつもサンブカスという低木の、白い小さな花を乾燥させたものを煎じて飲んでいた。
「あら。原因がわからないのに、下手に薬を飲まないほうがよろしいのではないですか? お医者様をお呼びして診てもらいましょう」
「い、いえ! そんな大げさなものではないので、大丈夫です! 一昨日からずっと緊張していて、気持ちが少し緩んだからだと思います」
「お医者様」と言われて、ユリウスは慌てて断った。
侍従として働き始めて二日目で、全く役に立っていないどころか医者の世話にまでなってしまったら、さすがに殿下にも呆れられる気がする。申し訳なさすぎて、これ以上はここにいられなくなってしまう。
エレナは心配そうな様子ではあったが、ユリウスが全力で拒むものだから、最後はなんとか医者を呼ぶことを諦めてくれた。
「では。今からお部屋でお休みになってください。昼餉はお部屋にお粥をお持ちしますから。それでも悪化するようなら、夕方にはお医者様に来てもらいますからね」
そう念を押され、ユリウスは食欲がないことを理由に昼餉は断って、部屋へと向かった。
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