侍従でいさせて

灰鷹

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 初夜のことで覚えているのは、これまでに感じたことのない羞恥と快楽。それに、自分のものか相手のものかもわからない、甘い香り。
 肌を撫でられ、舐められ、如実に反応する体が恥ずかしく、ぎゅっと目を瞑って痛いほどの胸の鼓動に耐えていた。

 挿入やうなじを噛まれる痛みは多少はあったように思う。すぐに快感へと置き換わったため、記憶にはほとんど残っていない。岸の見えない快楽の荒波に翻弄され、意識とは遠いところで、体が揺れ、熱が全身を駆け巡り、自分のものとは思えない甲高い声がひっきりなしに聞こえていた。
 
 恋情も、愛情もない。それぞれの性に支配された本能的な営み。
 いつかは相思相愛の相手と、なんて夢はとっくの昔に捨てていたから、初めての夜にキスもセックスも、うなじを噛まれることまでいっぺんに済ませてしまっても、特に何の感慨もなくその事実を受け入れられるはずだった。

 少なくとも、そう思っていた。
 あの人のあの言葉を聞くまでは。

「つがいにするつもりはなかった」

 つがいになった翌日。あの人は、後悔を露わにした顔でそう言った。
 その言葉に胸の痛みを覚えて初めて、自分がその人に何かを期待していたことを知った。



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