上 下
27 / 28

第27話 一件落着

しおりを挟む
 気絶した稲葉を、また鉤縄でしばって床に転がす。武器や巻物も取り上げたから、今度こそ抜け出すことはできないだろう。

 それから、警察に電話。忍者がどうこうってのは話せないから、ユキちゃんが誘拐されたってことだけを伝えてある。

「もうすぐ警察が来るから、保護してもらってね」

 そう言ったけど、ユキちゃんは、不思議そうにわたしと沖君を見ていた。

「ねえ、あなた達はいったい誰なの?どうしてわたしを助けてくれたの?」
「えっと、それは……」

 頭巾で顔を隠してるから、ユキちゃんはわたし達が誰か知らない。わたし達も、正体は秘密って言う忍者の決まりがあるから、話すことはできなかった。
 でも、それならいったい何て言おうか?

「せ、正義の忍者だよ!」
「正義の忍者?」
「そう。悪い忍者をやっつける正義の味方。それがわたし達だよ!」

 そう言ったとたん、沖くんがなにか言いたそうに、チョンチョンとつついてくる。わたしだってこの言い訳はどうかって思うけど、他に浮かばなかったんだからしかたないでしょ。
 ユキちゃんの質問はまだ続く。

「二人とも、どこかで会ったことない?」

 ギクッ!
 顔をかくしていても気づいちゃう?
 だけどここで、すかさず沖くんが口をはさむ。

「はじめまして」
「えっ? でも、会ったことある気がするんだけど……」
「はじめまして」
「でも……」
「はじめまして!」
「…………えっと、はじめまして」

 すごい。強引になんとかしちゃった。これじゃ沖くんだって、わたしのことあれこれ言えないじゃない。

 するとちょうどそのタイミングで、パトカーのサイレンの音が聞こえてきた。

「わたし達、もう行かなきゃ。お巡りさんには、忍者なんて話しても信じてもらえないだろうから、よくわからない誰かが助けとでも言っといて」
「二人はいっしょじゃないの?」

 少しだけ、心配そうな顔をするユキちゃん。少しの間、一人になるのが心細いみたい。

「忍者は人目につくわけにはいかないからな。オレ達がついていけるのはここまでだ」
「ごめんね。本当は、最後までいっしょにいたかったんだけど」
「そっか……」

 ユキちゃんはまだ少し不安そうだったけど、すぐに笑顔になる。

「それじゃ、ここでお別れだね。二人とも、助けてくれてありがとう」

 そう言って、わたし達の手をギュッと握った。

「こっちこそ、ありがとね。ユキちゃんが来てくれたおかげで助かったよ」

 稲葉に追い詰められた時、ユキちゃんが来てくれなかったら、きっと二人ともやられてた。この三人の誰がいなくても、こうして無事に終わることはできなかった。

 最後にみんなで手を取り合って、わたしと沖君は、こっそり家から出ていく。

「任務成功だな」
「うん。お父さんにも、さっき連絡しておいた」

 任務成功の連絡を受け取ったお父さんは、すごく喜んでた。それに、多分泣いてた。
 ユキちゃんのこともあるから長くは電話できなかったけど、そうじゃなかったら、今も泣きながら話してたかもしれない。

「それじゃあ、帰ろうか」
「そうだな」

 最後の力をふり絞って、わたし達は夜の街を駆け出していた。






 そうして、次の日の朝。
 わたしと沖君は、うちの茶の間でゴロンと寝転がっていた。

「なんだか、全部嘘みたいだね」
「ああ。要が拐われて、お前と一緒に稲葉と戦って、まるで夢でも見てたみたいだ」

 昨日のことを思い出しながら、揃ってため息をつく。
 二人とも、すっかり疲れ切っていた。

 その時だ。玄関の方からガチャガチャと音がしたかと思うと、茶の間の襖が勢いよく開いた。

「真昼、沖君、無事か!」
「お、お父さん!?」

 入ってきたのは、わたしのお父さん。お父さんは息をきらせながら、まっすぐにわたし達を見る。

「大丈夫か? ケガはないか?」
「あっ……う、うん。お父さん、もう帰ってきたの?」

 まさか、こんなに早くお父さんがやってくるとは思わなかった。

「使える手段を全部使って、大急ぎで戻ってきたんだ。それでも、ユキちゃんを助けるには遅すぎるけどね。二人がいなかったら、どうなっていたかわからない」

 そう言ったお父さんは、涙ぐんでいた。
 そして、わたしと沖君を、力いっぱい抱きしめた。

「お父さん!?」
「二人とも、よく頑張った。それに、無事でよかった。本当によかった」

 その時、目の前の景色がぼやけて、自分が泣いているんだって気づく。稲葉と戦った時も、たった今ぶたれた時も出なかった涙が、なぜか今になって出てきた。

 隣を見ると、沖君も泣いてはいなかったけど、その顔はクシャリと歪んでいた。

「そうだ。ねえお父さん。ユキちゃんは、今どうしてるの?」

 ようやく涙が落ち着いたところで聞いてみる。
 ユキちゃんが警察に保護してもらってからどうなったか、まるで知らないんだよね。

「ユキちゃんは、警察の人に何があったか一通り話をして、今は家で休んでる。と言っても、誘拐された前後の記憶は、ショックで曖昧ってことになってるけどね」
「あの時、車の中で眠らされちゃったからね」
「ああ。けど、その方が都合がよかったかもしれない。どうやって誘拐されたか、真昼や沖君がどうしていたか。気になることがたくさんあるだろうけど、眠っていたならごまかしがきく。警察も、この事件の詳しいことは一部の人間にしか知られないよう、忍者協会の力で何とかしてもらう予定だ」

 忍者協会、そんなことまでするんだ。忍者の秘密を守るのも大変だ。

 するとお父さん。そこまで話したところで、なぜか急にスマホを取り出す。

「それと、二人にぜひ見せたいものがある」
「見せたいもの? なにそれ?」

 お父さんは、わたしの質問には答えず、スマホをいじる。
 そしたら、スマホの画面に、動画が映し出された。
 それは、どこかの家の中。ううん。これは、ユキちゃんの家だ。

「実は、うちに帰ってくる前にユキちゃんの家に行ったんだ。本当はすぐに二人のところに来たかったけど、ユキちゃんの無事をこの目で確認するのも、お父さんの任務だったから。それに、二人にこれを知ってほしかったから」

 画面には、ユキちゃんのお父さんが映っていた。
 そしてユキちゃんのお父さんは、ひとつのドアを勢いよく開ける。

 その先にいたのは、坪内さん。それに、ベッドで寝ていたユキちゃんだった。

「お父さん、帰ってきたの?」

 お父さんの姿を見て、目を丸くするユキちゃん。
 そんなユキちゃんをユキちゃんのお父さんは、力いっぱい抱きしめた。

「当たり前じゃないか。怖かっただろう」
「そんな、怖くなんて…………ううん、やっぱり怖かった!」

 最初は強がっていたユキちゃんだけど、とうとうガマンできなくなって、大粒の涙をこぼす。

 まるで、さっきのわたし達と同じような場面。
 ずっとお父さんに会いたがっていたユキちゃんが素直に甘えて、泣きながらも笑っているのを見ると、胸の奥が熱くなってくる。

「ユキちゃんと、ユキちゃんのお父さんがこうしていられるのも、真昼や沖君が頑張ったからだよ。二人は、この笑顔を守ったんだ。二人の報告を聞いてから、ユキちゃんのお父さんは、何度も何度もありがとうって言っていたよ」

 そんなことを言われたものだから、旨のドキドキが、ますます大きくなる。

 ユキちゃんの救出っていう、忍者の任務。
 たくさん怖い思いをしたし、もしかしたら死んじゃうかもって思った。
 だけどやっぱり、やってよかった。ユキちゃんを助けられて、本当によかった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

原田くんの赤信号

華子
児童書・童話
瑠夏のクラスメイトで、お調子者の原田くん。彼は少し、変わっている。 一ヶ月も先のバレンタインデーは「俺と遊ぼう」と瑠夏を誘うのに、瑠夏のことはべつに好きではないと言う。 瑠夏が好きな人にチョコを渡すのはダメだけれど、同じクラスの男子ならばいいと言う。 テストで赤点を取ったかと思えば、百点満点を取ってみたり。 天気予報士にも予測できない天気を見事に的中させてみたり。 やっぱり原田くんは、変わっている。 そして今日もどこか変な原田くん。 瑠夏はそんな彼に、振りまわされてばかり。 でも原田くんは、最初から変わっていたわけではなかった。そう、ある日突然変わり出したんだ。

がらくた屋 ふしぎ堂のヒミツ

三柴 ヲト
児童書・童話
『がらくた屋ふしぎ堂』  ――それは、ちょっと変わった不思議なお店。  おもちゃ、駄菓子、古本、文房具、骨董品……。子どもが気になるものはなんでもそろっていて、店主であるミチばあちゃんが不在の時は、太った変な招き猫〝にゃすけ〟が代わりに商品を案内してくれる。  ミチばあちゃんの孫である小学6年生の風間吏斗(かざまりと)は、わくわく探しのため毎日のように『ふしぎ堂』へ通う。  お店に並んだ商品の中には、普通のがらくたに混じって『神商品(アイテム)』と呼ばれるレアなお宝もたくさん隠されていて、悪戯好きのリトはクラスメイトの男友達・ルカを巻き込んで、神商品を使ってはおかしな事件を起こしたり、逆にみんなの困りごとを解決したり、毎日を刺激的に楽しく過ごす。  そんなある日のこと、リトとルカのクラスメイトであるお金持ちのお嬢様アンが行方不明になるという騒ぎが起こる。  彼女の足取りを追うリトは、やがてふしぎ堂の裏庭にある『蔵』に隠された〝ヒミツの扉〟に辿り着くのだが、扉の向こう側には『異世界』や過去未来の『時空を超えた世界』が広がっていて――⁉︎  いたずら好きのリト、心優しい少年ルカ、いじっぱりなお嬢様アンの三人組が織りなす、事件、ふしぎ、夢、冒険、恋、わくわく、どきどきが全部詰まった、少年少女向けの現代和風ファンタジー。

スペクターズ・ガーデンにようこそ

一花カナウ
児童書・童話
結衣には【スペクター】と呼ばれる奇妙な隣人たちの姿が見えている。 そんな秘密をきっかけに友だちになった葉子は結衣にとって一番の親友で、とっても大好きで憧れの存在だ。 しかし、中学二年に上がりクラスが分かれてしまったのをきっかけに、二人の関係が変わり始める……。 なお、当作品はhttps://ncode.syosetu.com/n2504t/ を大幅に改稿したものになります。 改稿版はアルファポリスでの公開後にカクヨム、ノベルアップ+でも公開します。

お姫様の願い事

月詠世理
児童書・童話
赤子が生まれた時に母親は亡くなってしまった。赤子は実の父親から嫌われてしまう。そのため、赤子は血の繋がらない女に育てられた。 決められた期限は十年。十歳になった女の子は母親代わりに連れられて城に行くことになった。女の子の実の父親のもとへ——。女の子はさいごに何を願うのだろうか。

イケメン男子とドキドキ同居!? ~ぽっちゃりさんの学園リデビュー計画~

友野紅子
児童書・童話
ぽっちゃりヒロインがイケメン男子と同居しながらダイエットして綺麗になって、学園リデビューと恋、さらには将来の夢までゲットする成長の物語。 全編通し、基本的にドタバタのラブコメディ。時々、シリアス。

ずっと、ずっと、いつまでも

JEDI_tkms1984
児童書・童話
レン ゴールデンレトリバーの男の子 ママとパパといっしょにくらしている ある日、ママが言った 「もうすぐレンに妹ができるのよ」 レンはとてもよろこんだ だけど……

わたしの婚約者は学園の王子さま!

久里
児童書・童話
平凡な女子中学生、野崎莉子にはみんなに隠している秘密がある。実は、学園中の女子が憧れる王子、漣奏多の婚約者なのだ!こんなことを奏多の親衛隊に知られたら、平和な学校生活は望めない!周りを気にしてこの関係をひた隠しにする莉子VSそんな彼女の態度に不満そうな奏多によるドキドキ学園ラブコメ。

処理中です...