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第10話 授業中の事故

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「転校生の沖悠生くんだ。みんな、仲良くするように」

 教卓に立った先生が、教室を見渡しながら言う。そして、その隣にいるのは沖くん。
 わたしと同じクラスになっちゃった。

「沖です。よろしくお願いします」

 自己紹介は、実にあっさり。それでも、転校生ってのは目立つもの。おまけに、沖くんはかなりのイケメンだ。
 何人かの女子がキャッキャと色めきだって、朝の会が終わったとたん、質問をあびせてくる。

「どこからきたの?」
「得意な科目ってある?」
「どうして転校してくることになったの?」

 沖は淡々と答えていくけど、最後に聞かれた転校の理由だけは、ちゃんと答えずごまかした。
 そりゃ、忍者の修行をするため、なんて言えないよね。

 わたしがそれをちょっと離れたところから見てたけど、ユキちゃんがやってきた。

「ねえ真昼ちゃん。もしかして、あの子と知り合いなの?」
「えっ、なんで!?」
「今朝、一緒に学校に来てるところ見かけたの」

 そうだったんだ。うちから学校まで案内してたから、そりゃ見てる人もいるか。

「えっと、わたしと言うより、お父さんの知り合いかな」
「真昼ちゃんのお父さんの? お父さん友だちの子供とか?」
「えっと……そんな感じかな」

 そういえば、お父さんと沖くんがどうして知り合ったか、全然聞いてないよ。

「あと、うちの近所に引っ越してきたから、お父さんが何かと面倒見てるの」
「そうなんだ。沖くんって、ちょっとかっこいいね」
「そ、そう?」

 どうやらユキちゃんから見ても、沖くんはイケメンみたい。

「イケメン転校生と一足先にお知り合いか。少女マンガなら恋が始まるかも」
「ふぇっ!? なにいってるの。そんなことないって!」

 ユキちゃんは、わたしと葛葉君を交互に見て、目をキラキラ輝かせる。少女マンガや恋愛小説が好きだから、時々こんなこと言い出すことがあるんだよね。

 けどわたしにとって沖くんは、イケメンって以上に、怒って怒鳴ったり睨んだり呆れたりする印象の方が強いよ。

 学校まで案内した後も、わからないことがあったら聞いてねって言ったのに一言大丈夫とだけ答えて、とっても素っ気なかったの。
 お父さんは何かあったら助けてあげてって言ってたけど、やっぱりわたしの助けなんていらないんじゃないかな?

 授業が始まってからもそう。先生に問題を当てられても、すぐに答えてる。
 あっという間に、みんなの注目の的になってるよ。

 結局、わたしが助けるような場面なんて一度もないまま、今日最後の授業になっちゃった。

 その最後の授業っていうのが、体育。
 男女一緒にサッカーやってるんだけど、ここでも沖くんは大活躍。
 今も、ボールをキープしたところを三人に囲まれたけど、あっという間に抜き去った。

「沖くんってすごいんだね。真昼ちゃんとどっちがじょうずなんだろう?」

 沖くんのプレーを見たユキちゃんが言う。
 わたしだってサッカーは得意だし好きだから、そんなこと言われたら、張り合う気持ちが出てきちゃう。

「もちろんわたし。今からボールを奪ってくるから、見ててね」

 フンスと鼻息を荒くして、沖くんのところに向かっていく。
 あっ。別に、昨日の修行で負けた借りを返すとかは、ほんのちょっとしか思ってないからね。

「お前か。少しは楽しめそうだな」

 近づいてきたわたしに気づいて、そんなことを言う沖くん。
 彼のキープしているボールに向かって足を伸ばすけど、サッとボールを操って、ギリギリのところでそれをかわす。

 沖くん、やっぱりうまい。
 けどわたしだって負けないんだから。ボールはなかなか奪えないけど、そう簡単には抜かせはしない。
 サッカーってチームでやるものだけど、この一対一の戦いに、いつの間にか周りの子たちも、熱くなってきたみたい。

「あの転校生すげーぞ!」
「芹沢、負けるなよ!」

 みんな割って入って来るんじゃなくて、どっちが勝つかに注目して、応援の声が飛ぶ。
 こうなったら、ますます負けられない。
 激しい動きを何度も繰り返してしだいに息が上がってくるけど、それは沖くんも同じ。少しずつ表情に疲れが見えてきて、ほんの一瞬、動きに隙ができる。

「今だ!」
「くっ!」

 できた隙をついて、今度こそボールを奪う。
 もちろん沖くんも、すかさずそれを奪い返そうとするけど、さっき沖くんにやられたみたいに、サッとそれをかわす。
 だけど、その時だった。

「あっ!」

 思わず声をあげる。
 ボールを奪い損ねた沖くんはその勢いで足を滑らせる。大きく体勢が崩れて、叩きつけられるように、地面に向かって派手に転倒していた。

「だ、大丈夫?」

 こんなことになったら、サッカーどころじゃない。
 坂田先生や他の子たちも一斉に集まって、沖くんの様子を見る。

「これくらい平気だって……痛っ!」

 平気って言った直後、顔を歪めて、足を押さえる沖くん。
 転んだ拍子に、足を打ったみたい。

「保健室に連れていかないと」

 坂田先生がそう言ったところで、わたしはすかさず手を上げた。

「わたし、連れていきます!」

 わたしとのプレーの最中にケガしたんだもん。誰かに任せるなんてできないよ。

「別に大したことないから、一人で大丈夫だって」
「でも沖くん、保健室の場所知ってるの? 転校してきたばかりでしょ」
「まあ……そうだな。それじゃあ、頼む」

 というわけで、わたしが保健室に連れていくこと決定。
 早速、沖くんの体の下に手を入れて、そのまま持ち上げようとする。

「ちょっと待て。何してる!?」
「何って、抱えようとしてるんだけど」

 そう言うと、沖くんは、なぜかとたんに慌て出す。

「いい! 自分で歩いていく!」
「大丈夫だって。これでもけっこう力あるから、落としたりしないよ」

 毎日の修行で鍛えてあるからね。
 なのに沖くんは、全然信用してないみたい。

「やめろ! はなせ!」
「ちょっと、暴れないでよ。危ないでしょ」
「恥ずかしいんだよ!」

 よーし。こうなったら。
 沖くんを横向きに抱えたまま、両手を使ってガッチリ固定する。
 実はこれ、暴れる相手を取り押さえる、忍者の技のひとつなの。

「お前、ここで忍者の技使うのは反則だろ」
「ふふーん。バレなきゃいいの」

 そんなわたしたちを見て、そばにいたユキちゃんとがボソリと「お姫様抱っこ」って言ってたけど、なんのことだろう?
 まあいいや。声をあげる沖くんを抱えたまま、そのままわたしは、保健室に向かって歩いていった。
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