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第9話 沖君、学校に来る

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 というわけで、その日は早めに寝て、次の日の朝は、いつも修行のために起きる時間より、さらに早く起きる。

 お父さん、しばらくの間、修行は基礎練習って言ってたけど、そういう時は道場でけいこするんだよね。
 ちょっぴり早く行って、自分から鍛えておくんだから。

 だけど、そう思いながら道場の戸を開けると、まだ誰もいないはずのそこに、二メートルを超える大男がいた。

「ぎゃっ!」

 びっくりして声をあげると、そこで気づく。
 この大男、沖くんが変身したやつだったんだ。

「沖くんだよね。なんでいるの!?」
「なんだお前か。昨日師匠に、ここの道場の鍵をもらったんだ。朝の修行の時は自由に入っていいし、自主練してもいいって言われてる」
「そうなんだ。って、いったいいつからいたの?」

 今だって、いつも修行をはじめる時間よりも、ずっと早い。
 沖くん、どれだけ早く来てるのさ?

「ちょっと前。たくさん修行して、もっと上達しないとな」
「早すぎだよ!」

 わたしだっていつもより早く起きたのに、それより早いなんてどれだけ!?

 なんて思っていたら、また道場の戸が開いて、今度はお父さんがやってきた。

「おや。真昼ももう起きたのか。どうだ。沖くん君の変化の術、凄いだろ」

 確かに、こんなに色んな姿になれるなんてすごいかも。
 だけどその時、大男に化けていた沖くんの姿が、急に元の男の子に戻る。
 沖くんは、疲れたのか、ゼイゼイと息を切らしてた。

「なるほど。長い間化けたり、一度にたくさんのものに化けたりすると、その分疲れるみたいだね」
「すみません。もっと鍛えて、たくさん化けても大丈夫なようになります」

 どうやら、いくらでも化けられるってわけじゃないみたい。
 わたしの忍法もそうだけど、凄い力ってのは、使えば使うほど疲れるんだよね。

「鍛えるのはいいけど、決して無理しちゃいけないよ。焦って体を壊したら、そっちの方が大変だからね」
「はい」

 沖くん、お父さん相手には素直なんだよね。
 一方、わたしとは未だに微妙な距離感。わたしが忍者になる気はないって言ってから、ずっと当たりがきつく感じるよ。

 それからは、二人揃って修行開始。
 今日の修行は、腕立てや手裏剣投げみたいな基礎練習がほとんどだったけど、これは沖くんがどれだけできるか見るって目的もあったみたい。

 そして練習するのは、体力面だけじゃない。

「おっ。沖くん、パソコンも使えるのか」
「はい。他にも、電子機器の使い方について勉強しています」

 わたしたちがやってるのは、なんとパソコンの使い方講座。
 ちなみに、体力ではわたしも沖くんもあんまり差はなかったけど、わたし、機械は苦手なの。

「に、忍者にパソコンなんて必要ないじゃない!」

 沖くんに負けるのが悔しくてそう言ったけど、それは逆効果だった。

「なに言ってるんだ。最近のセキュリティシステムは大抵パソコンと繋がってるから、忍者が敵地に忍び込む時には、パソコンは絶対必要だろう。他にも、尾行する相手にこっそり発信機を付けたりもする。令和の忍者は、ハイテク機器のエキスパートでなければならないんだ」

 そうでした。
 そういうの、お父さんから時々聞かされてるけど、わたしのもってる忍者のイメージと違って、いまいち結びつかないんだよね。

「まあお前は、忍者にならないから使えなくてもいいんじゃないか」

 むっ!
 どうしてそういちいち突っかかってくるかな!
 けど体力勝負ならともかく、こっちはとても適いそうにない。
 ああ、もう! 今日はわたしが勝つぞって思ってたのに!

「二人とも、ケンカしない。それより、そろそろ朝ごはんにしようか。あまり遅くなると、学校に遅刻するかもしれないからね。沖くんも食べていきなさい」
「はい。ありがとうございます」

 時計を見ると、思ったよりも時間が経っていた。これ以上遅くなると大慌てで学校に行くことになっちゃうよ。
 というわけで、早速朝ごはんの準備開始。
 するとその途中、茶の間に、うちの学校の鞄が置いてあるのを見つけた。
 けどそれはわたしのじゃなくて、それになんだか新しい。

「これ、誰の?」
「ああ、俺のだ。今日から通うからな」

 えっ? 通うって、うちの学校に?

「沖くん、転校してくるの?」
「そうだけど、言ってなかったか?」
「言ってないよ!」

 学校でも一緒なんて、なんだか色々騒がしくなりそう。
 なんて思ってたら、お父さんが近くにやってきて、わたしだけに聞こえるくらいの小さな声で囁いた。

「できるだけでいいから、学校で沖くんが困っていたら、助けてやってくれないか。親から離れて、新しい暮らしが始まるんだ。平気そうにしてるけど、不安も大きいだろうし、何かと大変だと思うんだ」

 確かに、それはすっごく大変かも。

 けど沖くんは、わたしの助けなんていらないって言いそうなんだけど、どうだろう?
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