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最終話 いつも隣にいる親友に、僕はキュンとさせられる
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僕は、病室のベッドで目を覚ます。姉ちゃんから借りた少女マンガはあるけど、入院中はどうしても退屈で、寝る時間が多くなってしまう。
けとまあ、そんな生活もとりあえず明日までだ。
その時、ガラッと扉を開く音がした。やって来たのは裕二だ。
「よ、よう」
学校が終わってそのままここに来たみたいで、制服のまま。というか、この時間からすると、授業が終わった後すぐさまやって来たんだろうなっのがわかる。
そう思うとなんだか嬉しくて、顔がほころんでしまう。
「きてくれてありがとう。会いたかった」
「バ、バカ。恥ずかしいこと言うな。それよりよかったな、元気になって。明日退院なんだろ」
そう。ドキドキハートシンドロームの発作はあれ以来出てなくて、病院の先生からも、これなら退院しても大丈夫だと言われたんだ。
「裕二が僕にキュンをくれたおかげだよ。ありがとう」
「だから、そういう恥ずかしいこと言うなって。俺までキュンとするだろ」
「えぇ~っ。いいじゃないかキュンとしたって。むしろ、キュンとさせたくて言ってるんだよ。いいじゃないか、恋人なんだし」
「なっ──いや、まあ、それはそうなんだが……」
恥ずかしそうにモジモジする裕二。それを見て、またキュンとせずにはいられなくなる。
ドキドキハートシンドロームの真実と、僕の気持ち。その二つを告げた後、僕らはなんやかんやでトントン拍子に付き合うことになり、今や恋人同士だ。
だってそうだろ。お互い想いあってるし、おまけにドキドキハートシンドロームもなんとかなる。そうなると、もはや付き合う以外の選択肢なんてない。
「けどな面太郎。キュンによるドキドキで病気がなんとかなるってこと、ちゃんと知っておけよ」
「えぇっ、またその話? 何度も聞いたし、もういいじゃない」
「よくない。それがわかってたら、あんな風にケンカすることもなかったじゃないか」
このことに関しては、最初に説明してから今まで、何度もギャーギャー言われている。
まあ、裕二にしてみれば相当心配したんだろうし、無理もないことかもしれない。僕としても、さすがに人騒がせだったかって思う。
けどね、それはそれとして、ある意味それもよかったんじゃないかって、ちょっとだけ思うんだ。
「でもさ、最初からキュンによるドキドキが効果的だとわかってたとして、それで素直に僕と裕二が恋人になれたと思う?」
「それは……難しかったかもな」
だよね。僕と裕二、それぞれが抱えている気持ちに真っ先に気づいたのは、川井さん。そのきっかけになったのは、裕二と喧嘩して悩む僕の様子を見たからだ。
そして、最初からキュンとすることでドキドキハートシンドロームが改善するってわかっていたら、きっとその喧嘩はなかっただろう。
色々大変な思いもしたけど、その末に裕二と恋人になった今があるんだから、きっとこれでよかったんだ。
「ところでよ、そのドキドキハートシンドロームっていうふざけた病気は、完治したってわけじゃないんだろ」
「うん。ポジティブな感情によるドキドキで心臓を活性化させることはできるけど、時間が経ったりネガティブなドキドキをたくさん味わったりしたら、また心臓が止まる危険も出てくるんだって」
これは、改めて医者の先生から聞いた、確かな話だ。そして、ドキドキハートシンドロームに完治は無い。退院した後も、いつ危険な状態になるかはわからないと言われている。
「そうか……」
少しだけ、裕二が不安げになる。もしかすると、入院するきっかけになった発作のことを思い出しているのかもしれない。
けどね、実は僕は、そんなには心配していない。
「大丈夫だよ。心臓が止まる暇もないくらい、何度もたくさんキュンとすればいいんだから。たとえば、こんな風にね──」
そこまで言うと、僕はそっと、裕二の唇に自らのそれを重ねた。
その途端、裕二の顔がみるみる赤くなる。
「お、お、お前。どこでこんな技覚えた!」
「どこって、川井さんが貸してくれたBLマンガで」
実は川井さん、なんと隠れ腐女子だったんだ。裕二の僕に対する気持ちや、僕自身に自覚がなかった思いにいち早く気づけたのはそのためだ。
ちなみに、僕と裕二が恋人になったのを見て、めちゃめちゃキュンキュンしたと言ってくれた。
なんでも、自らが恋をする以上に、推しカップルを愛でる方がずっとずっとキュンとするらしい。だから、自分のことは気にせずこれからもたくさんイチャついてと言ってくれた。
川井さんをフッてしまったことはどうしても心に引っかかっていたけど、そんな風に言ってもらえて、少し気持ちが楽になったよ。
さらに、恋人になった僕たちへの参考資料として、BLマンガも貸してくれた。
「こんなことされ続けたら、俺の心臓の方が先にどうにかなりそうなんだけど。キュン死にしたらどうするんだよ」
「その時は、またキュンとさせて無理やりにでも動かすよ。止まった心臓だって、ドキドキさせてやるんだから」
未だ顔を赤くしている裕二の顎を掴んで、こっちに引き寄せる。するとますます動揺して、それを見た僕はキュンキュンする。
「ねえ裕二。僕と一緒に、ずっとキュンキュンしてよね」
「し、仕方ねえな。お前の心臓のためだ。いくらでもキュンとさせてやるよ」
僕の胸キュン探しは、裕二と恋人になったことで終わりを迎えた。
そしてこれからは、裕二と二人で胸キュンを作っていくんだ。
おしまい
けとまあ、そんな生活もとりあえず明日までだ。
その時、ガラッと扉を開く音がした。やって来たのは裕二だ。
「よ、よう」
学校が終わってそのままここに来たみたいで、制服のまま。というか、この時間からすると、授業が終わった後すぐさまやって来たんだろうなっのがわかる。
そう思うとなんだか嬉しくて、顔がほころんでしまう。
「きてくれてありがとう。会いたかった」
「バ、バカ。恥ずかしいこと言うな。それよりよかったな、元気になって。明日退院なんだろ」
そう。ドキドキハートシンドロームの発作はあれ以来出てなくて、病院の先生からも、これなら退院しても大丈夫だと言われたんだ。
「裕二が僕にキュンをくれたおかげだよ。ありがとう」
「だから、そういう恥ずかしいこと言うなって。俺までキュンとするだろ」
「えぇ~っ。いいじゃないかキュンとしたって。むしろ、キュンとさせたくて言ってるんだよ。いいじゃないか、恋人なんだし」
「なっ──いや、まあ、それはそうなんだが……」
恥ずかしそうにモジモジする裕二。それを見て、またキュンとせずにはいられなくなる。
ドキドキハートシンドロームの真実と、僕の気持ち。その二つを告げた後、僕らはなんやかんやでトントン拍子に付き合うことになり、今や恋人同士だ。
だってそうだろ。お互い想いあってるし、おまけにドキドキハートシンドロームもなんとかなる。そうなると、もはや付き合う以外の選択肢なんてない。
「けどな面太郎。キュンによるドキドキで病気がなんとかなるってこと、ちゃんと知っておけよ」
「えぇっ、またその話? 何度も聞いたし、もういいじゃない」
「よくない。それがわかってたら、あんな風にケンカすることもなかったじゃないか」
このことに関しては、最初に説明してから今まで、何度もギャーギャー言われている。
まあ、裕二にしてみれば相当心配したんだろうし、無理もないことかもしれない。僕としても、さすがに人騒がせだったかって思う。
けどね、それはそれとして、ある意味それもよかったんじゃないかって、ちょっとだけ思うんだ。
「でもさ、最初からキュンによるドキドキが効果的だとわかってたとして、それで素直に僕と裕二が恋人になれたと思う?」
「それは……難しかったかもな」
だよね。僕と裕二、それぞれが抱えている気持ちに真っ先に気づいたのは、川井さん。そのきっかけになったのは、裕二と喧嘩して悩む僕の様子を見たからだ。
そして、最初からキュンとすることでドキドキハートシンドロームが改善するってわかっていたら、きっとその喧嘩はなかっただろう。
色々大変な思いもしたけど、その末に裕二と恋人になった今があるんだから、きっとこれでよかったんだ。
「ところでよ、そのドキドキハートシンドロームっていうふざけた病気は、完治したってわけじゃないんだろ」
「うん。ポジティブな感情によるドキドキで心臓を活性化させることはできるけど、時間が経ったりネガティブなドキドキをたくさん味わったりしたら、また心臓が止まる危険も出てくるんだって」
これは、改めて医者の先生から聞いた、確かな話だ。そして、ドキドキハートシンドロームに完治は無い。退院した後も、いつ危険な状態になるかはわからないと言われている。
「そうか……」
少しだけ、裕二が不安げになる。もしかすると、入院するきっかけになった発作のことを思い出しているのかもしれない。
けどね、実は僕は、そんなには心配していない。
「大丈夫だよ。心臓が止まる暇もないくらい、何度もたくさんキュンとすればいいんだから。たとえば、こんな風にね──」
そこまで言うと、僕はそっと、裕二の唇に自らのそれを重ねた。
その途端、裕二の顔がみるみる赤くなる。
「お、お、お前。どこでこんな技覚えた!」
「どこって、川井さんが貸してくれたBLマンガで」
実は川井さん、なんと隠れ腐女子だったんだ。裕二の僕に対する気持ちや、僕自身に自覚がなかった思いにいち早く気づけたのはそのためだ。
ちなみに、僕と裕二が恋人になったのを見て、めちゃめちゃキュンキュンしたと言ってくれた。
なんでも、自らが恋をする以上に、推しカップルを愛でる方がずっとずっとキュンとするらしい。だから、自分のことは気にせずこれからもたくさんイチャついてと言ってくれた。
川井さんをフッてしまったことはどうしても心に引っかかっていたけど、そんな風に言ってもらえて、少し気持ちが楽になったよ。
さらに、恋人になった僕たちへの参考資料として、BLマンガも貸してくれた。
「こんなことされ続けたら、俺の心臓の方が先にどうにかなりそうなんだけど。キュン死にしたらどうするんだよ」
「その時は、またキュンとさせて無理やりにでも動かすよ。止まった心臓だって、ドキドキさせてやるんだから」
未だ顔を赤くしている裕二の顎を掴んで、こっちに引き寄せる。するとますます動揺して、それを見た僕はキュンキュンする。
「ねえ裕二。僕と一緒に、ずっとキュンキュンしてよね」
「し、仕方ねえな。お前の心臓のためだ。いくらでもキュンとさせてやるよ」
僕の胸キュン探しは、裕二と恋人になったことで終わりを迎えた。
そしてこれからは、裕二と二人で胸キュンを作っていくんだ。
おしまい
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