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第2話 胸キュンマスター誕生
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「ぐぉーーーーーっ! うわぁーーーーーっ! ふぎゃーーーーーっ!」
ここは僕の家。今僕の隣では、さっきから裕二が奇声をあげては、ピョンピョン飛び跳ねたり、床をダンダン叩いたり、その上をゴロゴロ転がったりしている。
なぜそんなことになっているかというと、答えは簡単。少女マンガ、女性向けラノベを読み漁り、乙女ゲームをプレイしたからだ。
あれから数日。僕にキュンを体験させるためには、まずキュンがなんたるかを知らなければならない。というわけで、キュンの研究のため我が家に来て少女マンガを読み漁ることにしたんだけど、裕二は少女マンガ初心者。甘々ドキドキのシーンをこれでもかってくらい見た彼は、気持ちの高ぶりを抑えられなくなり、それを発散させるため、こうした奇行に走っているんだ。
少女マンガや乙女ゲームが好きな人ならわかるよね。
「はぁ……はぁ……少女マンガって、こんなに凄かったんだな。よし、これで俺もキュンがなんたるかを理解した。胸キュンマスターと読んでくれ。今なら、恋愛小説を書いてカクヨムコンで受賞できる気がする」
「それはいくらなんでもカクヨムコンを舐めすぎだと思うけと、理解してくれたのはよかった。それで、どうすれば僕はキュンとできると思う?」
すると裕二、いや胸キュンマスターは、天高く拳を突き上げ、大仰に言い放つ。
「キュンへの近道はかわいい女の子にあり。結局のところ、キュンとさせてくれる相手がいないと始まらない!」
「まあ、そうだろうね」
当たり前のことを、さも大発見のように語る胸キュンマスター。大丈夫かな?
「問題は、その相手を誰にするかだ。何しろお前はリアルで一度もキュンとしたことのない奴だ。イケメンを無駄づかいしまくっている朴念仁だ。並大抵の子じゃ、何も感じないまま終わってしまうだろう」
「あれ? なんだか僕、ディスられてる?」
「とにかく、お前をキュンとさせるためには、とびきり可愛い子を用意しなければならない!」
「なるほど。けど、そんな宛あるの?」
「ああ。まあ、見てろって」
翌日。僕と裕二は、学校へ向かう道の途中、物影に隠れながら行き交う生徒たちを観察していた。
「おっ。見ろ面太郎、彼女が来たぞ」
そう言って裕二が指さしたのは、僕たちと同じクラスの川井さんだ。
しばらくの間彼女を見ていろ。そう裕二に言われ、その通りにしていると、急に強い風が吹いてきた。
「ああっ、私のハンカチが──!」
たまたま出していたハンカチが風に煽られ、宙を舞う。するとその途端、近くを歩いていた男子たちの目が光った。
彼らは一斉に川井さんのハンカチめがけて駆け出すと、未だ天高く舞っているそれに向かって、我先にと手を伸ばす。数人が、ジャンピングキャッチをしようとして押し合いになる。その様子は、まるでバスケの選手がリバウンドし合っているのを見ているようだった。バスケのことよく知らないけど。
そうして見事ハンカチを手にしたのは、一際背の高い男子。手にした瞬間、ガッツポーズをとって雄叫びをあげていた。
彼は川井さんの元へと近づくと、さっきまであんなアクティブな動きをしていたとは思えないほどカチカチになりながら、彼女にハンカチを差し出した。
「か……かかか川井さん。君のハンケチ、拾っておいてあげたよ!」
拾ったというか、掴み取っただけどね。あと、ハンカチがハンケチになってるよ。
「うん、見てたよ。ありがとう」
川井さんは笑顔でそう言い、ハンカチを受け取る。同時に、差し出された男子の手をギュッと握った。
「ハンカチをキャッチしたところ、すっごくカッコよかった」
手を握ったまま、上目遣いで言う川井さん。気のせいか、彼女の背景に花やシャボン玉が浮かんでいるように見えた。
「ぐふっ!」
その瞬間、声をあげて倒れ込む男子。「我が生涯に一片の悔い無し!!」と言って、そのまま気絶しちゃった。
彼だけじゃない。さっきまでハンカチを取り合っていた他の男子たちも、それを見て次々と倒れていく。
「ねえ裕二、なにあれ?」
「あれがキュンというやつだ。クラス一、いや学校一可愛い川井さんは、ごく自然とこんな事態を引き起こしているのだ」
「へぇ、そうなんだ。今まで気づかなかったけど、すごいね川井さんは」
「気づかない方がどうかしてる。お前、隣の席だろ」
そう。僕と川井さんはクラスが同じなだけでなく、席が隣同士だ。
けど可愛い子だなとは思ってたけど、あそこまで凄いなんて知らなかったよ。
「これだもんな。言っとくけど、お前の周りでも、女子があんな風にバタバタ倒れていったことが何度もあるからな」
「えっ、あれってそういうことだったの? みんな体調が悪いのかなって心配してたんだけど」
「俺はお前の鈍感ぶりの方が心配だよ。ムダにイケメンな上に超鈍感なせいで、キュンとさせるのも難易度が激高だ。怪獣で例えるとゴジラクラスだ。だからこそ、相手役に川井さんをあてがうわけだ。ゴジラを倒すなら、キングギドラみたいなのを用意しなきゃだめだろ」
僕はゴジラ、川井さんはキングギドラなんだ。
「今まではともかく、一度川井さんの良さに気づいたら、お前だってキュンとしやすくなるだろう。少女マンガでも、それまでなんとも思ってなかった相手に、意識したとたん急にキュンとするようになったって展開がいくつもあった」
「なるほど、確かに」
「というわけで、これから川井さんと接する機会があったら、少しは意識して見てみろ」
「わかったよ。けど、川井さんとは席は隣だけど特別仲がいいってわけじゃないし、そんなに接する機会なんてあるかな?」
「大丈夫だ。この胸キュンマスターに任せろ。なんかこう、あれこれやって、いい感じにしてやるよ」
胸を張る裕二。いや胸キュンマスター。何をするつもりなのか知らないけど、とりあえず任せるよ。
ここは僕の家。今僕の隣では、さっきから裕二が奇声をあげては、ピョンピョン飛び跳ねたり、床をダンダン叩いたり、その上をゴロゴロ転がったりしている。
なぜそんなことになっているかというと、答えは簡単。少女マンガ、女性向けラノベを読み漁り、乙女ゲームをプレイしたからだ。
あれから数日。僕にキュンを体験させるためには、まずキュンがなんたるかを知らなければならない。というわけで、キュンの研究のため我が家に来て少女マンガを読み漁ることにしたんだけど、裕二は少女マンガ初心者。甘々ドキドキのシーンをこれでもかってくらい見た彼は、気持ちの高ぶりを抑えられなくなり、それを発散させるため、こうした奇行に走っているんだ。
少女マンガや乙女ゲームが好きな人ならわかるよね。
「はぁ……はぁ……少女マンガって、こんなに凄かったんだな。よし、これで俺もキュンがなんたるかを理解した。胸キュンマスターと読んでくれ。今なら、恋愛小説を書いてカクヨムコンで受賞できる気がする」
「それはいくらなんでもカクヨムコンを舐めすぎだと思うけと、理解してくれたのはよかった。それで、どうすれば僕はキュンとできると思う?」
すると裕二、いや胸キュンマスターは、天高く拳を突き上げ、大仰に言い放つ。
「キュンへの近道はかわいい女の子にあり。結局のところ、キュンとさせてくれる相手がいないと始まらない!」
「まあ、そうだろうね」
当たり前のことを、さも大発見のように語る胸キュンマスター。大丈夫かな?
「問題は、その相手を誰にするかだ。何しろお前はリアルで一度もキュンとしたことのない奴だ。イケメンを無駄づかいしまくっている朴念仁だ。並大抵の子じゃ、何も感じないまま終わってしまうだろう」
「あれ? なんだか僕、ディスられてる?」
「とにかく、お前をキュンとさせるためには、とびきり可愛い子を用意しなければならない!」
「なるほど。けど、そんな宛あるの?」
「ああ。まあ、見てろって」
翌日。僕と裕二は、学校へ向かう道の途中、物影に隠れながら行き交う生徒たちを観察していた。
「おっ。見ろ面太郎、彼女が来たぞ」
そう言って裕二が指さしたのは、僕たちと同じクラスの川井さんだ。
しばらくの間彼女を見ていろ。そう裕二に言われ、その通りにしていると、急に強い風が吹いてきた。
「ああっ、私のハンカチが──!」
たまたま出していたハンカチが風に煽られ、宙を舞う。するとその途端、近くを歩いていた男子たちの目が光った。
彼らは一斉に川井さんのハンカチめがけて駆け出すと、未だ天高く舞っているそれに向かって、我先にと手を伸ばす。数人が、ジャンピングキャッチをしようとして押し合いになる。その様子は、まるでバスケの選手がリバウンドし合っているのを見ているようだった。バスケのことよく知らないけど。
そうして見事ハンカチを手にしたのは、一際背の高い男子。手にした瞬間、ガッツポーズをとって雄叫びをあげていた。
彼は川井さんの元へと近づくと、さっきまであんなアクティブな動きをしていたとは思えないほどカチカチになりながら、彼女にハンカチを差し出した。
「か……かかか川井さん。君のハンケチ、拾っておいてあげたよ!」
拾ったというか、掴み取っただけどね。あと、ハンカチがハンケチになってるよ。
「うん、見てたよ。ありがとう」
川井さんは笑顔でそう言い、ハンカチを受け取る。同時に、差し出された男子の手をギュッと握った。
「ハンカチをキャッチしたところ、すっごくカッコよかった」
手を握ったまま、上目遣いで言う川井さん。気のせいか、彼女の背景に花やシャボン玉が浮かんでいるように見えた。
「ぐふっ!」
その瞬間、声をあげて倒れ込む男子。「我が生涯に一片の悔い無し!!」と言って、そのまま気絶しちゃった。
彼だけじゃない。さっきまでハンカチを取り合っていた他の男子たちも、それを見て次々と倒れていく。
「ねえ裕二、なにあれ?」
「あれがキュンというやつだ。クラス一、いや学校一可愛い川井さんは、ごく自然とこんな事態を引き起こしているのだ」
「へぇ、そうなんだ。今まで気づかなかったけど、すごいね川井さんは」
「気づかない方がどうかしてる。お前、隣の席だろ」
そう。僕と川井さんはクラスが同じなだけでなく、席が隣同士だ。
けど可愛い子だなとは思ってたけど、あそこまで凄いなんて知らなかったよ。
「これだもんな。言っとくけど、お前の周りでも、女子があんな風にバタバタ倒れていったことが何度もあるからな」
「えっ、あれってそういうことだったの? みんな体調が悪いのかなって心配してたんだけど」
「俺はお前の鈍感ぶりの方が心配だよ。ムダにイケメンな上に超鈍感なせいで、キュンとさせるのも難易度が激高だ。怪獣で例えるとゴジラクラスだ。だからこそ、相手役に川井さんをあてがうわけだ。ゴジラを倒すなら、キングギドラみたいなのを用意しなきゃだめだろ」
僕はゴジラ、川井さんはキングギドラなんだ。
「今まではともかく、一度川井さんの良さに気づいたら、お前だってキュンとしやすくなるだろう。少女マンガでも、それまでなんとも思ってなかった相手に、意識したとたん急にキュンとするようになったって展開がいくつもあった」
「なるほど、確かに」
「というわけで、これから川井さんと接する機会があったら、少しは意識して見てみろ」
「わかったよ。けど、川井さんとは席は隣だけど特別仲がいいってわけじゃないし、そんなに接する機会なんてあるかな?」
「大丈夫だ。この胸キュンマスターに任せろ。なんかこう、あれこれやって、いい感じにしてやるよ」
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