22 / 27
第22話 目を疑う光景
しおりを挟む
「まったく、こんな状況で痴話喧嘩とは。君達は大物だよ」
それには、返す言葉もない。
けど、しょうがないじゃない。イチフサと一緒にいると、どうしてもこんな感じになっちゃうんだから。
そのイチフサは、気を取り直したように再び身構える。だけど、それを見た鹿王はため息をついた。
「やめておこう。何だか白けちゃったからね」
そう言った彼に、さっきまで見せていた威圧感は残って無かった。
一方、イチフサや人吉くんは、まだまだ警戒中だ。何しろ周りには、鹿王以外にも妖怪だらけ。そいつらも大人しくしてはいるけど、とても簡単には気を抜けない。
「どういうつもりだ?」
「どうもこうも、君こそ本気で僕とやり合うつもりだったのかい? 同じ里の仲間で、この虫も殺さぬ平和主義者の僕と? 悲しいねぇ」
よよよと、わざとらしく泣く仕草をする鹿王。いや、虫も殺さぬって、ついさっき私のこと殺そうとしてなかった?
いったい、この人はどこまで本気なんだろう。
「私たちを見逃すって言うの? それ、信じていいの?」
「おや、疑うのかい? 見逃してやってもいいとは、さっきも言ったじゃないか」
「それは、私がイチフサと会うのを諦めたらでしょ」
諦めるかどうか、ハッキリ答えを出す前にイチフサ自身が来たんだけど、この場合どうなるのよ。
「少なくとも、今は手出はしない。そのかわり、君たちにはこれから里まで来てもらうよ。イチフサも、それでいいかい?」
鹿王はそう言うと、なんだか含みのあるような視線をイチフサに向ける。
もちろん私には、それにどんな意味があるかなんて、さっぱりわからない。だけどイチフサは、それである程度納得したみたいだ。
「えっと、そういうわけだから、今からみんなには里まで来てもらうことになるんだけど、いい?」
「いいわよ。って言うか、この状況じゃそうする以外ないでしょ」
元々こっちは、イチフサに会うため妖怪の里まで行くつもりたんだ。今さら、そんなのかまわない。
「人吉、お煎餅。君達もそれでいい?」
「ああ。けど、妙なことをしたら思いっきり暴れてやるからな」
「ボクもいいニャ」
人吉くん達とも話がついたところで、私達は、山の中をさらに奥へと向かっていく。
先頭を歩くのは鹿王。いつの間にか、彼とイチフサ以外の妖怪は、こぞって姿を消していた。
「ねえ。妖怪の里に行くのはいいけど、あとどれくらいかかるの?」
前を歩くイチフサに聞いてみる。鹿王やイチフサと会う前に歩いたのを合わせると、けっこうな距離になりそうだ。
「もうすぐだよ。って言うか、もう里の一部に入ってるからね」
「えっ、ここが?」
普通に歩いただけだといけない場所って聞いてたけど、とてもそんな気がしない。
「意外だった? でも、闇雲に歩いただけじゃ、絶対に辿り着けないようになってるんだ」
そういうものなんだ。どういう理屈かは全然わからないけど、イチフサの言う通り、間もなくして、開けた場所へと出る。
数は多くないけど、古めかしい作りの家がいくつか並んでいて、いかにも山の中の集落って感じだ。
「ここが妖怪の里か。話には聞いていたが、こんな風になっているんだな」
「人吉くんも、来るのは初めてなのよね」
「ああ。ここまで来るのは祓い屋の中でも上の人達。それも、大事な話がある時くらいだって聞いてる。なのにわざわざ俺達を連れて来て、どうしようって言うんだ」
あの場で戦うなんてことにならなかったのはいいけど、これから私達がどうなるか、肝心なことはまだ何も聞かされてない。
そのやり取りを聞いた鹿王が、少しだけ振り返ってこっちを見る。
「簡単に言うと、見学かな。イチフサが今この里で何をしようとしているのか、君たちにも見てもらう」
「つまり、どういうこと?」
もう少し詳しく聞きたかったけど、鹿王はそれ以上話す気はないようで、すぐにまた前を向き歩き出す。
そして、一番大きな建物の前で止まった。他の建物が家なら、これだけが屋敷って感じだ。
どうやらここが目的地みたいだ。
いったいこれから何が起きるんだろう。鹿王の話からすると、イチフサが何かしようとしてるようだけど、それだけじゃさっぱりわからない。
ただ、屋敷の中に入る前、そのイチフサが一言呟いた。
「結衣達が見たら、驚くことが待ってるかもね」
なにそれ? そんなこと言われたら、よけい不安になるんだけど。
だけどそれ以上話す時間はなかった。
屋敷に入り、廊下を少し歩いた先にある、大きな扉が開かれる。そしてそこには、イチフサの言う通り、驚きの光景が広がっていた。
「な、なにこれ……?」
扉の先にあったのは、大きな広間。そしてそこには、鬼に、一つ目の大男に、牛の頭をしたやつといった、揃いも揃ってすごい見た目の者が何人もいる。
わかっちゃいたけど、さすがは妖怪の里だ。
けれど、驚いたのはそこじゃない。そこにいる妖怪達は、ポテトチップやチョコレートのようなお菓子や、コンビニに売ってあるようなおにぎりを食べ、マンガや雑誌をめくり、スマホを手にして物珍しそうに眺めていた。
それには、返す言葉もない。
けど、しょうがないじゃない。イチフサと一緒にいると、どうしてもこんな感じになっちゃうんだから。
そのイチフサは、気を取り直したように再び身構える。だけど、それを見た鹿王はため息をついた。
「やめておこう。何だか白けちゃったからね」
そう言った彼に、さっきまで見せていた威圧感は残って無かった。
一方、イチフサや人吉くんは、まだまだ警戒中だ。何しろ周りには、鹿王以外にも妖怪だらけ。そいつらも大人しくしてはいるけど、とても簡単には気を抜けない。
「どういうつもりだ?」
「どうもこうも、君こそ本気で僕とやり合うつもりだったのかい? 同じ里の仲間で、この虫も殺さぬ平和主義者の僕と? 悲しいねぇ」
よよよと、わざとらしく泣く仕草をする鹿王。いや、虫も殺さぬって、ついさっき私のこと殺そうとしてなかった?
いったい、この人はどこまで本気なんだろう。
「私たちを見逃すって言うの? それ、信じていいの?」
「おや、疑うのかい? 見逃してやってもいいとは、さっきも言ったじゃないか」
「それは、私がイチフサと会うのを諦めたらでしょ」
諦めるかどうか、ハッキリ答えを出す前にイチフサ自身が来たんだけど、この場合どうなるのよ。
「少なくとも、今は手出はしない。そのかわり、君たちにはこれから里まで来てもらうよ。イチフサも、それでいいかい?」
鹿王はそう言うと、なんだか含みのあるような視線をイチフサに向ける。
もちろん私には、それにどんな意味があるかなんて、さっぱりわからない。だけどイチフサは、それである程度納得したみたいだ。
「えっと、そういうわけだから、今からみんなには里まで来てもらうことになるんだけど、いい?」
「いいわよ。って言うか、この状況じゃそうする以外ないでしょ」
元々こっちは、イチフサに会うため妖怪の里まで行くつもりたんだ。今さら、そんなのかまわない。
「人吉、お煎餅。君達もそれでいい?」
「ああ。けど、妙なことをしたら思いっきり暴れてやるからな」
「ボクもいいニャ」
人吉くん達とも話がついたところで、私達は、山の中をさらに奥へと向かっていく。
先頭を歩くのは鹿王。いつの間にか、彼とイチフサ以外の妖怪は、こぞって姿を消していた。
「ねえ。妖怪の里に行くのはいいけど、あとどれくらいかかるの?」
前を歩くイチフサに聞いてみる。鹿王やイチフサと会う前に歩いたのを合わせると、けっこうな距離になりそうだ。
「もうすぐだよ。って言うか、もう里の一部に入ってるからね」
「えっ、ここが?」
普通に歩いただけだといけない場所って聞いてたけど、とてもそんな気がしない。
「意外だった? でも、闇雲に歩いただけじゃ、絶対に辿り着けないようになってるんだ」
そういうものなんだ。どういう理屈かは全然わからないけど、イチフサの言う通り、間もなくして、開けた場所へと出る。
数は多くないけど、古めかしい作りの家がいくつか並んでいて、いかにも山の中の集落って感じだ。
「ここが妖怪の里か。話には聞いていたが、こんな風になっているんだな」
「人吉くんも、来るのは初めてなのよね」
「ああ。ここまで来るのは祓い屋の中でも上の人達。それも、大事な話がある時くらいだって聞いてる。なのにわざわざ俺達を連れて来て、どうしようって言うんだ」
あの場で戦うなんてことにならなかったのはいいけど、これから私達がどうなるか、肝心なことはまだ何も聞かされてない。
そのやり取りを聞いた鹿王が、少しだけ振り返ってこっちを見る。
「簡単に言うと、見学かな。イチフサが今この里で何をしようとしているのか、君たちにも見てもらう」
「つまり、どういうこと?」
もう少し詳しく聞きたかったけど、鹿王はそれ以上話す気はないようで、すぐにまた前を向き歩き出す。
そして、一番大きな建物の前で止まった。他の建物が家なら、これだけが屋敷って感じだ。
どうやらここが目的地みたいだ。
いったいこれから何が起きるんだろう。鹿王の話からすると、イチフサが何かしようとしてるようだけど、それだけじゃさっぱりわからない。
ただ、屋敷の中に入る前、そのイチフサが一言呟いた。
「結衣達が見たら、驚くことが待ってるかもね」
なにそれ? そんなこと言われたら、よけい不安になるんだけど。
だけどそれ以上話す時間はなかった。
屋敷に入り、廊下を少し歩いた先にある、大きな扉が開かれる。そしてそこには、イチフサの言う通り、驚きの光景が広がっていた。
「な、なにこれ……?」
扉の先にあったのは、大きな広間。そしてそこには、鬼に、一つ目の大男に、牛の頭をしたやつといった、揃いも揃ってすごい見た目の者が何人もいる。
わかっちゃいたけど、さすがは妖怪の里だ。
けれど、驚いたのはそこじゃない。そこにいる妖怪達は、ポテトチップやチョコレートのようなお菓子や、コンビニに売ってあるようなおにぎりを食べ、マンガや雑誌をめくり、スマホを手にして物珍しそうに眺めていた。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。
猫菜こん
児童書・童話
私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。
だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。
「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」
優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。
……これは一体どういう状況なんですか!?
静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん
できるだけ目立たないように過ごしたい
湖宮結衣(こみやゆい)
×
文武両道な学園の王子様
実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?
氷堂秦斗(ひょうどうかなと)
最初は【仮】のはずだった。
「結衣さん……って呼んでもいい?
だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」
「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」
「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、
今もどうしようもないくらい好きなんだ。」
……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
【完結】てのひらは君のため
星名柚花
児童書・童話
あまりの暑さで熱中症になりかけていた深森真白に、美少年が声をかけてきた。
彼は同じ中学に通う一つ年下の男子、成瀬漣里。
無口、無表情、無愛想。
三拍子そろった彼は入学早々、上級生を殴った不良として有名だった。
てっきり怖い人かと思いきや、不良を殴ったのはイジメを止めるためだったらしい。
話してみると、本当の彼は照れ屋で可愛かった。
交流を深めていくうちに、真白はどんどん漣里に惹かれていく。
でも、周囲に不良と誤解されている彼との恋は前途多難な様子で…?
【奨励賞】おとぎの店の白雪姫
ゆちば
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞 奨励賞】
母親を亡くした小学生、白雪ましろは、おとぎ商店街でレストランを経営する叔父、白雪凛悟(りんごおじさん)に引き取られる。
ぎこちない二人の生活が始まるが、ひょんなことからりんごおじさんのお店――ファミリーレストラン《りんごの木》のお手伝いをすることになったましろ。パティシエ高校生、最速のパート主婦、そしてイケメンだけど料理脳のりんごおじさんと共に、一癖も二癖もあるお客さんをおもてなし!
そしてめくるめく日常の中で、ましろはりんごおじさんとの『家族』の形を見出していく――。
小さな白雪姫が『家族』のために奔走する、おいしいほっこり物語。はじまりはじまり!
他のサイトにも掲載しています。
表紙イラストは今市阿寒様です。
絵本児童書大賞で奨励賞をいただきました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる