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第8話 中学でもボッチだけど何か?
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なんでいきなりそんなことを聞いてくるのよ?
突然の質問に、嫌な汗が流れてくるけど、それでもなんとか平静を装うとする。
「べ、別に普通よ。なんて言うか、平和そのもの」
嘘は言ってない。
小学生の頃の私は、妖怪を見たって騒いだことがあったせいで、周りからは変な子だって言われてた。けどあれから何年も経ったし、中学に進学したことで、それまでの私を知らない人もたくさんいて、今では変な子なんてちっとも言われてない。
だから、そういう意味では十分平和だ。それは間違いない。
けれどイチフサはまだ納得してない様子で、さらにこんなことを聞いてきた。
「じゃあ、友達はできた?」
「……て、できたわよ」
今度は、答えるのに少しだけ間があった。さっきも流れた嫌な汗が、さらにタラタラと流れてくる。
「そうなんだ。じゃあ、連絡先くらい交換してるよね」
「も、もちろんよ。言っとくけど、見せないからね。人のスマホの連絡先確認するなんて、そんなモラハラ彼氏みたいなことしないわよね。だいたい、なんで急にそんなこと聞くのよ」
「だって結衣、さっき同級生っぽい人たち見て、急に様子がおかしくなったじゃないか」
祭り会場から離れた時のことだ。同級生に会うのが嫌で咄嗟に逃げたけど、こいつしっかり覚えてたのか。
「あれ見て思ったんだよね。そういえば結衣、学校ではどうしてるんだろうって。中学に入った今は、うまくやっていけてるかなって。ねえ、どうなの?」
もう一度、イチフサが聞く。
適当に答えてやり過ごそうか。そう思ったけど、ここで嘘やごまかしをしても、うまくいくとは思えなかった。
「そ、そうよ。どうせ私は中学でもボッチよ。悪い!」
中学に入学してから数ヶ月。小学生の頃みたいに、変な子なんて言われなくなったのは本当だ。
けどだからって、友達ができたかっていうと、そうじゃない。
なにしろ学校で長年友達ができなかった私は、見事なコミュ障。誰かに話しかけることもできなければ、向こうから声をかけられても上手く話せず、その結果友達はゼロ。毎日クラスの片隅で、一人ポツンと過ごしてた。
「べ、別に、友達なんてできなくてもいいでしょ。小学校の頃からずっとボッチだったんだし、今更気にしないわよ。だいたいボッチでいるのがダメ風潮は、どうかしてるわよ。一部の陽キャやリア充の声が大きいから、友達多い方がいい、みんなの中心にいるやつが正義みたいになって、あーあ、ボッチなあいつかわいそうみたいな空気ができあがってるの。世の中、一人でいる方がいいってやつだっているんだからね。私は一人でも全然平気なんだから!」
勢いよく捲し立て、ボッチ上等ってのを、これでもかってくらいにアピールする。
なにしろこっちはボッチの大ベテラン。今さら友達ができなくたって平気よ。
「確かにね。一人がダメなんてことはないし、そんなの他のやつが言うことじゃない」
「でしょ」
「けどさ、それじゃあさっき、どうして友達ができた嘘なんてついたの?」
「それは……」
言葉に詰まって反論できなくなるのは、本当は平気じゃないって、私自身が一番よくわかってるからかもしれない。
いくら口では平気だって言っても、学校で一人でいると、つい寂しく感じる時がある。
イチフサと出会う前の、一人が嫌で泣いていた頃の自分を思い出す。今の私も、イチフサが近くにいなければ、その頃と何も変わらないような気がした。
「ねえ、どうなの?」
私の心を見透かすように、イチフサがもう一度聞く。やけに食い下がってくるのは、それだけ私のことを心配しているのかもしれない。
だけど……
「もういいでしょ。仮に、仮に寂しいと思ってたとしてもよ、私みたいな陰キャのコミュ障が、今さらどうにかできるわけないでしょ。そんなの悩むだけムダよ」
「……結衣、自分で言ってて悲しくならない?」
「なるわよ! だから、この話はここで終わり!」
キッパリ言い放って、食べかけだったりんご飴にかじりつく。
イチフサも、さすがにこれ以上はつよく言う気はないみたい。小さくため息をつくと、彼もまた食べるのを再開しはじめた。
ただ、ほんの少しだけ、ポツリと小声でつぶやく。
「学校の人たちも、結衣がどういうやつか知ったら、仲良くできると思うんだけどな。あーあ。俺が人間だったら、一緒に学校に通えるのに」
多分それは、独り言のようなものだと思う。だから私も返事はしない。
だけどそれは、私も何度か考えたことだった。
私とイチフサは、いつも会えるってわけじゃない。
基本、滅多に山から出てこないイチフサは、私から行かない限り、直接会う機会なんて滅多にない。スマホで通話したり、メッセージのやり取りをすることはあるけど、たまに、もっと会いたいって思うことがある。
もしもイチフサが一緒に学校に通えたら、いつももっと近くにいたら、きっと楽しいんだろうな。
本人には絶対言えない思いを、私はぐっと飲みこんだ。
突然の質問に、嫌な汗が流れてくるけど、それでもなんとか平静を装うとする。
「べ、別に普通よ。なんて言うか、平和そのもの」
嘘は言ってない。
小学生の頃の私は、妖怪を見たって騒いだことがあったせいで、周りからは変な子だって言われてた。けどあれから何年も経ったし、中学に進学したことで、それまでの私を知らない人もたくさんいて、今では変な子なんてちっとも言われてない。
だから、そういう意味では十分平和だ。それは間違いない。
けれどイチフサはまだ納得してない様子で、さらにこんなことを聞いてきた。
「じゃあ、友達はできた?」
「……て、できたわよ」
今度は、答えるのに少しだけ間があった。さっきも流れた嫌な汗が、さらにタラタラと流れてくる。
「そうなんだ。じゃあ、連絡先くらい交換してるよね」
「も、もちろんよ。言っとくけど、見せないからね。人のスマホの連絡先確認するなんて、そんなモラハラ彼氏みたいなことしないわよね。だいたい、なんで急にそんなこと聞くのよ」
「だって結衣、さっき同級生っぽい人たち見て、急に様子がおかしくなったじゃないか」
祭り会場から離れた時のことだ。同級生に会うのが嫌で咄嗟に逃げたけど、こいつしっかり覚えてたのか。
「あれ見て思ったんだよね。そういえば結衣、学校ではどうしてるんだろうって。中学に入った今は、うまくやっていけてるかなって。ねえ、どうなの?」
もう一度、イチフサが聞く。
適当に答えてやり過ごそうか。そう思ったけど、ここで嘘やごまかしをしても、うまくいくとは思えなかった。
「そ、そうよ。どうせ私は中学でもボッチよ。悪い!」
中学に入学してから数ヶ月。小学生の頃みたいに、変な子なんて言われなくなったのは本当だ。
けどだからって、友達ができたかっていうと、そうじゃない。
なにしろ学校で長年友達ができなかった私は、見事なコミュ障。誰かに話しかけることもできなければ、向こうから声をかけられても上手く話せず、その結果友達はゼロ。毎日クラスの片隅で、一人ポツンと過ごしてた。
「べ、別に、友達なんてできなくてもいいでしょ。小学校の頃からずっとボッチだったんだし、今更気にしないわよ。だいたいボッチでいるのがダメ風潮は、どうかしてるわよ。一部の陽キャやリア充の声が大きいから、友達多い方がいい、みんなの中心にいるやつが正義みたいになって、あーあ、ボッチなあいつかわいそうみたいな空気ができあがってるの。世の中、一人でいる方がいいってやつだっているんだからね。私は一人でも全然平気なんだから!」
勢いよく捲し立て、ボッチ上等ってのを、これでもかってくらいにアピールする。
なにしろこっちはボッチの大ベテラン。今さら友達ができなくたって平気よ。
「確かにね。一人がダメなんてことはないし、そんなの他のやつが言うことじゃない」
「でしょ」
「けどさ、それじゃあさっき、どうして友達ができた嘘なんてついたの?」
「それは……」
言葉に詰まって反論できなくなるのは、本当は平気じゃないって、私自身が一番よくわかってるからかもしれない。
いくら口では平気だって言っても、学校で一人でいると、つい寂しく感じる時がある。
イチフサと出会う前の、一人が嫌で泣いていた頃の自分を思い出す。今の私も、イチフサが近くにいなければ、その頃と何も変わらないような気がした。
「ねえ、どうなの?」
私の心を見透かすように、イチフサがもう一度聞く。やけに食い下がってくるのは、それだけ私のことを心配しているのかもしれない。
だけど……
「もういいでしょ。仮に、仮に寂しいと思ってたとしてもよ、私みたいな陰キャのコミュ障が、今さらどうにかできるわけないでしょ。そんなの悩むだけムダよ」
「……結衣、自分で言ってて悲しくならない?」
「なるわよ! だから、この話はここで終わり!」
キッパリ言い放って、食べかけだったりんご飴にかじりつく。
イチフサも、さすがにこれ以上はつよく言う気はないみたい。小さくため息をつくと、彼もまた食べるのを再開しはじめた。
ただ、ほんの少しだけ、ポツリと小声でつぶやく。
「学校の人たちも、結衣がどういうやつか知ったら、仲良くできると思うんだけどな。あーあ。俺が人間だったら、一緒に学校に通えるのに」
多分それは、独り言のようなものだと思う。だから私も返事はしない。
だけどそれは、私も何度か考えたことだった。
私とイチフサは、いつも会えるってわけじゃない。
基本、滅多に山から出てこないイチフサは、私から行かない限り、直接会う機会なんて滅多にない。スマホで通話したり、メッセージのやり取りをすることはあるけど、たまに、もっと会いたいって思うことがある。
もしもイチフサが一緒に学校に通えたら、いつももっと近くにいたら、きっと楽しいんだろうな。
本人には絶対言えない思いを、私はぐっと飲みこんだ。
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