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三島啓太のやること1
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【三島side】
藤崎の様子がおかしい。
北野がそう言って俺に詰め寄ってきたのは、部活動紹介のあった次の日の昼休みのことだった。
「ねえ、藍に何があったのよ。どう見ても朝から様子がおかしいじゃない」
北野はそう言って、教室の隅で一人席についている藤崎を見る。
その藤崎はというと、どこか暗い表情をしていて、何か良くないことがあったんだろうと一目でわかった。
「何聞いても上の空だし、何かあったの? 昨日の部活紹介で、思うように演奏できてなかったとか?」
「そんなの俺だって分かんねえよ。そりゃ、演奏は上手くなかったけど、楽しかったって言ってたし、他にあったことといえば、顧問の先生が決まったくらいだ。後は知らねえ」
藤崎の様子がおかしいことくらい、わざわざ北野に言われなくても、俺だって気づいてた。
けどどうしたんだって聞いても、返って来たのは、何でもないの一言。
しかもその声だって、元気がなかった。
それで、何でもないわけないだろ。
俺の答えにガッカリする北野だけど、話はまだ終わらない。
「心当たりとかも無いの?」
「だから、知らねえって言ってるだろ」
知ってたら、こんなにモヤモヤしたりしない。
俺だってずっと気になってるんだ。
「俺にどうこう言うより、お前が藤崎に直接聞いたらいいんじゃないか?」
「聞いたよ。だけど何も無いって言われて、それで終わり。そんな訳ないのに」
北野も、こうしてわざわざ俺に声をかけるくらいだから、その前に藤崎に聞いていたのも当然か。
北野は、藤崎の一番仲のいい友達だ。
そんな北野が聞いてもダメだったなら、いよいよ、俺が何か聞いても話してくれるとは思えなかった。
「それじゃお手上げだな。お前で無理なら、俺にどうにかできるわけないだろ」
それだけ言うと、席を立って教室から出て行く。
後ろから北野の呼ぶ声が聞こえてきたが、振り返ることは無かった。
……けれど、俺がさっき北野に話したことには、少しだけ嘘があった。
藤崎に何があったのかは知らないが、その心当たりなら、全く無いわけじゃない。
何か具体的な根拠なんてあるわけじゃないが、あれだけ藤崎がの様子を変えてしまうものなんて、ひとつしか考えられない。
有馬優斗先輩だ。
「先輩と、何かあったんだろうな」
そこまで考えたところで、何だか胸の奥がザワザワとして、落ち着かなくなる。
面白くないんだ。藤崎が、先輩のことで喜ぶのも、悲しむのも。
まだ俺や藤崎が小学生だった頃、誰よりも藤崎を笑顔にさせることができたのは、有馬先輩だった。
俺が藤崎にあれこれちょっかいをかけて泣かせた時だって、そこに先輩がやってくれば、藤崎は決まって笑顔になった。
それを見て、何度腹を立てたかわからない。
けどな、俺の知る限り、一番藤崎を泣かせたのも、先輩なんだ。
先輩が亡くなった時、藤崎がどんなに泣いていたかは、今でも昨日のことのように思い出せる。
俺がどんな意地悪をした時だって、あんなに大泣きしたことなんてなかった。
藤崎にとって、先輩はそれだけ大事な存在だった。
藤崎の一番は、間違いなくあいつだった。
まあ、例えどんなに大切に思っていても、今となっては過去の人。
生きてる俺たちにとっては、二度と直接関わることのない相手だ。
ほんの少し前までは、そんな風に思っていた。
なのに────
そんなことを考えながら、俺は本校舎をでて部室棟に、そして、軽音部部室の前に来ていた。
藤崎の様子がおかしい。
北野がそう言って俺に詰め寄ってきたのは、部活動紹介のあった次の日の昼休みのことだった。
「ねえ、藍に何があったのよ。どう見ても朝から様子がおかしいじゃない」
北野はそう言って、教室の隅で一人席についている藤崎を見る。
その藤崎はというと、どこか暗い表情をしていて、何か良くないことがあったんだろうと一目でわかった。
「何聞いても上の空だし、何かあったの? 昨日の部活紹介で、思うように演奏できてなかったとか?」
「そんなの俺だって分かんねえよ。そりゃ、演奏は上手くなかったけど、楽しかったって言ってたし、他にあったことといえば、顧問の先生が決まったくらいだ。後は知らねえ」
藤崎の様子がおかしいことくらい、わざわざ北野に言われなくても、俺だって気づいてた。
けどどうしたんだって聞いても、返って来たのは、何でもないの一言。
しかもその声だって、元気がなかった。
それで、何でもないわけないだろ。
俺の答えにガッカリする北野だけど、話はまだ終わらない。
「心当たりとかも無いの?」
「だから、知らねえって言ってるだろ」
知ってたら、こんなにモヤモヤしたりしない。
俺だってずっと気になってるんだ。
「俺にどうこう言うより、お前が藤崎に直接聞いたらいいんじゃないか?」
「聞いたよ。だけど何も無いって言われて、それで終わり。そんな訳ないのに」
北野も、こうしてわざわざ俺に声をかけるくらいだから、その前に藤崎に聞いていたのも当然か。
北野は、藤崎の一番仲のいい友達だ。
そんな北野が聞いてもダメだったなら、いよいよ、俺が何か聞いても話してくれるとは思えなかった。
「それじゃお手上げだな。お前で無理なら、俺にどうにかできるわけないだろ」
それだけ言うと、席を立って教室から出て行く。
後ろから北野の呼ぶ声が聞こえてきたが、振り返ることは無かった。
……けれど、俺がさっき北野に話したことには、少しだけ嘘があった。
藤崎に何があったのかは知らないが、その心当たりなら、全く無いわけじゃない。
何か具体的な根拠なんてあるわけじゃないが、あれだけ藤崎がの様子を変えてしまうものなんて、ひとつしか考えられない。
有馬優斗先輩だ。
「先輩と、何かあったんだろうな」
そこまで考えたところで、何だか胸の奥がザワザワとして、落ち着かなくなる。
面白くないんだ。藤崎が、先輩のことで喜ぶのも、悲しむのも。
まだ俺や藤崎が小学生だった頃、誰よりも藤崎を笑顔にさせることができたのは、有馬先輩だった。
俺が藤崎にあれこれちょっかいをかけて泣かせた時だって、そこに先輩がやってくれば、藤崎は決まって笑顔になった。
それを見て、何度腹を立てたかわからない。
けどな、俺の知る限り、一番藤崎を泣かせたのも、先輩なんだ。
先輩が亡くなった時、藤崎がどんなに泣いていたかは、今でも昨日のことのように思い出せる。
俺がどんな意地悪をした時だって、あんなに大泣きしたことなんてなかった。
藤崎にとって、先輩はそれだけ大事な存在だった。
藤崎の一番は、間違いなくあいつだった。
まあ、例えどんなに大切に思っていても、今となっては過去の人。
生きてる俺たちにとっては、二度と直接関わることのない相手だ。
ほんの少し前までは、そんな風に思っていた。
なのに────
そんなことを考えながら、俺は本校舎をでて部室棟に、そして、軽音部部室の前に来ていた。
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