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第五章
47:いつかダイヤモンドを
しおりを挟むアレクの胸の上で、マリィシャは石を数える。ひとつ、ふたつ、みっつ……。どれもこれも、美しい色合いをしていた。
「あ、また。ほら見て、アレク」
指先から、赤い宝石がこぼれ落ちる。
「ルビーか。その色だと少し心臓に悪いな」
ぷくりと指先を彩った赤い色は、血のように見える。眉を寄せたアレクに、マリィシャは笑った。
「しかし、これだけ上質なものを、おいそれと店先に置くわけにもいくまい。この際宝石のことはウィルに任せるか?」
胸の上の宝石たちをつまみ上げ、アレクは口にする。確かに、不用心かもしれないとマリィシャは思った。専門的な知識を持った人に預けられるなら、そちらの方がいい。
「いいのか? でもアレク、前は俺が石を売るの……良く思ってないみたいだったのに」
「お前にとって、価値のある石を生めるということがどれだけ重要なのか、理解していなかったからな。マリィシャが確かにリュトスであるという証しだ。お前の負担にならないなら、私の仕事はその販路を確保することだろう」
マリィシャは胸の上でぱちぱちと目を瞬いた。リュトスにとって、大切な人を想って綺麗な宝石を生めるということは、そのまま自分の価値につながる。少なくとも、リュトスなのに石も生めないなんてと言われてきたマリィシャにとっては、そうだった。
アレクはそれを理解して、受け入れて、道を広げてくれる。
嬉しくなって伸び上がり、ちゅっと唇にキスをした。
「なあ、アレクはさ、何がいちばん好き?」
「宝石でか?」
「うん。あっ、別にそれを意図して生めるってわけでもないんだけど」
アレクのことを想って生まれてくる石ならば、アレクの好きな石ならいいと思った。なんでもいいは駄目だと言ってやったら、困ったような顔をする。
「私はそう石に詳しいわけではないんだが……そうだな、お前がさっき生んだこのシトリンもエメラルドも綺麗だ。左手のリュースもまた透明度が上がっていて美しい」
左手をそっと取り、青いリュースに口づけてくれる。
この石に神経が通っているわけでもないのに、触れてくる唇の感触をまざまざと抱かせられて、頬が染まる。先ほどまでの濃密な行為を体が思い出してしまいそうだ。
「だ、だめ、ひとつだけ」
「それなら、ダイヤモンド……だろうか」
「ダイヤモンド? なんで」
難しいものを言ってくるなと、マリィシャは小首を傾げた。ダイヤモンドはメジャーかつ、価値の高いものだ。リュトスの間でも、生みたい宝石として人気があった。もちろん、マリィシャだって生んでみたい。
だけど、アレクがそれを挙げるとは思わなかった。やはり価値の高いものの方がいいのだろうかと体を起こしたら、指先で髪を梳き上げられた。
「お前のこの髪……光に透けてキラキラするだろう。どうかすると七色に見える。だから……ダイヤモンドがいい」
カアッと頬が染まる。思っていたのとは全然違う理由で、溢れてくる気持ちが恥ずかしくて照れくさい。自分が考えているよりずっと想われているのだろうかと、胸が熱くなってくる。
「そ、そっか。いつか生めたら、いちばんに見せるから」
「ああ、楽しみにしているぞ」
笑うアレクの唇に、マリィシャは小さなキスを落とす。アレクがダイヤモンドのようだと言った銀の髪が、シーツに散らばった。
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