おじさんとボク

浅上秀

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魅惑の水族館デート

あっという間の癒しの時間

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「うわぁ!」

狭くて暗い廊下を抜けると天井高く広がる巨大な水槽が現れた。
自分たちの身長を余裕で超えてしまうような巨大な魚や小魚の大きな群れ、見たこともない色の魚が悠々と泳いでいる。

「はぁ…」

「おじさん」は水槽に圧倒されてしまっていた。
今日だけでなく日がな日自身を痛めつけていたモヤモヤした感情が全て浄化されたような気がしたのだ。

「すごいですねぇ」

ミノルくんは水槽の前に置かれた手すりを両手で握りしめて身を乗り出すように魚たちに顔を近づける。

「ほんとうだね…」

「おじさん」もミノルくんに倣って水槽に顔を近づける。
目の前をゆったりと魚が流れていく。

「わ、あそこ見てください!あそこ!」

ミノルくんが何やら興奮した様子で水槽を指さす。

「どこだい?」

「おじさん」は目線でミノルくんの指先を追いかける。

「あそこの大きな魚さんのお腹の下、いっぱい小さな魚さんがいますよ」

「お、あれかな」

二人はのんびりと満足するまで魚を眺め続けたのだった。



「お土産屋さんだー!」

最後の水槽に見送られながら物販コーナーにたどり着いた。
ミノルくんははしゃぎながらぬいぐるみを抱きしめたり、個性的な深海生物のキーホルダーを突いている。

「…何か買ってあげようか?」

イルカのぬいぐるみと睨めっこをしていたミノルくんに「おじさん」は思わず声をかけた。

「いえいえ!大丈夫です!自分で買えますよ」

ミノルくんは首を横に振った。

「いや、これも何かの縁だから。せっかくだから欲しいもの選びなさい」

「い、いいんですか?」

「あぁ、もちろん」

ミノルくんは嬉しそうに手に持っていたイルカを差し出した。

「イルカのぬいぐるみだけでいいのかな?」

「はい!」

二人はレジに向かった。
ミノルくんは袋にいれずに剥き出しのままイルカのぬいぐるみを抱えている。

「ありがとうございます。大切にします」

ミノルはイルカに頬擦りをした。
「おじさん」はありし日の自分の家族のことを思い返していた。
ふと手元の腕時計を見るとまだ終電には余裕のある時間だ。

「良かったからこれからご飯でも…」

「それじゃあまたどこかで~」

全力で「おじさん」に向かって手を振ったミノルくんはスキップでもするかのように軽やかに歩きながら「おじさん」から離れていく。

「あ、あぁ」

しばらくの間、「おじさん」は途方に暮れていた。
もしかしたら先ほどまで一緒にいたミノルくんは幻なのではないかとさえ持ったが、しっかりと財布の中のお金は二人分の水族館とチケット代とイルカのぬいぐるみ代が減っていた。

「…帰って家族サービスでもするか」

「おじさん」の顔には笑顔が戻っていたのだった。

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