真実はゴミに潜む

浅上秀

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会社の毒華

3話

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簡清株式会社は朝9時に営業開始で昼に1時間休憩が入り午後6時には定時ということになっている。
それがまともに守られたことは一度もないだろう。
ことデンや梅迫は特に。
事務所に戻ると収集したゴミを仕分けてそれをパソコンにデータ入力していく。
そうすると名簿のようなものができあがる。
それらは毎月、岳剛社長が確認してどこかに持っていくのでデンは行方を知らない。
梅迫はなんとなく知っているようだが口には出さない。

分担としてはデンは収集したゴミのデータ入力に追われ、梅迫は本来は社長がやるような内務的な業務をおこなうのが常だ。
事務所にはデンと梅迫と事務員、三人がパソコンのキーボードをたたく音だけが反響していた。
そんな中で事務所のガラス張りの扉がギコギコ音を立てて開いた。

「お疲れ様です」

「お疲れ様です」

「お疲れ様です」

無言で張ってきた岳剛社長は三人の挨拶を無視しながら従業員のデスクの島を通り越して社長室に向かっていった。
部屋の中の電気が灯ったのをみてデンは小さくため息を吐く。
岳剛社長はすぐに事務所から出ていくときは電気をつけないが居座る時は絶対に電気をつけるのだ。
事務員がおもむろに立ち上がるとお茶を入れて社長室に持って行った。
これもルーティーンである。

「おい、池田」

社長室の分厚い扉の向こうから岳剛社長の少し低い声がデンを呼んだ。

「はーい」

デンはノロノロ立ち上がると社長室の扉をノックして開く。
入室した瞬間に罵声が飛んできた。

「おせぇんだよ。呼んだらすぐ来いって何回言ったらわかるんだよ。これだから頭の悪い奴は嫌いなんだよ」

岳剛社長は大きな舌打ちをした。

「すんません」

デンは俯いて岳剛社長の暴言をやり過ごす。
正直、デンはまともに岳剛社長の顔を正面からみたことはない。
しかし心の中では贅におぼれたその身体を視界に入れながらいつも地元の有名な肥満体系の友人の顔を思い浮かべている。
横暴な部分がそっくりなのだ。

「ったく、さっさとさっきの書類よこせや」

「はい」

愛人との旅行の予約表を手渡すと再び大きな舌打ちをしながら受け取る。

「領収書は」

「もう提出済みです」

岳剛社長はデンの返事に対して無言だった。



社長室から出ることを許されたデンはヨロヨロと席に戻った。

「話、終わったか?」

梅迫が出てきたデンに声をかける。

「まぁはい」

社長からのお叱りは乗り越えたが机の上にはまだまだ書類が山積みになっているデンはため息を漏らす。

「じゃあ俺もいってくるか」

書類の束を片手に梅迫も社長室に入っていった。
再び社長室からはいつも通り怒号が事務所中を響き渡るが全員もう慣れたものだった。



梅迫が社長室から出てきて数分後、岳剛社長が無言で出てきた。
社長室の電気は消えている。
車のカギをカチャカチャ言わせながら事務所の扉から出ていった。
ほっとした空気が事務所を包む。

「それじゃあお先に失礼します」

社長が出ていった数分後、一足先に事務員が仕事を終えたようでカバンを持ち、グレーのコートを羽織って事務所を出ていく。

「お疲れ様です」

デンと梅迫はキーボードを叩きつづけながら彼女を見送る。
そんな二人が事務所を出ることができたのはその3時間後だった。

「今日の分、終わったか?」

梅迫は自分の使っていたパソコンの電源を落としながらデンに尋ねる。

「なんとか」

デンは両腕を上に伸ばす。
背中からはボキボキと音が聞こえる。

「帰るか」

荷物を持って事務所の電気を消して外に出て鍵を閉める。
まだ電車は残っているので二人で駅にむかって歩き始める。

「明日久しぶりに休みっすね」

「そういえばそうだな」

彼らの休日はゴミ処理場が休みの日、ということになっている。
規則上は週休二日と定めているが、週に二日も休めたことがないことが現実だ。

「明日は朝から社長はゴルフみたいだからな、終日」

「じゃあ呼び出されないっすね」

ゴルフ中、仕事のことは忘れたいのか滅多に連絡がこないのだ。
岳剛社長は仕事関係の人とゴルフに行っても仕事の話は一切しない。
彼曰く仕事とゴルフは別だそうだ。

「一杯、飲んで帰るか」

「一杯で終わりますかね」

二人はニヤニヤしながら駅前の居酒屋の暖簾をくぐっていった。





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