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4話
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※グロ、注意
どこからか鳥の鳴き声がする。
ニワトリだろうか。
「コケコッコー、コケコッコー、ンギャァァ」
「んぎゃあ?」
又二郎はニワトリのただならぬ泣き声に目が覚めた。
瞼を開くと見慣れない天井が目に入った。
「ここは…」
起き上ると二日酔い独特の鈍痛が頭に響いた。
記憶をたどり、昨夜は急ぎ働きのつもりで侵入した屋敷で寝泊まりしたことを思い出した。
「あの後、寝ちまったのか…」
隣の布団をみると掛け布団から三郎の足が飛び出していた。
三郎は気持ちよさそうにいびきをかいて眠っていた。
眠ったままの三郎をそのままに又二郎は襖を開けて部屋を出た。
しかしそれは間違いだった。
中庭は地獄絵図になっていた。
血が滴り、生臭い匂いがあふれていた。
朝から凄惨な状態に又二郎は吐き気がした。
「あ、又二郎さん、おはようございます」
「あ、あぁ、おはよう…じゃねぇや!!」
昨日の男が血の付いた鉈を片手に挨拶してきた。
思わず又二郎はツッコんでしまった。
「な、なんだいこの血は…」
「あ、これですかい?」
ずいっと男は切り落としたてで逆さまにした軍鶏の頭を見せてきた。
「ぎゃあぁぁぁぁ」
「朝、新鮮なのをこうして解体してるんですよ」
縁側にいる又二郎と血まみれの中庭にいる男の間を首のない軍鶏が走り回っている。
「こいつぁ、元気でしてね。首落としてもこうやってしばらく走るんでさぁ」
男は笑顔で教えてくれるが、又二郎は失神しかけていた。
又二郎は押し込みの仕事はしないので血には馴染みがなかった。
「はは、そろそろ邪魔かぁ」
そういうと男は首を放り、ちょうど目の前に来た胴体を捕まえた。
切り株のような台に乗せると、手際よく裁いていく。
羽根がむしられ、肉にいなっていく。
「これ、昨日鍋でご馳走したとこでっせ」
生肉や足をみせられて又二郎はさらに気分が悪くなった。
「お、おいらちょっと厠に…」
「あ、あぁ、厠でしたらあちらに…」
男が言い終わる前に又二郎は厠に走り込んだ。
…
ようやく落ち着いて厠を出ると、三郎の叫び声が聞こえた。
「ぎやぁぁぁぁぁ、又二郎のお頭ぁぁ」
又二郎は走って三郎の元にむかった。
「お頭がぁ、お頭がぁ、」
三郎がおいおい泣いている。
「おい、どうしたんだい、三郎」
「で、でたーーー!」
又二郎が声をかけると三郎が飛び上がった。
「出たってなんでぇ、失礼だねぇ、人を幽霊みたいに…」
「へ?幽霊じゃあないんですかい?」
又二郎の言葉を聞いて三郎が途端に泣き止む。
「あたりめぇじゃねぇか。こんな明るいうちから出歩く幽霊がどこにいるってよ」
「あ、そっか」
三郎が涙をふく。
「いやぁ、おいらてっきりお頭がやられちまったかと…」
二人で中庭に視線をむける。
あいかわらず血の海が広がっている。
そして切り株のような台には、先ほど軍鶏を裁くのに用いていた鉈が刺さっていた。
「ま、まぁこれを見りゃあ無理もねぇか…」
「う、うう、なんなんすか…」
男が桶を抱えて戻ってきた。
「おや、三郎さん、おはようございます」
「あ、旦那、おはようございます」
「叫び声が聞こえたので何事かと思いましたよ」
「い、いやぁ、ちょっと驚いちまって…」
男は笑いながら中庭に降りる。
桶から水をまきながら血を流していく。
「あはは、すいませんね、軍鶏を裁くのが日課なもんで」
「軍鶏?」
「まぁ、ニワトリのことでさぁ」
「へー…」
男が中庭を片付ける様子を二人でぼーっと眺めていた。
すると三郎がボソッと又二郎に話しかけてきた。
「お頭ぁ」
「なんだ、三郎」
「あっしたち二人、昨日は何してたんでしたっけ?」
「急ぎ働きだなぁ」
「お頭ぁ」
「なんだ、三郎」
「あっしたちもニワトリみたいに裁かれるんですかねぇ」
「そりゃあ勘弁だなぁ」
「お頭ぁ」
「なんだ、三郎」
「あっしたち、とんでもねぇとこに来ちまったんじゃ…」
「なーにをいまさら…」
二人でぼけーっと話していると片付け終わった男が声をかけた。
「お二人とも、朝飯はいかがなさいますかい?」
「え、もらえるんですかい?」
「ええ、よろしければご一緒に」
「いっ、いただきやす!!」
「お、おいこら三郎!」
「あはは、いいんですよ、どうぞどうぞ」
男は昨夜と変わらぬ笑顔で二人に朝食を用意してくれた。
鍋に入った雑炊だった。
二日酔いの二人の身体にだしの優しい味がしみ込んでいく。
「んん、あっし、こんなに美味ぇ雑炊食ったの初めてでさぁ…」
三郎が泣きながら雑炊を頬張る。
「あ、あぁ、たしかにうめぇや…」
又二郎も涙目になりながら雑炊を頬張った。
「それはなによりで」
男が湯呑みに人数分のお茶を注ぎながら答えた。
そしてお茶を配ると男も二人に負けじと雑炊を頬張り始めた。
…
三人の男で鍋の中に大量にあった雑炊をあっという間に食べつくしてしまった。
「あー、食った食った」
又二郎は寝っ転がった。
三郎は男を手伝うといって器や鍋を持って台所に一緒に向かった。
片付けが終わったのか男と三郎が談笑しながら部屋に戻ってきた。
そこで又二郎が男に切り出した。
「あんた、ここの店主だろ?なんでおいらたちのような盗人をもてなしたんだい?」
どこからか鳥の鳴き声がする。
ニワトリだろうか。
「コケコッコー、コケコッコー、ンギャァァ」
「んぎゃあ?」
又二郎はニワトリのただならぬ泣き声に目が覚めた。
瞼を開くと見慣れない天井が目に入った。
「ここは…」
起き上ると二日酔い独特の鈍痛が頭に響いた。
記憶をたどり、昨夜は急ぎ働きのつもりで侵入した屋敷で寝泊まりしたことを思い出した。
「あの後、寝ちまったのか…」
隣の布団をみると掛け布団から三郎の足が飛び出していた。
三郎は気持ちよさそうにいびきをかいて眠っていた。
眠ったままの三郎をそのままに又二郎は襖を開けて部屋を出た。
しかしそれは間違いだった。
中庭は地獄絵図になっていた。
血が滴り、生臭い匂いがあふれていた。
朝から凄惨な状態に又二郎は吐き気がした。
「あ、又二郎さん、おはようございます」
「あ、あぁ、おはよう…じゃねぇや!!」
昨日の男が血の付いた鉈を片手に挨拶してきた。
思わず又二郎はツッコんでしまった。
「な、なんだいこの血は…」
「あ、これですかい?」
ずいっと男は切り落としたてで逆さまにした軍鶏の頭を見せてきた。
「ぎゃあぁぁぁぁ」
「朝、新鮮なのをこうして解体してるんですよ」
縁側にいる又二郎と血まみれの中庭にいる男の間を首のない軍鶏が走り回っている。
「こいつぁ、元気でしてね。首落としてもこうやってしばらく走るんでさぁ」
男は笑顔で教えてくれるが、又二郎は失神しかけていた。
又二郎は押し込みの仕事はしないので血には馴染みがなかった。
「はは、そろそろ邪魔かぁ」
そういうと男は首を放り、ちょうど目の前に来た胴体を捕まえた。
切り株のような台に乗せると、手際よく裁いていく。
羽根がむしられ、肉にいなっていく。
「これ、昨日鍋でご馳走したとこでっせ」
生肉や足をみせられて又二郎はさらに気分が悪くなった。
「お、おいらちょっと厠に…」
「あ、あぁ、厠でしたらあちらに…」
男が言い終わる前に又二郎は厠に走り込んだ。
…
ようやく落ち着いて厠を出ると、三郎の叫び声が聞こえた。
「ぎやぁぁぁぁぁ、又二郎のお頭ぁぁ」
又二郎は走って三郎の元にむかった。
「お頭がぁ、お頭がぁ、」
三郎がおいおい泣いている。
「おい、どうしたんだい、三郎」
「で、でたーーー!」
又二郎が声をかけると三郎が飛び上がった。
「出たってなんでぇ、失礼だねぇ、人を幽霊みたいに…」
「へ?幽霊じゃあないんですかい?」
又二郎の言葉を聞いて三郎が途端に泣き止む。
「あたりめぇじゃねぇか。こんな明るいうちから出歩く幽霊がどこにいるってよ」
「あ、そっか」
三郎が涙をふく。
「いやぁ、おいらてっきりお頭がやられちまったかと…」
二人で中庭に視線をむける。
あいかわらず血の海が広がっている。
そして切り株のような台には、先ほど軍鶏を裁くのに用いていた鉈が刺さっていた。
「ま、まぁこれを見りゃあ無理もねぇか…」
「う、うう、なんなんすか…」
男が桶を抱えて戻ってきた。
「おや、三郎さん、おはようございます」
「あ、旦那、おはようございます」
「叫び声が聞こえたので何事かと思いましたよ」
「い、いやぁ、ちょっと驚いちまって…」
男は笑いながら中庭に降りる。
桶から水をまきながら血を流していく。
「あはは、すいませんね、軍鶏を裁くのが日課なもんで」
「軍鶏?」
「まぁ、ニワトリのことでさぁ」
「へー…」
男が中庭を片付ける様子を二人でぼーっと眺めていた。
すると三郎がボソッと又二郎に話しかけてきた。
「お頭ぁ」
「なんだ、三郎」
「あっしたち二人、昨日は何してたんでしたっけ?」
「急ぎ働きだなぁ」
「お頭ぁ」
「なんだ、三郎」
「あっしたちもニワトリみたいに裁かれるんですかねぇ」
「そりゃあ勘弁だなぁ」
「お頭ぁ」
「なんだ、三郎」
「あっしたち、とんでもねぇとこに来ちまったんじゃ…」
「なーにをいまさら…」
二人でぼけーっと話していると片付け終わった男が声をかけた。
「お二人とも、朝飯はいかがなさいますかい?」
「え、もらえるんですかい?」
「ええ、よろしければご一緒に」
「いっ、いただきやす!!」
「お、おいこら三郎!」
「あはは、いいんですよ、どうぞどうぞ」
男は昨夜と変わらぬ笑顔で二人に朝食を用意してくれた。
鍋に入った雑炊だった。
二日酔いの二人の身体にだしの優しい味がしみ込んでいく。
「んん、あっし、こんなに美味ぇ雑炊食ったの初めてでさぁ…」
三郎が泣きながら雑炊を頬張る。
「あ、あぁ、たしかにうめぇや…」
又二郎も涙目になりながら雑炊を頬張った。
「それはなによりで」
男が湯呑みに人数分のお茶を注ぎながら答えた。
そしてお茶を配ると男も二人に負けじと雑炊を頬張り始めた。
…
三人の男で鍋の中に大量にあった雑炊をあっという間に食べつくしてしまった。
「あー、食った食った」
又二郎は寝っ転がった。
三郎は男を手伝うといって器や鍋を持って台所に一緒に向かった。
片付けが終わったのか男と三郎が談笑しながら部屋に戻ってきた。
そこで又二郎が男に切り出した。
「あんた、ここの店主だろ?なんでおいらたちのような盗人をもてなしたんだい?」
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