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番外編
マリの話
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これはマリに子供が生まれて少し経った頃、ルリ子が浩太に出会う少し前のお話である。
…
「ねぇ、そういえばマリの話とかゆっくり聞く暇なかったよね」
昼寝をした赤ん坊を三人で見守っていた時、サキが言った。
「え~そんなの今更いいよ」
マリは恥ずかしそうに言う。
「聞かせてほしいわ!」
キラキラしたルリ子の目に促されてマリはゆっくり話始める。
…
マリが旦那である隆に出会ったのは大学生になってアルバイトを始めた時だった。
高校は女子高、サキやルリ子といることが多く、あまり異性と接する機会がなかった。
マリは大学の入学式より前の春休みからアルバイトを始めていた。
ファーストフード店での接客の経験は絶対に将来に生きる、と三つ上の姉に力説された影響が大きい。
入ったばかりのマリに優しく接して業務を教えてくれたのが先輩アルバイトの隆だった。
連絡先を交換してからはあっという間に親しくなり、隆からの告白で入学前に付き合い始めた。
マリは三人の中で彼氏が一番最初にできたのが自慢だった。
「マリ、こんどシフトの休み合わせて泊まりに行こうか」
「うん、行きたい」
ルリ子が工藤と出会ってすったもんだしている間、マリはそれなりに充実した日々を過ごしていた。
ただしそれはある日、浮気現場をみかけるまでのこと…。
平日の昼間、社会人になった隆となかなか会えず、バイトの休みを持て余していたマリがたまたま新しい服でもと街に出てきていた時のことだった。
隆が歩いているのを見かけた。
「あ、隆、なにして、るの」
声をかけようとしたが尻つぼみになった。
それもそのはず。
隆の腕には知らない女がくっついていた。
スーツ姿の二人のあとをつけるとラブホテルに入っていったのだ。
マリは無言で写真に収めるととぼとぼと帰宅した。
何度の写真を見返しては、自己嫌悪にさいなまれた。
「いつかは知ることになってたのかなぁ」
潮時なのだろうか。
でも隆とは離れたくない。
ジレンマに押しつぶされそうだった。
「よぉ、マリ、最近つれねぇな。他に男でもできたか?」
冗談めかして言ってくる隆に腹が立った。
「それはあんたでしょ!」
言ってやりたかったが言えなかった。
無言でいると彼はいきなり怒りだした。
「沈黙は肯定っていうんだよっ」
「きゃっ」
マリをいきなり床に押し倒した隆はそのままマリを犯した。
泣き叫ぶマリなど眼中にはなかった。
やがて行為が終わると隆は無言で出て行ってしまい、マリ一人になった。
「アフターピル、もらいに行かないと」
分かってはいたが、身体が動かなかった。
内心、このまま子供ができたら隆は浮気なんてやめて自分だけを見てくれるのではないか、とも思ってしまった。
そしてそのまま時が流れ、マリはお腹に子供がいることに気が付いてしまった。
…
「それであの日になるわけだ」
「旦那さんは浮気してるし、マリは妊娠してるしで私、パニックになってしまったもの」
ルリ子はケラケラと笑った。
「本当にお騒がせしました…」
仕事から帰ってきた隆が肩身を狭そうにしている。
「二人のおかげだもんね」
マリが嬉しそうに笑う。
…
烈火のごとく怒ったサキに促されるがまま、マリは隆を喫茶店に呼び出した。
「ったく、忙しいのに何の用だよ」
女の香水をつけたまま現れた隆にサキは頭から水をぶっかけた。
「妊婦の隣で刺激臭嗅がせてんじゃねーよ」
「へ?」
「あらあら」
呆ける隆にルリ子はおしぼりを差し出す。
「マリ、言ってなかったんでしょ?今、言いなよ」
「う、うん、隆、私妊娠したの…」
「妊娠したって、本当に俺の子供かよ」
睨みつけてきた隆にまたサキが怒った。
「あんたと違ってマリは浮気なんてしてないからね」
「はい、こちら証拠写真です」
ルリ子が追い打ちをかけるように写真をみせると隆はうろたえた。
「男ならちゃんと責任取れ!魔が差したとか言ったら私たちが許さないからね」
サキの凄みに隆は一歩、引いていた。
「…悪かったよマリ」
「もう、浮気しない?」
「しない。あと責任取ってマリと結婚する」
「ほ、ほんと?」
「私たち二人が証人なんだからね。嘘ついたり、また浮気したら地獄の果てまで追いかけてやる」
サキの怨念の籠った視線に参ったのか、隆は折れた。
元彼女と体の関係だけ切れていなかっただけのようだ。
二度とマリを裏切らないという念書まで書かせたサキに恐れ入った。
…
「いやぁ、本当にあの時のサキさんは怖かった」
隆が遠い目をしている。
大学を卒業してからそこそこ大手の企業に勤めている。
サキがよっぽど怖いのか、わが子がかわいいのか積極的に育児にも参加している。
マリは大学在学中に隆と結婚してそのまま出産になったので、社会に出ることができていないが、いずれ子供が大きくなったら働いてみたいと思っているそうだ。
「マンガみたいな話だけど、三人が幸せならよかった」
ルリ子は改めて家族というものにあこがれを抱きながら、浮気だなんだともめていたことを考えると恋愛って面倒くさいな、と思うのであった。
…
「ねぇ、そういえばマリの話とかゆっくり聞く暇なかったよね」
昼寝をした赤ん坊を三人で見守っていた時、サキが言った。
「え~そんなの今更いいよ」
マリは恥ずかしそうに言う。
「聞かせてほしいわ!」
キラキラしたルリ子の目に促されてマリはゆっくり話始める。
…
マリが旦那である隆に出会ったのは大学生になってアルバイトを始めた時だった。
高校は女子高、サキやルリ子といることが多く、あまり異性と接する機会がなかった。
マリは大学の入学式より前の春休みからアルバイトを始めていた。
ファーストフード店での接客の経験は絶対に将来に生きる、と三つ上の姉に力説された影響が大きい。
入ったばかりのマリに優しく接して業務を教えてくれたのが先輩アルバイトの隆だった。
連絡先を交換してからはあっという間に親しくなり、隆からの告白で入学前に付き合い始めた。
マリは三人の中で彼氏が一番最初にできたのが自慢だった。
「マリ、こんどシフトの休み合わせて泊まりに行こうか」
「うん、行きたい」
ルリ子が工藤と出会ってすったもんだしている間、マリはそれなりに充実した日々を過ごしていた。
ただしそれはある日、浮気現場をみかけるまでのこと…。
平日の昼間、社会人になった隆となかなか会えず、バイトの休みを持て余していたマリがたまたま新しい服でもと街に出てきていた時のことだった。
隆が歩いているのを見かけた。
「あ、隆、なにして、るの」
声をかけようとしたが尻つぼみになった。
それもそのはず。
隆の腕には知らない女がくっついていた。
スーツ姿の二人のあとをつけるとラブホテルに入っていったのだ。
マリは無言で写真に収めるととぼとぼと帰宅した。
何度の写真を見返しては、自己嫌悪にさいなまれた。
「いつかは知ることになってたのかなぁ」
潮時なのだろうか。
でも隆とは離れたくない。
ジレンマに押しつぶされそうだった。
「よぉ、マリ、最近つれねぇな。他に男でもできたか?」
冗談めかして言ってくる隆に腹が立った。
「それはあんたでしょ!」
言ってやりたかったが言えなかった。
無言でいると彼はいきなり怒りだした。
「沈黙は肯定っていうんだよっ」
「きゃっ」
マリをいきなり床に押し倒した隆はそのままマリを犯した。
泣き叫ぶマリなど眼中にはなかった。
やがて行為が終わると隆は無言で出て行ってしまい、マリ一人になった。
「アフターピル、もらいに行かないと」
分かってはいたが、身体が動かなかった。
内心、このまま子供ができたら隆は浮気なんてやめて自分だけを見てくれるのではないか、とも思ってしまった。
そしてそのまま時が流れ、マリはお腹に子供がいることに気が付いてしまった。
…
「それであの日になるわけだ」
「旦那さんは浮気してるし、マリは妊娠してるしで私、パニックになってしまったもの」
ルリ子はケラケラと笑った。
「本当にお騒がせしました…」
仕事から帰ってきた隆が肩身を狭そうにしている。
「二人のおかげだもんね」
マリが嬉しそうに笑う。
…
烈火のごとく怒ったサキに促されるがまま、マリは隆を喫茶店に呼び出した。
「ったく、忙しいのに何の用だよ」
女の香水をつけたまま現れた隆にサキは頭から水をぶっかけた。
「妊婦の隣で刺激臭嗅がせてんじゃねーよ」
「へ?」
「あらあら」
呆ける隆にルリ子はおしぼりを差し出す。
「マリ、言ってなかったんでしょ?今、言いなよ」
「う、うん、隆、私妊娠したの…」
「妊娠したって、本当に俺の子供かよ」
睨みつけてきた隆にまたサキが怒った。
「あんたと違ってマリは浮気なんてしてないからね」
「はい、こちら証拠写真です」
ルリ子が追い打ちをかけるように写真をみせると隆はうろたえた。
「男ならちゃんと責任取れ!魔が差したとか言ったら私たちが許さないからね」
サキの凄みに隆は一歩、引いていた。
「…悪かったよマリ」
「もう、浮気しない?」
「しない。あと責任取ってマリと結婚する」
「ほ、ほんと?」
「私たち二人が証人なんだからね。嘘ついたり、また浮気したら地獄の果てまで追いかけてやる」
サキの怨念の籠った視線に参ったのか、隆は折れた。
元彼女と体の関係だけ切れていなかっただけのようだ。
二度とマリを裏切らないという念書まで書かせたサキに恐れ入った。
…
「いやぁ、本当にあの時のサキさんは怖かった」
隆が遠い目をしている。
大学を卒業してからそこそこ大手の企業に勤めている。
サキがよっぽど怖いのか、わが子がかわいいのか積極的に育児にも参加している。
マリは大学在学中に隆と結婚してそのまま出産になったので、社会に出ることができていないが、いずれ子供が大きくなったら働いてみたいと思っているそうだ。
「マンガみたいな話だけど、三人が幸せならよかった」
ルリ子は改めて家族というものにあこがれを抱きながら、浮気だなんだともめていたことを考えると恋愛って面倒くさいな、と思うのであった。
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