上 下
44 / 48
ユーゲントキーファーの人々

4-2 相談

しおりを挟む
 ミアがユーゲントキーファーの町から消えて数日。
 ミアの使っていたお店は今もそのまま残っているが。誰かが居る気配はない。
  
 もちろん突然のことで多くの常連客が驚いた(一部の常連客の中では少し事情を知っている者もいたが――今のところその情報はあまり広がっていない。というか、ちょっと知っている――という程度で、みんなちゃんと話を聞いていたわけではなかったので、噂話をするまでになっていなかった)。
 そして店が閉まってから毎日のように『もしかしたら――』と、思い店の様子を見に来る人。ご近所さんが居たが――誰もミアの姿を見る者はいなかった。
 ずっと店が閉まった時のままだった。

 そしてしばらくはミアのお店に様子を見に行く人が多かったが。次第にその数は減って――今ではアイザックのところにフローレスの常連だった人が相談に来るようになった。

 アイザックからしてみると、それはそれは面倒なことだった。

 ◆

 ミアのお店に通っていたため。あまりアイザックのことを知らない人は、アイザックが魔王城で働いていることをそもそも知らなかった。
 多くの人がユーゲントキーファーの町で何かしている人という感じだったのだ。
 もちろんアイザックのことを知っている人は、『今日もミアにアタックしに来ている』などと思っていたのだが――その話は今のところは置いておき。

 ミアが居なくなったことにより――。

「アイザックさん。何か知らないのか?」
「知らないって」
「隠してないか?」
「マジで隠してないから」
「本当は?」
「かくまってないか?」
「だ・か・ら!」

 今日は魔王城の門番をしていた何でも屋のアイザック。
 その周囲は――フローレスの常連客で埋まっていた。質問攻め。下手をすると屋外で取り調べ中。とも見えなくない光景あった。

 そして、そんなアイザックの光景を少し離れたところで見ている他の門番の人たちも居た。

 ◆

「――アイザックさん最近人に囲まれてるよな」

 アイザックと一緒に立っていた門番の1人が少し離れたところの光景を見つつつぶやく。

「だな」

 そしてそのつぶやきに同じく立っていたさらにもう1人の門番が答えていた。

「特に門番の時はめっちゃ囲まれてるな」
「だな」
「何があったんだろうな」
「だな」
「いや、お前『だな』しか言えないのかよ」
「いや、もう見慣れた光景になりつつあるというか。アイザックさんがおろおろしている姿が珍しいというか――」
「まあ今までなら元気ってか。基本うるさい。何かあったら爆破!みたいな人だったのにな。市民に囲まれているのを見ると――」
「なんかみんなの兄貴みたいだな。ちょっと和むな」
「確かに」
「っか、本当にフローレス。あのお店閉まったのか?」
「らしいな。俺もちらっと見て来たら閉まっていた」
「何があったのか――どこにいるかもわからないんだろ?」
「らしいな。行方不明とか言ってくる人も居るとかだったな」
「綺麗な人だったからな」
「それで独身――」
「ああ」
「俺たちにチャンスは――」
「それはアイザックさんを倒すことになる」
「――無理だな」
「無理だ」

 いろいろ呟いていた2人がここでガクッとなっていたが――その光景を見た者はいない。

「――――死の未来しか見えない」
「それこそ爆破されるかもな」

 そして少し間があってから門番の2人はまた話し出した。

「――大人しく眺めておくか」
「それが正解だな。ここなら――まあ今はちょっとなんかおかしくなっているみたいだが」
「そういえば最近は――ミリア様の方が表に出てるよな」
「引継ぎの準備じゃないか?」
「でも魔王様――めっちゃ元気じゃね?」
「まあ、まだまだだよな――」
「なんか裏で動いていたりして?」
「そんなことないだろ」
「でもよ。ヴアイゼインゼルのこと聞いただろ?」
「あー、あれは――でも元次期魔王様が――って、発表あったじゃないか」
「でもなんか胡散臭いというか――」
「まあまあ変なことに首突っ込むと寿命が縮むぞ」
「俺まだ180歳だしもう少し生きたいわ」
「あれ?俺の方が年上だったか」
「お前何歳?」
「198歳」
「じいちゃんじゃん!」
「なんでだよ!っか、ほとんど変わらないじゃないか!」
「いやいや、俺はまだまだ若造だ」
「――はぁ。っか人間から見たら俺たちおかしな会話していると思われるかもな」
「ここにはいないから思うやついないだろ」
「だな」

 これは町の人に囲まれ。以前ほどのオーラ?が見られなくなりつつあるアイザックをちょっと微笑ましく?眺めていた他の門番の雑談である。
 ちなみにこの雑談に耳を傾けていたものは――いるわけない。

 ◆

 ところ変わってこちらは一般市民に囲まれている門番。アイザック。

「あー、だから。俺は何も知らない」
「ってか、アイザックさん魔王城の人だったんですね」
「魔王様とも近いとか?」
「じゃあ俺たちも――」
「なんでこんなことになってるんだよ!」

 ミアがユーゲントキーファーの町から消えてしばらく。一番そのことで苦労している。することになったのは、何でも屋のアイザックだろう。

 ちなみにアイザックはあまり町の人と関わっているところを上の方々には見られたくないと思っていたのだが――アイザックのことを知らなかった人が多かったため。ちょっと姿を見れば人だかりを作ってしまう現在。

 町の人。主にフローレスの常連客相手をしつつ心の中で『ミアはどこ行ったんだ!?これ何とかしろ!』などと毎回叫んでいたのだった。

 ちなみにこれだけ魔王城の入り口近くで騒がしくしていれば――アイザックとユーゲントキーファーの町の人が集まっていたという情報は――魔王城内の各所にも広がることになるのだが――それはもう少し先のこと。

「あー、だから帰れ!帰れ!自分たちで探して来いよ」
「アイザックさん頼みますよ」
「そうそう。アイザックさん絶対力ありますよね?捜索してくださいよ」
「だからー」
「「「「「アイザックさん!」」」」」
「なーもう!帰れ!邪魔だ邪魔だ!」

 テオドールの側近。そして、何でもこなすため。何でも屋としていろいろな持ち場があるアイザック。少し前までは町の人にこんなに囲まれることは予想もしていなかっただろう。
 そして少し前までは、そのまま過ごしていれば、一応ほぼほぼ安泰だったアイザックの人生だったが――少しずつおかしなことになりつつあったのだった。

 少し前から世界がおかしな方向へと進みだしていたが。ミアが居なくなったことで、さらにおかしな方向へと進むのが加速する魔界の町。

 そしてアイザックと、フローレスの常連客達があーだこーだ言い合っている中。魔王城内ではある計画がさらに進んでいたのだが――まだ町の人たち。魔族のほとんどの人は知らない事である。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

RUBBER LADY 屈辱の性奴隷調教

RUBBER LADY
ファンタジー
RUBBER LADYが活躍するストーリーの続編です

処理中です...