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第5章 ヴアイゼインゼル侵略

5-1 いち早く気が付いた者

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 これはルーナ様が魔術を使えるようになってからしばらく経ったある夜の事。
 
 ★

「――うん?これは――」

 魔王城の離れの一室で事務作業をしていた私。ソフィはとある違和感を感じ取った。
 そしてすぐに確認のため動いた
 まずはこの時間なら調理場で片付けをしているであろうセルジオ様の所へとまず向かう。

「セルジオ様」
「あっ、はい。どうしました?ソフィさん」

 私が調理場にやって来ると予想通りセルジオ様は片付けの最中でした。
 最近の事ならここにルーナ様がいてもおかしくないですが。今のルーナ様は魔術が使えるようになったことで、午後は魔術の練習。そしてまだ少ない魔力のため夜には魔力切れという状況(襲うなら今なのにセルジオ様は何もしていない。ということはさておき)です。
 夕食で何とかルーナ様は少し復活していましたが。もともと引きこもり生活をしていたルーナ様がいきなり魔術をバンバン使えば体力が付いてくるわけがありません。なので、食事くらいでは全回復はできず。多分今はすでに自室でくつろいでいる。もしかするともう寝ているでしょう(そういえば魔術が使えるようになってから、すっぽんぽんにならなくなったんですよね。私――余計な事しましたかね。ということもちょっとおいておき)。

「ちょっと不穏な空気を感じましたので、外に出てきます。室内の事をよろしくお願いします」
「えっ?不穏な空気?」

 どうやらセルジオ様はまだ何も気が付いていない様子。いや、普通気が付くのは難しいでしょう。そりゃもう私くらいの有能でなければ気が付くことは難しいでしょう。はい。皆さん。私を褒めてー。
 
「――」
「ソフィさん?そのポーズは……?」
「おっと失礼」

 ちょっと心の中だけでとどまらないことがあったようですが。私が有能ということはどんどんアピールしなくてはいけないのでね。今のは問題ないでしょう。

「?」
「とにかく。戦いの予兆を感じました」

 私が話を戻すとやっとセルジオ様も理解したのか表情が変わりました。

「えっ!?それまずくないですか?って、えっ!?早く何とかしないと――」

 私の言葉を聞いたセルジオ様は、洗い物をしていた皿を危うく落としそうになっていましたが。私が居る時点でそんなにびっくりしなくても良いのに。でも、普通に考えれば戦争の前兆です。特にセルジオ様はあやふやな記憶とは言え、過去の戦いで怪我を負い。家族を失っていますので、そのような反応になるでしょう。

「はっきり言って、国王軍がこちらへと向かってきている可能性があります」
「いやいやなんでいきなり。ってどうするんですか!?」

 セルジオ様は慌てて洗っていたお皿を置き私のところへと移動してきました。何とかわいい慌て顔でしょう。

「大丈夫です。まだ国王軍だけです」
「いやいや国王軍って、人間界で言うと――というのか。その本隊ですよ?」
「大丈夫です。勇者。国王は近くにいないでしょう。下っ端の集まりだと考えられます」
「いや――って、ソフィさんは何故そんなことがわかるんですか?」
「有能ですから(はい。皆さん注目!私有能アピール中ですよー)」
「――」

 おっと。余計な時間を使っていたら、セルジオ様が少しあっけにとられた顔になってしまいましたね。私が有能すぎて付いてこれないのでしょう。でもそのうちセルジオ様も付いてこれるようになりますよ。私が居るのですから。
 そんなことを私が思っているとセルジオ様がしかけてきました。

「――えっと、俺が声をかけられたということは。俺は魔王軍の方に出るということですか?」
「――はい?」

 セルジオ様もまだまだ――いや、そもそも魔界の事はセルジオ様ほとんど知らないのでは?そうですよね。基本この屋敷でルーナ様とイチャイチャしかしていませんからね。あっと。これは未来でしたね。今はまだちょっと慣れていない2人でしたね。

「えっ?違うんですか?」

 とりあえず勘違いをしているセルジオ様に教えないとですね。
「セルジオ様が呼ばれるわけないじゃないですか。単に私が留守にするのでその報告です」
「そ、そうでしたか――って、ソフィさんいないとここは大変なような――」
「大丈夫です。それに魔王軍なんてまだ誰も準備してませんよ?というか、私以外誰も気が付いてもないと思いますよ?」
「――驚くところのはずなのになぜか驚けない」
「セルジオ様も慣れてきましたね」

 私の予想では『なんでソフィさんだけ!?』とかになるのかと思いましたが。これはこれは、なかなか適応能力の高いことで。いや、私ちょっと有能アピールし過ぎましたかね?目立っちゃいけませんでした?いえいえ、私も目立っていいでしょう。そう。私有能!

「慣れていいのだろうか?って、ソフィさん先ほどから有能アピールしてません?」

 おっと、何ということでしょう。セルジオ様にバレた――いや、表には出していなかったはず。これは――ホントセルジオ様も慣れてきましたね。

「まあまあ」
「いや。まあまあって――」
「とりあえず、今から私が出てきます」
「いや、1人でですか?」
「ええ」
「さらっと言ったよ」

 呆れ顔をセルジオ様はしていますが。有能ですから私。余裕ですよ。

「とにかく。ないとは思いますが。ルーナ様に危険が及ばぬように、セルジオ様はルーナ様の傍にしばらくいていただけますか?」
「あっ。はい。って――その場合俺の方が下手するとルーナに守られることになるような……」
「問題ありません。練習と思って守られてください」

 わかっていることです。魔術が使えないセルジオ様が攻撃されたら終わりですからね。ちなみにセルジオ様は何故かルーナ様と接触しても魔術が使えないんですよね。これは――ホント肉体関係を持たせないとだめなのでしょうか?って、そのうちこの2人はイチャイチャするはずです。ほっておきいましょう。今はルーナ様が使えれば問題ないでしょう。

「いや。それでいいんですかね。俺――雑用係そこまで重要な人物では――」
「大丈夫です。ルーナ様が喜びますから」
「そ、そうなのですか?」
「はい。役に立てると泣いて喜びますよ」
「いや――それは」
「とりあえずお願いします。多分ルーナ様はベッドにひっくり返っているでしょうから。勝手に脱がすのなんなりして、身体でも拭いてあげてください。多分起きません」
「それ絶対しちゃダメなことですよね!?」

 真面目なセルジオ様でした。せっかく私が許可を出しているのに――。

「とにかく頼みます」
「――えっ、は。はい。お気を付けて」
「大丈夫です。軽くけん制するだけですから」
「――ソフィさんがとてつもないことしそうな気がする……」

 正解。セルジオ様。

 それから私は、すぐに調理場を後にしました。後ろでセルジオ様が『もういろいろ無茶苦茶だろ』という表情をしていましたが。それは特に気にせず。そのまま私は屋敷を後にしました。

 ★

 セルジオ様と話してから少し。
 魔王城の離れを出た私はヴアイゼインゼルの町の境にある高台へとやってきました。この場所は基本何もない場所なので、明かりというものが一切ありません。なので身を隠すならここが一番です。
 そしてこの場所はヴアイデの町へと続く道がちょうど見えます。
 人間界への道は魔界側はすこし明かりが続いていますが。その先は漆黒の闇が支配しています。もちうろん光景をヴアイゼインゼル町の人が見ても、何も感じることはないでしょう。
 でもはっきりと有能な私はわかっています。
 
「――向かってきていますね」

 私はそうつぶやいた後、魔術の構築を開始する。
 私が使える魔術は空以外全て(さすが有能な私。普通の人ならありえないですね。ほぼ魔王様レベルですよ。ちょっと下ですが――)。
 本当はこういう時こそ。空の魔術。天候に関する魔術が使えるともっと簡単なのですが――さすがにそこまでできると私は有能ではなく。チートと言われてしまいますからね。ちょうどいいのですよ。それに空がなくとも――ですから。

 そんなことを思いつつ私が、使える魔術で一番強力な魔術をあっという間に完成させた。そして。

「――やっとイチャイチャが始まったのを邪魔をするな!」

 私は叫びながら魔術を発動した。
 それと同時に目にもとまらぬ速さで魔術が一直線に人間界へと向けて放たれた。

 私が発動した魔術は水と風を混ぜたもの。それも上級魔術同士を掛け合わせたもので、風の中に水を混ぜたような魔術だ。本当は風に火でもよかったが。それだと火の明かりで目立ってしまうので、ここは水。
 暗闇の中から発射された私の魔術は一直線にヴアイデの方へと向かっていった。
 ちなみに私の魔術あまりに有能すぎて、ちゃんとは確認できていないですが――大丈夫ですよね。私有能。間違えるはずはありませんから。

 それから待つこと数秒。

「そろそろ直撃するでしょうかね」

 もちろん人間界へと放った魔術の直撃音はこちらには聞こえません。けれど、予定通りなら今頃国王軍の戦闘を足止めしたことは間違いないでしょう。
 さて、もう一つ。これで仕上げです。
 
 私は最後にもう一発魔術を発動する。これまた上級魔術の重ね技。今度は火と地の魔術を混み合わせ――今度は自身の足元に向かい発動する。

「――来るなら本気で来い!」 
 
 私が魔術を発動すると、私の居た丘が吹き飛んだ。
 ということはもちろんない。そんな自分をまきこむ馬鹿はいませんよ。それにこの町を壊してはいけませんからね。
 私が今発動した魔術は地面の中を今一気に突き進んでいるはずです。
 ちなみに、私が魔術が発動してから少しの間ヴアイゼインゼルからヴアイデの町近くまでの地下では、小刻みな揺れが発生したでしょうが。これに町の人は一切気が付かないと思われます。何故なら私は有能で、魔術を地下深くで突き進ませたからです。はい。私有能!

「――よし。これでいいでしょう」

 そして私は自分の放った2回目の魔術が目的地へと到着しただろうという時に離れへと戻るために歩き出しました。

 ちなみに、普通の人ならこんな上級魔術を連続で使えば、魔力を使いきりそうなものでしょうが――私は有能なため。そのあとは表情を変えず。というか全く疲れていないので、普通に魔王城離れへと戻ったのでした。
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