上 下
167 / 203

166. クラーケン料理

しおりを挟む

 クラーケンは【アイテムボックス】内で【素材解体】した。
 自力で解体しなくて良いので、収納スキルの次にありがたい能力だ。
 十メートルサイズのクラーケンなので、解体された部位を取り出すにしても、キッチンでは不安がある。

「とりあえず、庭で取り出して見るか」

 昨夜のうちに従弟たちに連絡を取り、クラーケンを解体調理して【アイテムボックス】に送る約束をした。
 そのため、朝も早い時間から、欠伸を噛み殺しながら庭に出ている。

 コテツが大事にしている畑や果樹園を汚すわけにはいかないので、コテージの裏に回った。
 こちら側は陽当たりがあまり良くないこともあり、何も植えていないのだ。

「ブルーシートを敷いておくか」

 浄化魔法クリーンで綺麗にすることはできるが、食べ物を直に地面に置くことは避けたい。
 ブルーシートは百円ショップでも買えるが、ここはホームセンターで購入した物を使うことにした。
 金額は上がるが、何と言っても品物が良いので。

 裏庭にブルーシートを敷いて、まずは解体した獲物を確認することにした。

「イカは捨てるところなし、って言うし。楽しみだな」

 まずは、イカの耳っぽい部位を取り出した。
 ヒレとも呼ばれるらしいが、学術的にはエンペラが正しいんだったか。
 まぁ、どっちでも良い。白く濁った色をしているが、刺身で食べると美味い部位だ。

「デカいな。これだけでも二メートルはありそうだ」

 これは食べ応えがありそうで嬉しい。
 イカ刺しにイカそうめんにしても良い。このサイズを食べやすいサイズに切り分けるのは大変そうだが。

「……とりあえず、まな板で調理しやすい大きさに切り分けておこう」

 庭での調理は無理だと、早々に諦めがついた。せめて、キッチンで作業ができる大きさに切り分ける必要がある。
 さくさくと切り分けて、そのまま【アイテムボックス】へ。

「次は胴体だな。うん、こっちもデカい」

 ざっと見て、四メートルはありそうだ。
 それぞれ五十センチサイズに切り分けて、こちらも収納する。
 イカの胴体は使いやすい。姿焼きにイカ飯、バターで炒めても美味しいし、煮物にして良し。

「フライや天ぷらにしても美味いからな」

 これだけの量があるなら、サキイカに加工するのもありかもしれない。

「ワタも大事に取っておかないとな! 塩辛食いたい!」

 ホームセンターで瓶詰めの塩辛も取り扱っていたが、異世界産のクラーケンの塩辛なんて、絶対に美味しいに決まっている!

「次は頭部! ……ここ、頭なんだよな? 目があるし」

 捨てるところはなしと言うが、さすがに頭部は──って思うだろ?
 目玉なんかは食わないが、軟骨は食えるのだ。むしろ美味いと思う。
 居酒屋のメニューで見かけて口にした、イカの軟骨の天ぷら。
 これですっかりハマってしまった。

「鶏の軟骨もそうだけど、あのコリコリとした食感がクセになるんだよなー」

 バター焼きやアヒージョ、もちろん唐揚げにしても美味しかった。 
 こんなに旨い部位、捨てるなんてとんでもない!

 墨袋も丁寧に扱う。
 イカスミパスタ用に確保しておきたい。

 ちなみにゲソの長さは四メートルほどあった。太さもかなりある。
 これも調理しやすいサイズに切り分けて、収納した。

「っし! 切り分け終了! これ、1ヶ月分くらいありそうだな……」

 半分に分けても、かなりの量だ。
 巨大魚も相当な重量を誇っていたが、捨てるところが殆どないイカの可食部位は凄まじい量となった。

「結構、匂いがするな……」

 ゴム手袋を装着して切り分けたため、手に匂いは移ってはいないが、コテージ周辺には何とも言えない生臭い香りが漂っていた。
 ブルーシートごと浄化魔法クリーンを掛けてみるが、汚れは落ちても匂いは残ってしまう。
 仕方なく、風魔法で周辺の生臭さを散らした。


◆◇◆


 さっそくキッチンで調理していると、気付いたシェラが寄ってきた。
 好奇心に瞳を輝かせながら、脇から覗き込んでくる。

「トーマさん、それは何ですか?」
「ああ、クラーケン。イカのモンスターだよ」
「イカ……海の街で食べた、アレですね!」

 ぱあっと笑顔になった。
 どうやら、サハギンからドロップしたイカを使った料理のことを覚えていたようだ。

「イカフライ美味しかったです!」
「はいはい。ちゃんと作ってやるから」

 今回は半分譲ってもらう代わりに、調理して送り返す約束なので、たくさん作る予定なのだ。
 多めに作って、自分たち用にも確保しておきたい。

「お手伝い、いります?」
「んー…今回はいいや。コテツと遊んでいてくれるか?」
「はい!」

 リビングのソファで眠っているコテツのお守りを任せて、一人でキッチンに立つ。
 気持ちはありがたいが、何種類も同時進行で調理する場合、一人の方が動きやすい。
 ちなみにレイは最初から戦力外通告済み。何でも出来そうな黄金竜だが、壊滅的なまでに調理のセンスがないのだ。
 そんなわけで、レイは最初からリビングで一人寂しく読書している。
 先日渡しておいた古典ミステリー小説は既に五冊目で、真剣な眼差しでのめり込んでいた。

「さて、今のうちに作っておくか」

 まずは、イカ飯を仕込むことにする。
 スルメイカにもち米を詰め込むタイプのイカ飯は、残念ながら巨大なクラーケンでは作れないので、普通に炊き込みご飯にした。
 米と同量のもち米に一口サイズに切り分けたクラーケンの身と調味料を入れて、土鍋で炊く。
 味付けはシンプルに醤油に砂糖、みりん、料理酒を使う。
 炊き上がったら、小口切りにした青ネギを散らすだけ。おこわ風の炊き込みご飯は、もちもちとして美味しい。

 あとは黙々と調理した。
 バター焼きに中華風の野菜炒め、フライに天ぷら。刺身も忘れずに。
 せっかくなので、クラーケンとサーモンの刺身を使ったカルパッチョも作ってみた。
 イクラがなかったので、とびっこを散らしてみたら良い感じ。
 ぷちぷちした食感が楽しいんだよな。
 すました顔をしたアキの好物であることを、俺は知っている。
 子供っぽいからと、本人は内緒にしているようだが。

「こんなものかな?」

 刺身よりも揚げ物の方を熱望していたので、フライと天ぷらを多めに作ってある。
 大皿ごと【アイテムボックス】に収納し、そのまま三人に送り付けてやった。


◆◇◆


 そんなわけで、今日のランチはクラーケン料理です。
 
「まずは、イカそうめん! 生のクラーケンを細長く切ったのを素麺みたいに啜って食う料理な」
「生のクラーケン……」

 こくり、と息を呑むシェラ。
 刺身に慣れてはきたが、さすがにクラーケンは躊躇するようだ。
 一方、黄金竜のレイは戸惑うことなく、イカそうめんを豪快に啜った。

「うむ、美味いぞ! 喉ごしが最高だな。おかわり!」

 文字通り、飲むように食べたレイの様子を目にして、シェラは顔色を変えた。

「ずるいです、レイさま! 私も食べますっ」

 食い尽くされそうだと危機感を覚えた少女は、レイに続いてイカそうめんを口にする。
 フォークに絡ませるようにして食べたクラーケンの刺身はどうやら美味かったようだ。

「ん⁉︎   んんっ? んんんー!」
「落ち着け。食ってから話せ」

 ごくん、と飲み込んでから一言。

「美味しいですっ! おかわり!」
「はいはい。いっぱいあるから、落ち着いて食えよ?」

 二人前を追加してやると、さっそく笑顔で口にしている。
 俺も箸でつまんで、ぱくり。うん、旨い。
 ねっとりとしたイカもといクラーケンの刺身。後を引く濃厚さで、おかわりしたくなる気持ちも良く分かる。
 コリッとした食感がまた良い。

「イカ飯も良い味だな。米がやわいぞ」
「もち米と一緒に炊いたから、もっちりして美味いんだよなー」

 イカそうめんとイカ飯、同時に食う。贅沢だ。クラーケンは生で食うとほんのり甘い。火を通すと、途端に「海の恵み」感が前面にでてくるのが面白かった。

「カルパッチョも最高! こないだ貰ったサーモンの刺身、残していて良かったー」

 シャキシャキの野菜サラダとの相性がとても良い。コテツも気に入ったようで、喉を鳴らしながら平らげていた。

「……む。なんだ、このプチプチは」
「変な音がします! 砂⁉︎」

 何とも言えない微妙な表情で固まる二人が面白すぎる。

「砂じゃないって。とびっこ」
「とび……?」
「トビウオの卵」
「……とびうお」
「あれ? もしかして、こっちの世界ではいないのか、トビウオ」
「空を飛ぶ魚ならいるが、あれの卵にしては小さいな……」
「砂じゃないなら、食べれますねっ! よーく味わってみたら、結構美味しいかもしれません」

 シェラは相変わらず、食べ物に関しては思い切りが良い。
 そして、レイ。後からでいいので、その空飛ぶ魚について教えてくれ。気になる。

 コテツは以前、コンビニの寿司でとびっこは食べているので、涼しげな表情でうまうま平らげていた。
 クラーケン料理は概ね好評だったようで、ひとまず胸を撫で下ろした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

異世界楽々通販サバイバル

shinko
ファンタジー
最近ハマりだしたソロキャンプ。 近くの山にあるキャンプ場で泊っていたはずの伊田和司 51歳はテントから出た瞬間にとてつもない違和感を感じた。 そう、見上げた空には大きく輝く2つの月。 そして山に居たはずの自分の前に広がっているのはなぜか海。 しばらくボーゼンとしていた和司だったが、軽くストレッチした後にこうつぶやいた。 「ついに俺の番が来たか、ステータスオープン!」

ゴブリンに棍棒で頭を殴られた蛇モンスターは前世の記憶を取り戻す。すぐ死ぬのも癪なので頑張ってたら何か大変な事になったっぽい

竹井ゴールド
ファンタジー
ゴブリンに攻撃された哀れな蛇モンスターのこのオレは、ダメージのショックで蛇生辰巳だった時の前世の記憶を取り戻す。 あれ、オレ、いつ死んだんだ? 別にトラックにひかれてないんだけど? 普通に眠っただけだよな? ってか、モンスターに転生って? それも蛇って。 オレ、前世で何にも悪い事してないでしょ。 そもそも高校生だったんだから。 断固やり直しを要求するっ! モンスターに転生するにしても、せめて悪魔とか魔神といった人型にしてくれよな〜。 蛇って。 あ〜あ、テンションがダダ下がりなんだけど〜。 ってか、さっきからこのゴブリン、攻撃しやがって。 オレは何もしてないだろうが。 とりあえずおまえは倒すぞ。 ってな感じで、すぐに死ぬのも癪だから頑張ったら、どんどん大変な事になっていき・・・

転生したらスキル転生って・・・!?

ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。 〜あれ?ここは何処?〜 転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。

転生テイマー、異世界生活を楽しむ

さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

貴方の隣で私は異世界を謳歌する

紅子
ファンタジー
あれ?わたし、こんなに小さかった?ここどこ?わたしは誰? あああああ、どうやらわたしはトラックに跳ねられて異世界に来てしまったみたい。なんて、テンプレ。なんで森の中なのよ。せめて、街の近くに送ってよ!こんな幼女じゃ、すぐ死んじゃうよ。言わんこっちゃない。 わたし、どうなるの? 不定期更新 00:00に更新します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

スキル【アイテムコピー】を駆使して金貨のお風呂に入りたい

兎屋亀吉
ファンタジー
異世界転生にあたって、神様から提示されたスキルは4つ。1.【剣術】2.【火魔法】3.【アイテムボックス】4.【アイテムコピー】。これらのスキルの中から、選ぶことのできるスキルは一つだけ。さて、僕は何を選ぶべきか。タイトルで答え出てた。

病弱幼女は最強少女だった

如月花恋
ファンタジー
私は結菜(ゆいな) 一応…9歳なんだけど… 身長が全く伸びないっ!! 自分より年下の子に抜かされた!! ふぇぇん 私の身長伸びてよ~

処理中です...