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44. 魔の山

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「魔の山、到着!」

 拳を握り込んで大声で叫ぶほどには、テンションが上がっていた。
 あの草原を出発してから三週間と少し。ようやく目的地の魔の山に到着したのだ。
 しばし達成感に浸ってしまう。
 ここに到着するまでは、本当に大変だったのだ。出没する魔獣や魔物がどんどん大きく、凶悪になっていって──

「おかげでレベルはかなり上がったし、ポイントも大量に稼げたけど」

 創造神の加護があるので、直接的に魔獣や魔物に害されることはなかったが、バリア的な結界ごと弾き飛ばされた時には大いに焦ったものだった。
 てっきり魔獣や魔物は結界に触れることが出来ないのだと思い込んでいたが。
 どうやら魔力量が多く、力の強い魔物は結界に触れることが出来るようだった。
 結界は俺を中心に球体に広がっている。
 高位の魔物には文字通り、獲物入りのボールに見えたに違いない。

「アレ、なんだっけ。水上で遊ぶ、でっかいビニールボールの中に人が入れるやつ。ウォーターボールだったか? あれに入ってる状態の俺を持ち上げて放ったり蹴り飛ばして遊んでいたもんな、アイツら……」

 魔物──人型のオークやコボルトはなまじっか知能がある分、厄介だ。
 ハイオークの更に上位種、オークナイトなどは嬉々として突いてこようとするので、慌てて木の上に避難した。
 騎士ナイトを冠しているくせに、性質が悪い。もちろん悪い子たちは容赦なく樹上から魔法を放ち、仕留めてやったが。

 魔の山には飛行型の魔獣が多く棲んでいるらしく、鷲に似たデカい魔獣に襲われた時も生きた心地がしなかった。
 幸い、結界のおかげでその鋭い爪先に捕まることはなかったので安堵した。
 大量の鶏肉が手に入ったし、嘴や羽毛が良いポイント稼ぎになったのであの魔獣にはまた会いたいと思う。

 何はともあれ、目的地に到着したのだ。
 今夜は冷えたビールで乾杯しようと心秘かに誓いながら、威風堂々とした高山を見上げる。
 魔の山の麓は、前世日本で映像の中だけで見たことのある樹海とよく似ていた。
 山へ登るための所謂いわゆる登山口へ至る道に困りそうなものだったが、この問題はすぐに解決した。
 魔獣や魔物が頻繁に通るため、そこそこの広さの獣道が既に出来上がっていたのだ。
 ありがたく、その道を使うことにする。

 魔素の濃い魔の山麓には恩恵もあった。
 ベリー類や果樹の実りだけでなく、キノコや山菜、薬草も豊富に生えている。
 稀少な物が多いのか、ためしに採取してポイント査定をしてみたが、買取額はかなり良いものだった。

「採取だけでも、相当ポイントを稼げそうだな」

 なにせ、濃い魔素を取り込んだのはそういった森の恵みだけではない。
 昼間なのに真っ暗な森には、邪魔な木々が生い茂っているのだ。
 さくさくと伐採して査定すると、何と一本で2万ポイントを貰えてしまった。

「……しばらく木こりとして暮らすか?」

 割とガチで考えてしまうほどに、そのポイントは美味しかった。
 まあ、レベルを上げるためには魔獣や魔物を狩らなければならないので諦めたが。

「とりあえずは今日の拠点を見つけないとな」

 山の麓で野営するか迷ったが、まだ昼前なのもあって、結局山を登ることにした。
 幸い、獣道を幾つか見つけることが出来たので、迷わずに進むことができる。
 魔獣の通り道なので、当然彼らと遭遇することも多くなるが、既に中級の攻撃魔法全てをマスターしていたので、困ることはなかった。

「デカい鶏肉と上質の豚肉をゲットできたな。夕食が楽しみだ」

 フライングオーストリッチとハイオークはなるべく素材が傷まないように、風魔法で頸を落として仕留めた。
 空飛ぶダチョウフライングオーストリッチは筋肉質だが、野生味があって美味いらしい。かなり大きな個体なので、採れる肉も多い上に、腹に卵を抱えていたようで、両手のひらほどの大きさの新鮮な卵も手に入れることが出来た。
 産み落とされる寸前の卵だったので、汚れもない。念のために鑑定してみたが、雑菌も見当たらないので生食ができそうだ。
 
浄化クリーンをすれば、さらに安全だな。何かあっても治癒魔法もあるし、解毒キュアの呪文も覚えてる。これはあの毛玉ケサランパサランが俺に食えと言っているに違いない……」

 ちょうど良い頃合いだったので、昼休憩にすることにした。
 地面が踏み固められた場所を見つけ、周辺の邪魔な木々を伐採し、テントを張る。
 調理台とテーブルセットも設置して、昼食の準備に取り掛かった。
 とは言え、今回は簡単だ。
 何せ、いま一番食べたいものが、新鮮な生卵を使った、卵かけご飯なのだから。

「パック飯は加熱ヒートで温めて、丼に盛り付けて、っと」

 ひと抱えもある卵は慎重に割った。大きめのボウルいっぱいはある。
 白身と黄身を分けて泡立てて──などと最初は考えていたが、綺麗に膨らんだ黄身を目にすると我慢ができそうになかった。
 泡立て器でざっくり混ぜると、ほかほかご飯に卵液を流し込んだ。さすがに全てを投入できないので、ボウルは【アイテムボックス】に片付ける。

「ここに、100円ショップで購入した、卵かけご飯用の醤油をかけて、食う!」

 アレンジメニューの候補はいくつも頭にあったが、もう我慢できなかった。
 丼を掲げて、わしわしと口の中に流し込む。濃厚な卵の味に、うっとりと瞳が細められた。米と卵と醤油だけの、シンプルな卵かけご飯だったが、21年間の人生で食べた中でも最高の味だと思った。

「美味かった……」

 はあっ、とため息を吐く。
 結局、あまりの美味さにお代わりを繰り返し、卵は綺麗に完食してしまった。
 普通の卵が十個分ほどの量があったけれど、余裕で腹に詰め込めた。
 丼は舐めとったようにピカピカだ。ダチョウの魔獣の卵がこんなに美味しいとは。
 正直、あの魔獣は肉よりも卵の方が価値があるのではないかとさえ思った。
 
「半熟卵や片面目玉焼きサニーサイドアップにして食べたいし、今後も積極的に狩ろう。生で食える卵は貴重だ」

 分厚い卵の殻は薬の素材になるらしく、粉々になった物までポイント化できたのには驚いたが。

「そういや、オーストリッチは高級皮革だったな……」

 ダチョウの魔獣の皮と魔石もかなりの高ポイントに変換されたので、心も懐もほくほくだ。
 今夜の野営地はここに決めて、もう少し周辺を確認してみることにした。


 調子に乗って獲物を深追いしたら、ハイオークの集落に迷い込んでしまい、五十を越える数のハイオークとその上位種との戦闘に雪崩れ込んだ。
 さすがにこれだけの数の魔物を相手に素材に傷を付けないように倒すのは不可能。
 殺傷能力の高い中級の攻撃魔法を何発か撃ち込み、どうにか集落を全滅させることが出来た。
 死骸は全て回収し、ハイオークたちの住処は壊して更地にしておいた。
 魔法書の知識によると、集落を更地にしないと、また新しい群れが発生して居付くことになるらしい。

「火魔法はやっぱり強いな。素材はかなりダメになったけど」

 焦げた肉は買い取り不可だったので、魔石だけポイント化し、肉はダメになった箇所を削り落として食べることにした。
 散々な結果だったが、上位種とハイオークをかなりの数を葬ったことで、レベルが上がった。
 ピロン、と気の抜けた音が響き、ついでに召喚魔法ネット通販のレベルが上がる。

「っしゃあ! 次は? 次は何が買えるようになった? やっと家持ちになれるのか!」

 ウキウキしながら、ステータス画面をタップしていくが、開放されたショップの内容に首を傾げてしまう。
 NEW! の文字をタップして現れたのは。

「コンビニ始めました……?」

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