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39. トカゲの尻尾

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「ワニ……? いや、どっちかと言えばでっかいトカゲか、あれ」

 妙な気配を感じて、足を止めた。
 息を殺し、なるべく音を立てないように慎重に移動して大木の陰から確認する。
 苔むした緑の大岩の周辺に、そいつらはいた。体長は尻尾の先まで入れれば150センチほどの、巨大なトカゲっぽい魔獣。
 鑑定してみると、モニターリザード。まんま、オオトカゲかよ。

「でも、あれだけデカいと迫力があるな」

 もともとオオトカゲだった生き物が濃い魔素に当てられて魔獣化したのだろう。
 岩場で群れを作っているようで、十匹以上がのんびりと過ごしている。
 中には格別にデカいのもいて、二メートル以上はありそうだった。ゴツゴツとした鱗と、棘状の背鰭のような物が生えている。
 尻尾はかなり太く、あれで攻撃されたら吹っ飛びそうだ。
 鑑定によると、下顎の部分に毒袋がある。

「とりあえず、初見の魔獣や魔物は倒してみないとな。毒が怖いから遠方から」

 ポイントを稼ぐためには、効率の良い獲物を纏めて狩る方が良い。
 のんびりお昼寝モードのオオトカゲには申し訳ないが、先手必勝。
 魔力を練り上げて、風の刃ウインドカッターを放つ。岩ごとオオトカゲの首を落としていく。
 ひとつ、ふたつ、みっつ。連続して風魔法を操っていく。魔力を込めて凝縮した特製の風の刃ウインドカッターは強靭で、普通は一匹狩ると消えてしまうが、続けて五匹ほど狩ることが出来た。

「魔力操作を頑張ったからな。こんなこと
も出来る」

 指先でちょい、と意識して魔力を動かすと、大慌てで逃げ出すモニターリザードを追尾し、殲滅していく。
 最後に残った、ひときわ大きなモニターリザードは水の刃ウォーターカッターで慎重に頸を落とした。

「よし、全部狩れたな」

 ウキウキしながら、倒した魔獣の死骸を回収する。コイツらのポイントは幾つになるかな? 特にこの巨体は特殊個体っぽいので、査定が楽しみだ。

「んー? 一匹丸々で八千ポイントか……。微妙だな」

 素材として使える部位が少なかったようだ。魔石と皮、あとは肉くらい。

「トカゲの肉、食えるのか。なになに、筋肉質で良質なタンパク源。特に尻尾の部位が美味。……尻尾か」

 【アイテムボックス】から取り出してみたが、たしかに立派な肉だ。
 綺麗な赤身肉の味が気になった。

「尻尾…尻尾の肉はどうやって食うんだ? ステーキにするのか?」

 牛テールなら食べたことがある。
 大型の業務用スーパーで冷凍の塊肉を買ってきて、テールスープを作ったのだ。
 大学でのゼミ仲間と盛り上がり、一人一品ずつ手料理を持ち寄っての宴会に持参した。
 圧力鍋を使い、コトコトと煮込んだテールスープは好評だった。

「よし、レシピは覚えているし、今夜の夕食はトカゲのテールスープにするか」

 とりあえずは尻尾肉以外をポイント化し、先を急ぐことにした。



「今日の拠点はこの辺りにしよう」

 決めた理由は、デラウェアに似たぶどうの木を見つけたからだ。
 棚もないのに、大きく育ったぶどうの木は、近くの木に蔓を伸ばしたくましく育っている。
 形はデラウェアに似ているが、色は黄緑でマスカット風。食用とあったので口にしてみたが、ほどよい甘酸っぱさだ。
 熟しているものを何房か採取し、テントを張るために少し離れた場所に移動する。
 
 テントを設置して、まずはモニターリザードの尻尾の下処理だ。
 【アイテムボックス】でポイントに変換するために素材ごとの解体をすると、何故かきちんと血抜きをされた状態で手に入る。
 面倒な血抜き作業が省けるので、とてもありがたい。

「牛テールはまず下茹でしていたな」

 食べやすいようにぶつ切りにして、たっぷりのお湯で下茹でする。沸騰してから十分ほど茹でると、湯を捨てた。
 水魔法で綺麗に洗い流し、灰汁も取り除く。匂い消しにネギと料理酒、生姜を入れて、オオトカゲの尻尾肉をたっぷりのお湯で煮込んでいく。
 灰汁を取りながら煮込むのは面倒だが、美味しいスープを味わうために頑張った。
 合間に昼食を摂る。作り置きのおにぎりとボア肉の野菜炒め。結局物足りなくて、カップ麺も食べてしまった。

「魔道具化したコンロで良かった。圧力鍋がない状態で何時間もガスは使えないしなー…」

 創造神の祝福のおかげで、燃料いらずのエコ道具と貸したコンロ。大鍋いっぱいの尻尾肉をことこと数時間煮込んでもガス切れはないのだ。素晴らしすぎる。

「最低でも三時間は火を通したいから、このまま弱火で放置しておくか」

 土魔法で作った石のテーブルでコンロを使っているので、火事の心配は少ないはず。
 念のため、三十分ごとに確認することにして、日課の狩猟と採取に出掛けることにした。安全に快適に暮らすために、ポイント確保は最優先課題なので。



「今日も大量だったな」

 上機嫌で帰宅する。
 オークの群れを見付けて、殲滅出来たのは大きい。生き残りの一頭が逃げ出したのを追い掛けたら、なんとオークの集落があった。
 三十数匹の集落を、魔法で壊滅させることが出来たので、大量ポイントのゲットだ。
 オークは肉以外の素材は全てポイントに変換する。一時間ほど掛かってしまったので、放置していたテールスープ用の鍋が気になったが、幸い焦げ付きもなく、尻尾肉はトロトロに煮込まれていた。

 大鍋いっぱいテールスープにするのが、何となくもったいなくて、半分は別の料理にアレンジすることにした。
 本日のメインのテールスープはシンプルな味付けにする。塩と黒胡椒を少々、味を見て醤油を少しだけ追加する。
 尻尾肉の端っこは焼いて齧ってみたが、筋肉に似た食感で噛み切れそうになかったが。

「……うん。美味い。これだけ煮込めば、さすがにホロホロになるな」

 舌で押すだけで、口の中で肉がほどけていく。コラーゲン部分もたっぷり含まれていたようで、旨味が強い。白ネギの千切りを薬味として味わうと、もうため息しか出ない。
 少し残念だったのは、肉の旨味がほぼスープに溶けていたので、肉自体の味は物足りなかったことくらいか。

「この肉は赤ワイン煮とかビーフシチューやカレーに合いそうだな」

 テールスープをベースにしたカレー。
 想像するだけで、涎が溢れそうになる。

「下処理や調理が面倒だけど、煮込み料理やスープ系には最高の肉だ。ポイントは少ないけど、尻尾肉のために狩るかオオトカゲ」

 誓いを新たにしながらも、テールスープを夢中で味わう。【アイテムボックス】から焼きおにぎりを取り出して、テールスープに投入し、雑炊風にして食べてみても絶品だった。お焦げの部分が香ばしく、滋味豊かな味にうっとりする。

(まさか、トカゲがこんなに美味いとは)

 虫はどれほど美味でも無理だが、爬虫類や蛇なら意外とイケるかもしれないと思った。
 それに異世界と言えば、ドラゴン。
 トカゲがこれほど美味なら、ドラゴンステーキなんて、天上の神々のご馳走なのでは?

「魔法書によると、ドラゴンは強敵すぎるから、その亜種。ワイバーンや地龍あたりを狙ってみるか」

 ダンジョンに棲む亜竜なら、レベルを上げれば狩ることも出来そうだ。
 ドラゴンのテールスープはきっと天上の味。ステーキはもちろん、ローストやカツにしても良い。
 巨体を誇っているので、きっと食い出があるに違いない。

「うん、ワイバーンを狩れたら、アイツらにもご馳走してやろう。ドラゴンが美味いと分かれば、きっと邪竜退治にも熱が入るだろうし?」

 ホロホロと柔らかく消えていくテール肉をうっとりと咀嚼しながら、まだ見ぬドラゴンに思いを馳せた。
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