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30. ぼたん鍋
しおりを挟む鹿肉ステーキを堪能し、アイツらに召喚した物をアイテムボックス送りにしてから、すぐに眠りについた。
こっちの世界に転生させられてから、随分と早寝早起き体質になってしまった。
娯楽が少ないのもあるが、日中の強行軍で疲れているのもある。
オンラインで遊べるスマホのゲームアプリと以前に購入していた電子書籍くらいしか、暇潰しの手段がないのも理由だが。
そんなわけで寝落ちる寸前まで、創造神に貰った魔法書を読むのが、ここしばらくの習慣だ。
スマホで検索するのと同じように、白紙のページを開いて質問すると、その答えが表れるのは面白い。
この世界の歴史が短いことも、魔法書で知った。地球の十分の一ほどの大きさの惑星で、誕生したのは千年ほど前。
創造神が自我を持ったのは五百年前のことで、そこから毛玉なりに生命を生み出していったらしい。
参考にしたのは地球モデル。しかも亜人種などはフィクションの世界を知り、面白がって創り出したようだ。
魔法やスキルなども、日本の物語を参考にしたらしく、どうりで馴染みがあると思った。幼い印象の神さまは、やはり歳若かったのだ。
現代日本の知識を得て創ったのなら、年数が合わないと思うだろう?
俺も疑問に思ったが、神さまのような上位種は干渉は出来ないが遠い星の未来をこっそり覗き見することは可能らしい。
自分が創った世界の未来は読めないあたり、自身の未来は占えない占い師と似ているなと思う。
そんな風に適当に思いついた疑問を投げ掛けているうちに、寝落ちてしまった。
スマホのアラームで起きて、目覚めのシャワー代わりの浄化魔法。
すっきり目が醒めたところで、『勇者メッセ』にメールが届いていることに気付く。
「ん、アイツらか。キャンプグッズや寝具のお礼だな。やっぱり不便だったか」
ハルはキャンプグッズに大喜びだ。
サンシェードは休憩所代わりに便利だし、ハンモックを嫌いな男子はあまりいない。
コンパクトチェアも野外での休憩時に愛用出来そうだと感謝された。
封筒型のシュラフは三人とも、敷布団代わりに使ってみたようだ。
藁のマットにクッション+シュラフ+敷きパッドを敷くと、かなり快適になったようで、こちらも大変感謝されてしまった。
アキはメスティンやフードポットに目の色を変えている。国に売り付けるつもりかな。野営時にはかなり便利な代物なので、国の兵士だけでなく冒険者や旅人にも広まるといいと思う。
ナツにはデカい抱き枕ぬいぐるみが好評だった。もちもちクッションもさっそく愛用しているようだ。もしかしたら、王女が欲しがるかもしれないと相談された。うん、美容関係の品と一緒に売り付けたら良いと思うぞ。
あと、300円ショップのルームウェアも頼まれた。千円の可愛いらしいデザインの上下セット。今夜送ると返信しておいた。
「お? お礼に野菜と玉子、ミルクが大量に送られてきてる! これはありがたいな」
大森林で自生している野菜は小振りな物ばかりなので、これは嬉しい。【アイテムボックス】内を確認すると、じゃがいもや玉ねぎ、ニンジンに大根などの根菜類がそれぞれ木箱にいっぱい詰め込まれていた。
葉物野菜はキャベツにレタス、白菜にブロッコリーがこれまた各種、木箱入りで送られてきている。
玉子は大きめのバスケットの中で、藁で包まれた状態で送られてきた。数えてみると五十個ある。これはとてもありがたい。
「デカいガラスの瓶だな。二リットルはあるか?」
鑑定すると、ちゃんと牛乳だった。
山羊や知らない動物、ましてや魔獣の物ではない、乳牛から搾った新鮮な本物の牛乳だ。大事に飲もうと思う。
「俺が野菜や玉子、牛乳が手に入らないと愚痴ったのをちゃんと覚えてくれてたんだな」
玉子は先日コッコ鳥の巣をたまたま見付けて手に入れることが出来たが、幸運が続くとは限らない。
100円ショップで扱っている牛乳はペットボトル入りのフルーツ牛乳だ。
これは料理には使えないな、と頭を抱えていたので、タイムリーだった。
いちごミルク、嫌いじゃないんだけどね。
「足りない食材はアイツらに物々交換で送って貰うのは良い手だな。在庫が危うくなったら頼んでみよう」
取り出した野菜類を眺めていて、ふと気付いた。
この材料があれば、あれが作れるのでは?
昨日大量に狩った森林猪を使った、ぼたん鍋が!
「大根とニンジン、白菜もある……。100円ショップで手に入れた味噌とみりん、料理酒もあるからスープも用意できるな」
うん、夕食はぼたん鍋にしよう!
ショップには何と土鍋まで売っているのだ。これはもう、鍋を堪能するしかない。
「楽しみだな。その前に朝飯にするか」
玉子と牛乳が手に入ったので、ホットサンドで朝食にすることにした。
ソーセージで囲いを作って、生卵を割り入れた食パンにマヨネーズと黒胡椒で味付けし、ホットサンドメーカーで焼いていく。
牛乳はガラスのコップに注ぎ、生活魔法で冷やして飲む。うん、美味い。
牛乳があれば、100円ショップで売っているプリンの素や乳製品デザート系を作ることが出来る。素朴な味で美味いんだよな。
冷蔵庫はないが、こっちの世界では生活魔法があるので、冷やし放題だ。
「今から作るのは面倒だから、昼のデザートだな」
少し焦げてしまったが、サクサクのホットサンドは美味しかった。半熟卵はとろりとパンに絡んで良い焼き加減。
野菜? デザートにベリーを食べるのと青汁飲むから問題ない。
ぺろりと平らげると、野営道具をまとめて【アイテムボックス】に放り込んだ。
魔の山へはかなり近付いてきた。
このペースで進めば、梅雨が始まる前には到着出来るだろう。
それまでに召喚魔法のレベルも上がっていることを祈ろう。
「家を召喚できるようにレベルアップと、ポイント貯金が第一目標。梅雨までに達成出来なかったら、しばらくは山にこもるか……」
洞窟があれば、そこを仮の拠点にしても良いし、なければ土魔法で作ればいい。
力業が過ぎるが、梅雨をテントで乗り切る自信はないので仕方がない。
「さて、今日も頑張りますか」
ポイント獲得も大事だが、美味しいお肉や果物の採取も大事。【気配察知】【隠密】【身体強化】スキルを発動し、森の中を身軽く駆け抜けて行く。
狙うは、鹿と猪の魔獣。クマもポイント的には美味しいので追加。
果物は積極的に収穫する予定なので、しっかりと【鑑定】も忘れずに。
「よし、本日のキャンプ地はここ!」
湧き水が溢れる小さな泉の側に、テントを設置する。周辺の木々は三十本ほど既に切り倒して【アイテムボックス】に収納してある。15万ポイントご馳走さまです!
昼食は簡単にレトルトで済ませた。
カレーライスと作り置きの串焼きだ。ホーンラビットの串焼きは柔らかくて食べやすい。手作りプリンをしっかり味わうと、採取と狩猟に向かう。
本日の戦果。
森林鹿が八頭、森林猪が六頭。森林狼の群れがいたので殲滅して、十三匹。
あとは、初めての魔物に遭遇した。獣が魔獣化した生き物ではなく、最初からおぞましい姿をした魔の生き物ーーゴブリンだ。
緑色の肌をした小鬼は汚い声で喚いて襲いかかってきたので、人型だと躊躇することなく倒すことができた。
動きは遅く、あまり強くない。
だが、ゴブリンは集団で武器を使って襲ってくるのが厄介だと魔法書で知っていたので、周囲を警戒した。
幸い、逸れたゴブリンのようで、その一匹だけで済んだ。
ゴブリンは魔石しか価値がないようで、ポイントも低い。一匹倒して800ポイントだ。魔獣の方がよほど美味しい。
だが、ゴブリンは放っておくとどんどん繁殖するため、見掛けると倒すことを推奨された。魔法書に。特に集落を見掛けたら、徹底的に潰して燃やし尽くせと、いささか過激に助言された。魔法書、というか創造神か。
そんな厄介な魔物なのだな、とあらためて気を引き締めた。
さて、そんなことより、本日の夕食だ。
森林猪を使った、ぼたん鍋です! 具材は肉の他には送ってもらった野菜を使う。
大根とニンジン、白菜。長ネギはないので代わりに玉ねぎをスライスして入れてみる。キノコ類は森で採取した物を投入。
「焼き豆腐はさすがに100円ショップにはないなぁ……」
だが、鍋用の小さな餅はあったので、後で入れよう。鍋に入ったトロットロの餅美味しいよな。味付けは出汁の素を活用。そこに料理酒、みりん、味噌を入れた。チューブの生姜も少々。臭みは味噌で消えるから大丈夫のはず。魔獣肉は美味いから信じている。
「完成! 食うぞー」
深めの取り皿によそって、ぱくり。薄く切った猪肉は柔らかい。脂身が甘くて、けれど全然、諄くない。
「うっま……!」
臭みもない。むしろ、フルーティな香りがする。大森林産の美味しい果実を主食にしているからか? 脂身部分が多いのに、アクもあまり出なかったし、旨味がたっぷり詰まっている。これは良い肉だ、と唸りながらたくさん食べてしまった。
「ぼたん鍋、美味かった……」
野菜も美味しかったし、キノコはもちろん、蕩けた餅も旨かった。最後の締めにパック飯と玉子を投入した味噌雑炊も満足の出来だった。これは是非、またやろうと思う。
「ボア肉のポテンシャルよ……」
これはきっと焼肉にしても旨いだろう。串焼きも絶対イケる。トンカツならぬボアカツが不味いはずはないし、カレーも合うはず。
「明日からも狩りまくろう」
あらためて心に誓った。
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