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28. ホットケーキ
しおりを挟む魔の山を目指す旅は順調だ。
朝から午後過ぎまで数時間ほど集中して先へ進み、明るい内から野営の準備を整える。
しばらくは周辺の木々を切り倒したり、採取や狩猟に集中してポイントを稼ぎ、順当にレベルを上げていった。
「奥へ進むごとに、魔獣が大きく強くなっているな」
ウサギやキツネの魔獣はもう見かけなくなった。仮の拠点近くでは、森林猪や森林鹿を多く見掛ける。
どちらも肉が大変美味なため、積極的に狩っていた。
肉以外の素材は全てポイント化している。魔石と毛皮、牙や角は希少な品なのか、どれも高ポイントの対象だった。
「鹿が一万、猪が一万三千ポイントか。肉は美味いし、熊より美味しい獲物だな」
コツコツと魔法を使い続けた今、初級魔法は完全にマスターし、中級魔法も詠唱なしで使えるほどに上達した。
レベルの上昇と共に魔力量も大幅に増えたおかげで、今では魔力切れの心配は全くない。
中級魔法をマスターしたら、上級魔法を覚えるつもりだ。魔法書の指示通り、ちゃんと順番に学んでいっている。
「四属性魔法はどれも便利だ。特に土魔法は攻撃以外にも色々使えるから大森林では特に重宝しそうだな」
土を耕して畑を作るのはもちろん、地面を固めて道路を作ることも出来る。
あまり大きな物は無理だが、平家の一軒家くらいなら、土魔法で再現することも可能だ。
「土魔法のレベルを上げて、コンクリ風の土が作れるようになったら、家を買わずに済むかもな。梅雨が凌げたら良いんだし」
排水をきちんと考えて、地面と屋根に気を付ければ、それなりの建物が作れそうだった。魔獣が近寄れないよう、家の周辺に深めの溝を掘ったら安心出来るだろうか。
水を満たせば、堀に囲まれた城になる。
「四属性魔法を全部覚えたら、次は精霊魔法に挑戦だな。植物魔法も早く使いたい」
最近は木々を切り倒した跡地に、なるべく果物の種を植えるようにしている。
植物魔法はまだ覚えていないので、土魔法で土地を耕し、水魔法で湿らせ、光魔法で成長を願ってみた。
あまり意味はないかもしれないが、この場所に果樹が育ち、美味しい果実が実を結ぶことを期待して続けている。
「お、ブルーベリーの密集地か。これは絶対に採取しなきゃだな」
今日の昼飯はパンケーキの予定なので、ジャムとバターと蜂蜜のトッピングに、ブルーベリーも添えてみたい。
100円ショップにホットケーキミックスが売っていることに気付いたのは、今朝のこと。懐かしくて、つい購入してしまった。
「小学生の頃、腹を空かせたアイツらに作ってやっていたんだよな……」
十歳児にはなかなか難しかったが、何度か焦がした結果、綺麗に膨らませて焼き上げるコツを覚えたのだ。
美味い美味いと喜んで食べてくれた従弟たちの無邪気な姿を、昨日のことのように思い出す。
「今夜にでも、アイツらに送ってやるか。こっちの世界にもパンケーキくらいはあるかもしれないけど」
ボウルいっぱいに採取したブルーベリーを【アイテムボックス】に収納すると、早足で拠点に戻った。
「よし、綺麗なキツネ色に焼けたな」
高温になり過ぎないよう、こまめに濡れ布巾でフライパンの温度を下げながら焼けば、目立った失敗はしない。
ふわふわのスフレ生地にするには、卵白をメレンゲにするのが大事だ。
綺麗に焼けたパンケーキにバターを一欠片落として、蜂蜜をまぶす。
いちごのジャムを盛り付け、ブルーベリーを散らせば完成だ。
「ん、美味い。たまに無性に食べたくなるんだよな。パンケーキ」
パンケーキと言うよりはホットケーキだが、素朴な味が美味しい。
バターの塩気と蜂蜜の甘さが絡まって、いくらでも食べられそうだ。
酸味の効いたブルーベリーは水分たっぷりでさっぱりとしている。
甘いジャムと一緒にパンケーキごと口にすると、ふわりと口の中で消えていった。
たっぷり四枚分のホットケーキを食べ終え、満ち足りたため息をこぼす。
「美味かったけど、流石に甘いな。夜はガッツリ肉を食いたい」
収納内の鹿肉と猪肉を思い出し、ニヤリと笑う。塊肉はかなり大きく、食い出がありそうだった。
「焼くにしても、肉は漬けておきたいな」
まずは鹿の魔獣肉を分厚めに切って、ステーキで食べてみよう。
筋を取り、肉を叩いてからステーキソースに漬けておく。
あとは野菜サラダとスープを添えれば良い。パックご飯は食事前に温めれば良いし、スープは簡単なインスタントの物にしよう。
「夕食が楽しみだな。あと二時間ほど採取ついでの狩りをして、肉の在庫を増やしておくか」
森林鹿と森林猪は上質の肉だと、鑑定で判明している。
先程少しだけ切れ端を味見してみたが、とんでもなく美味しかったのは確かで。
(よし、しばらくは鹿と猪狙いだな。大量の肉を確保してやる……!)
ステーキの他にも、ハンバーグにしても良いし、焼き肉やバーベキューに使うのもありだろう。ローストビーフ風にして食べたいし、鍋や煮物、カツにしても良い。
美味しいお肉は、正義。
どうせなら、楽しく美味しいスローライフを満喫したいのだ。
「とりあえずは鹿肉と猪肉、狩るか」
ヘラジカなみにデカい鹿も魔法の一撃で倒せるようになった。
日本の山で見かけていた猪の、二倍はある巨体にも魔法はきちんと効いていた。
この先に進むと、さらに強い魔獣や魔物が現れるだろう。
肉食の魔物だと、食用にならないので、今のうちに肉の在庫を作っておきたい。
「美味しいお肉ちゃん達、どこにいる?」
【気配察知】で探索し、【隠密】スキルで近寄ると、最初から最大火力をぶつけて鹿の群れを次々と倒していった。
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