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11. 草原キャンプ 3
しおりを挟む腹が満たされると、途端に好奇心が湧いてくる。タープの下から出て、空を眺めた。
腕時計の時間はちょうど午後六時。地球時間なのかもしれないが、もうこの世界の時間だと思うことにする。
夕食を食べていた頃にはまだ明るく、オレンジ色に煌めいていた空は薄紫のグラデーションに染まっていた。
「月が二つ。さすが異世界」
空に浮かぶ大きな蒼白い月と、その傍らに赤みを帯びた小さな三日月が浮かんでいる。
不思議な光景だが、美しい。
ポケットに突っ込んでいたスマホを取り出して、記念すべき異世界一日目の夜空を写し取る。なかなか良い写真が撮れたので待ち受け画面に設定した。
「あ、そう言えば」
ふと、自分の顔を確認していないことを思い出した。ナツが言うには基本は同じようだが、ハイエルフに変化したことで色々と変わっているのだったか。
鏡も持っていなかったので、すっかり忘れていたが、スマホで自撮りすれば良い。
インカメラにして画面を覗き込んでみた。
「は……?」
元々が母親似の女顔で、それなりに整っていたことは自覚していたが、今の顔立ちは同列で語れるレベルではなかった。
「ナツ……。お前、これのどこが基本は同じだよ。とんでもない美形に変わっているじゃないか……」
髪の色は濃紺。黒が強めのブルーブラックだ。瞳も深く澄んだ蒼で、祖母が大事にしていたサファイアの色と良く似ている。
ただし肌は透けるように白く、滑らかだ。百貨店の高級ブランド美容液を大量に使っている叔母よりも美しく、肌理が細かい。
目や鼻、唇などの全てのパーツが完璧な形をしており、それらが絶妙に配置されている。繊細に整った容貌は、まるでとびきりの美少女のようだった。
「……いや、胸はないし、下はある。男だ。俺は男……!」
慌てて確認してしまった。
髪を掻き分けて耳を確認するが、ほんの少しだけ先が尖っているだけだったので安堵する。日本で見かけたフィクション世界のエルフはかなり耳が長く目立っていたので。
「このくらいの長さなら、普通に隠せるな。良かった。いや、良くないな。この顔だと目立ち過ぎないか? それともこっちの世界のエルフはもっと美形なのか」
身長は160センチくらいか。前世よりも4センチ減ってしまった。ただし、手足は以前と比べても伸びていると思う。
自撮りした画像を睨みつけて、ああ頭の大きさも変わったのだと気付いた。
等身が日本人のそれとはかなり違う。
「大学の同級の女子たちが知ったら怒り狂いそうなくらいの小顔になったな……」
しかも素顔でアイドル並みの美少女顔。いや、俺は男だし、まったく嬉しくはない!
「どうせならイケメンの細マッチョエルフにしてくれよ……」
あの毛玉が少しばかり恨めしい。
今の姿だと十代半ばほどにしか見えない。たしかに長命なエルフにしたら、まだまだ赤ちゃん扱いされる年齢だと思う。
「まぁ、なってしまったもんは仕方ないか。どうせしばらくは大森林とやらに篭って生活するし、人とは会わないだろう」
スマホをアイテムボックスに収納し、軍手と草刈り鎌を取り出した。
まだ眠るには少しばかり早い時間なので、せっかくなのでポイントを稼いでおこうと思ったのだ。
魔道具化したランタンを足下に置いて、無心で草を刈っていく。片手で掴めるだけ握ってサクサク刈っていくスタイルにしたので、鑑定はしていない。
これだと一度に五十本前後は採取出来るので、テント周辺だけを刈り取るにしても、それなりのポイントが貯まるだろう。
三十分ほど黙々と草刈りをしたので、結界範囲内にはもう草は見当たらない。
かなりスッキリした。満足げに周囲を見渡して、収納した草をポイント化する。
「ん? 23,000P? そんなにあったっけ?」
内訳を確認すると、どうやら刈った草の中にレアな品種の薬草があったようで、それが一本1000Pになったようだ。
マナ草。魔力回復用のポーションの材料になる。よし、覚えた。
薬草の特徴を覚えて、次回からは積極的に採取していこう。
ちなみに全く珍しくない品種のヒメシバだが、生活魔法の乾燥で加工して焚き火にくべると、虫除けの効果はバッチリだったので、百本ほどは残しておくことにした。
「テントの結界、魔獣や魔物は弾いてくれるけど、虫は普通に入ってくる……」
虫除けのヒメシバは手放せない。
詳しく鑑定すると、結界は人も弾けないが、不可視の術は使用者である自分以外の誰の目にも見えなくなるようなので、それは安心した。
「森から出てすぐ盗賊に襲われたら洒落にならないからな。不可視の術はありがたい」
野営するにしても、なるべく人のいない場所で気配を消してテントに引きこもっておけば良い。
「ちょっと疲れたな。今日はもう休もう」
ランタンを手にして、テントに向かう。
焚き火は虫除けの草も放り込んだし、そのままにしておくことにした。
タープはポールを外してリビングルームに戻す。朝方は冷える可能性が高いので、きっちりクローズした。
密閉するだけで、テントの中はかなり暖かくなる。
ドーム型テントの天井中央部分にランタンをぶら下げて、着替える前に浄化を唱える。
風呂上がりのようにスッキリして、スウェットに着替えた。
「ちゃんとこの体格にぴったりのサイズになっているな……」
そういう些細な点も気を配ってくれたのは、素直に感謝しようと思う。
ランタンの灯りを消して、寝袋に潜り込む。生活魔法の、灯りのおかげで、しばらくは柔らかな光がテントの中を照らしてくれている。
ステータスボードを呼び出し、今日入手したポイントを確認すると、何と40,000P以上貯まっていた。
「おお…! マナ草とホーンラビットのおかげで、なかなか順調じゃないか? せっかくだから何か買って、アイツらに送ってやろう」
ウキウキしながら、召喚魔法の画面をタップしたが。
「んん……? どういうことだ、品物の種類が限られている?」
品別で検索すると、なぜか召喚できる品が少ない。黒字の品はカートに入れられるが、品名が反転している物はタップしても反応しなかった。
よく見ると、黒字で購入できる品はすべて100Pの物だけだった。
「何でだ? 残高のポイントは大量にあるんだから買えるはず……ん?」
検索画面を確認すると、購入先店舗の欄があった。見ると、今現在のところ召喚できる店舗が某100円ショップのみとなっている。
「まさかレベルが上がるまでは、100円ショップの商品しか買えないのか……!」
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