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〈冒険者編〉
297. サラマンダーの尻尾肉
しおりを挟む食材ダンジョンの攻略は順調だ。
遺跡フィールドの五十八階層では各種ゴーレム、五十九階層の火山エリアではサラマンダーに悩まされたが、二人とも怪我なくクリアした。
さすがに下層になると、出没する魔獣や魔物は一筋縄ではいかない。
「でも、ゴーレムからは大量の核を回収できたし、お酒がたくさんドロップしたのは嬉しかったね!」
「そうだな。ゴーレム核は高値で売れる。それぞれの属性の金属もドロップしたし、倒すのは大変だが、稼ぎはデカい」
土塊で作られたゴーレムはナギでも余裕で倒せるが、金属製のゴーレムは面倒な相手だ。堅牢で、四属性魔法が効きにくい。
効果があるのが雷属性の魔法と氷属性の魔法くらい。
元になった金属によっては火魔法で倒すことも可能だが、結構な火力を必要とするため、魔法使いには嫌われている。
「エドは氷魔法、私はクロスボウの魔法武器でどうにか対処できたけど、ゴーレムは面倒だわ……」
雷属性の魔石を装着すると、雷撃を矢で放てる魔法の弓は対ゴーレム戦と海での漁に大活躍だ。
ナギはもっぱら、海での魚獲りに使うことが多いが、今回はきっちり役割を果たした。
ドロップしたのは核と鉱石、レアドロップらしき魔道コンロ。
「フロアボスは大盤振る舞いだったわよね? かなり大きなゴーレム核と魔法銀の塊。リング型の収納の魔道具は性能も抜群そうだし、何よりお酒が!」
「落ち着け、ナギ」
「倒すのが大変だったけど、ドロップアイテムは良い物ばかりだったわー!」
ふふふ、と笑いながら収納リストを眺める。なんと、フロアボスのゴーレムは焼酎をドロップしたのだ。
鑑定によると、まろやかな味わいを誇る黒糖焼酎だとか。
果実酒との相性が抜群の焼酎である。
「家に帰ったら、梅酒を漬けるわよ。味わえるのは二年後になるけど」
「分かった。手伝おう」
「うふふ。同じ階層に梅林があったのは運命よね! これは、ダンジョンの神さまが梅酒を漬けろと言っているのよ、きっと」
「気のせいだとは思うが、良いタイミングだったな」
梅林には見事な青梅が実っており、二人は黙々と採取した。
食材ダンジョン産の梅なのだ。美味しいことは確定である。
梅酒以外にも、梅ジュースや梅干しを漬けるのも楽しそうだ。蜂蜜風味にすれば、エドでも食べやすいと思う。
「でも、五十九階層の火山エリアは違う意味でキツかったわよね。暑さで」
「俺は正直、五十六階層の氷原エリアより厳しかった……」
「アキラも参っていたものねー……」
あんなに立派な毛皮の持ち主であるアキラは寒さは得意だが、暑さにはすこぶる弱かった。
氷魔法を発動して、周囲に冷気の膜を作ってはいたが、それでも厳しかったようだ。
「悪いことしちゃったわ……。私がもっと頑張って歩けば良かったのよね」
「いや、ナギは努力していたぞ」
そう、ナギも途中までは頑張ったのだ。
氷原フィールドはもちろん、これまでも足元の悪い場所ではオオカミタクシーに助けられてきた。
さすがに自分でもどうかと思ったので、今回は自力で山を登るつもりだった。
だが、体温調整ができる魔道具のローブをはおっても、火山エリアでの登山は過酷で。
【身体強化】スキルを使っていても、三十分ほどでナギは根を上げてしまった。
見兼ねたエドが背負おうとしてくれたのだが、両腕が使えない状態でダンジョンを闊歩するのは蛮勇すぎる。
そうして、結局はいつものように黒狼に変化して、ナギを乗せて走ってくれたのだ。
サラマンダーが棲む五十九階層は地熱で蒸し焼きにされるような、独特な暑さに苦しめられた。
そんな酷暑のフィールドのため、採取できる植物は皆無だ。文字通り、草一本生えていない。
火魔法を操るサラマンダーは黒狼が火山を駆け登りながら、氷の槍で屠っていく。
ドロップするのは火属性の魔石と皮。たまに尻尾が落ちる。この尻尾肉が【鑑定】によると、すこぶる美味、らしい。
サラマンダーは全長三十センチほどで、小柄な魔獣だ。火の精霊かと思ったが、このダンジョンに棲息するサラマンダーは火蜥蜴の魔獣らしい。
なので、せっかくの「すこぶる美味」な尻尾肉も十五センチほどの長さしかない。
太さは、親指と人差し指で丸を作ったくらいで、食べ応えはなさそうだ。
(でも、私のこの食に関して特化している鑑定スキルを信じるわ! すこぶる美味な尻尾肉は今夜のディナーよ!)
ナギの熱意を感じ取ったのか。過酷なフィールドを駆け抜けつつも、黒狼はせっせとサラマンダーを狩ってくれた。
おかげで、尻尾肉が五本ほど手に入って、ナギは上機嫌だった。
どうにかフロアボスが鎮座する頂上まで辿り着き、特殊個体の巨大なサラマンダーを黒狼が氷魔法で倒してくれて。
そうしてドロップしたのが、火属性のルビーのような魔石と炎に耐性のある皮。尻尾肉は腕ほどの太さがあった。
それだけでも歓声を上げたのだが、なんと宝箱をドロップした。
わくわくしながら宝箱の蓋を開けると、香辛料の詰め合わせセットだった。
希少で高価なサフランが大量に詰められたガラスの瓶。バニラビーンズ、レモングラス、カルダモンに山椒まである。
シナモンスティックに八角、クローブにジンジャー。胡椒も黒白ピンクが揃っていた。
「お宝だね。これだけあれば、あれが作れそう……」
これまでは希少な香辛料は大事に使っていたけれど、せっかくなのでアキラ待望のあれを作ろうと考えた。
そうして、今。
二人は六十階層にいる。
本来なら、フロアボスを倒した場所がセーフティエリアになるため、そこで休息を取るのだが、あいにく五十九階層は酷暑の火山フィールド。
休息どころか、余計に体力を奪われそうだったので、転移扉で六十階層へ移動した。
転移した、すぐの場所はセーフティエリアだ。
六十階層は森林フィールドで、緑豊かな光景が広がっている。
森林浴を楽しみたくなるくらいに快適な気温と澄んだ空気に、二人はほっと息を安堵の息を吐いた。
二層続けて過酷なフィールドだったら、さすがに心が折れていたかもしれない。
ともあれ、ここは野営には最適の場所だ。
休息を必要とする身には、まさしく避暑地。
今日はもうここで泊まることにして、コテージを設置した。
◆◇◆
「せっかくだし、今日のディナーにはサラマンダーの尻尾肉を使っちゃおう」
「火蜥蜴の尻尾か……」
エドの元気がない。
どうやら、サラマンダーの小さな尻尾肉では食べ盛りの彼には物足りないようだ。
詳細に鑑定して、ナギは既に調理法を思い付いている。
サラマンダーの尻尾は骨がなく、なんと薄皮ごと美味しく食べられるとのこと。
薄くスライスすると、見事な霜降り肉が現れる。
「見た目はサラミソーセージにそっくり。これは美味しそう……!」
作るのはピザだ。
昨夜の内に生地はエドが仕込んでおいてくれたので、存分に使うことにした。
玉ねぎにピーマン、サラマンダーの尻尾肉をスライスして、ピザ生地にのせていく。
ソースはトマトベースのピリ辛風。ダンジョン産のチーズをたっぷり散らして、魔道オーブンで焼いていく。
「いい匂い……!」
肉とチーズの香りがたまらない。
これは絶対に一枚では足りないと考え、追加で三枚分のピザを仕込んだ。
そして、ピザをオーブンで焼いている間に、お楽しみの飲み物を作ることにした。
「何を作る気なんだ?」
「ふふふ。アキラ待望のドリンクよ。今回手に入った香辛料を使って仕込むから、エドも楽しみにしていてね」
「香辛料で仕込むドリンク……?」
首を捻る少年に、ナギは瞳を細めて笑う。
「ピザに合う飲み物よ。ハンバーガーやフライドポテトにもピッタリかな」
「それはまさか……」
ファーストフードに合うドリンクのヒントで、ピンときたらしい。言い淀むエドに向けてナギは胸を張って宣言する。
「そう、クラフトコーラよ」
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