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〈ダンジョン都市〉編
124. サハギンの宝箱
しおりを挟む階段を降りた先の八階層は、真っ青な空が広がっていた。
振り返ると、ちょうど洞窟の出口だったらしく、目の前は海。
二人で並んで通れるほどの幅がある岩の道が続いている。
ごつごつとした岩はたまに途切れているので、飛び石のように渡る必要がありそうだった。
「大丈夫か、ナギ」
「ゆっくり進めば、たぶん平気」
エドに心配されたが、レベルアップの恩恵で体力や筋力も上がっているので問題はない、と思う。濡れた岩は滑りやすいので、注意して歩かなければ。
そおっと岩の道を進むナギを、エドがはらはらとしながら見守ってくれている。
何なら、すぐさま獣化して背中に乗せそうな面持ちだ。
信用ないな、と少しだけ面白くない。
「大丈夫よ。それよりも今の私に戦う余裕はないから、魔物の相手はよろしくね?」
「任せろ」
胸を張って頷いただけあり、エドは襲いかかってくる魔物を撃ち漏らすことなく倒してくれた。
海から這い上がってくるのはサハギンで、洞窟内の個体と違い、ドロップアイテムが魔石と小さな箱だった。
「なに、これ? 小さな宝箱…?」
大きさはてのひらに載るくらい。外観は宝箱そっくりだ。鑑定してみると、サハギンの収納品と表示された。
どうやら、サハギンはアイテムボックスらしきスキルがあるらしく、収納していた物が小さな宝箱としてドロップされるようだ。
「こんなに小さいけれど、マジックボックスなんだね。何が入っているんだろう?」
「開けてみよう」
結界を張って安全を確保して、わくわくしながら、その小さな宝箱を開いた。
途端、箱は姿を消して足元に大量の魚介類が溢れてきた。
どれも新鮮な状態で、魚や貝、海老やタコもいる。
「サハギンの食糧庫…?」
「魚だけじゃないみたいだぞ? 武器と宝石もある」
「綺麗な短刀ね」
エドの云うように、魚介類だけでなく、装飾品や短刀も箱から溢れていた。
ナギは刀身が歪曲した銀色の短刀を手に取ってみる。
前世で目にした、ククリナイフに似ていた。鞘の部分にエメラルドらしき宝石が埋め込まれており、実用品というよりは装飾品か。
他には綺麗な青色の鱗を連ねたブレスレットらしき装飾品と、黄金製の指輪が見つかった。
「これはレアドロップだったのかな…? 結構、良い物が入っていたみたいね」
「サハギンが収納スキル持ちなら、ナギのスキルで宝箱は確実に得られそうだな…」
「…出来ちゃうわね」
個体によるだろうが、少なくとも新鮮なお魚はたくさん手に入るし、運が良ければお宝もゲット出来る。
顔を見合わせて、頷き合った。
やる気を漲らせるエドに攻撃は丸投げし、ナギはドロップアイテムに変化する前に、サハギンの死骸を素早く収納していく。
「大量だね、エド!」
「ああ。しばらくは魚に困らないな」
ずっと不思議だった謎が解けて、ナギは晴れやかな気持ちで岩を飛び越える。
魚をドロップするとは、どういうことなのか。
答え、収納スキル持ちの魔物を倒した際に、稀に宝箱の形で収納品が落とされる。
他の魔物や魔獣のドロップアイテムもそうなのかは分からないが、少なくともサハギンの場合はそうなのだ。
「根こそぎ貰っちゃって申し訳ないけど、ありがたく頂戴します」
お魚は今夜の晩ごはんにしよう。
武器や装飾品、宝石などは不用なのでギルドに買い取ってもらおう。
さすがに宝箱いっぱいの魚介類は多すぎるのでそちらも買取りをお願いするつもりだ。
「追い剥ぎの気分だ……」
複雑そうな表情でぼやくエド。
ナギは笑顔で聞こえなかった振りをした。
九階層へは転移扉で移動する。
ふたたびの島エリアだ。砂浜とジャングルが広がる、未知の島。
扉近くのセーフティエリアで、他に数組の冒険者グループがいた。
若い連中が多く、四、五人ほどでパーティを組んでいる。
獣人と人族が半々くらいの割合だ。
ドワーフやエルフの姿はない。
ちょうど昼時だったので、食事休憩にすることにした。
おにぎりとオーク肉の串焼きを取り出して、黙々と食べる。
人目が気になったのでスープは諦めた。
干し肉と堅パンの食事ではないため、どちらにしろ目立ってしまっていたが。
物足りなかったのか、ジャングルに生えていたバナナをエドが採りに行った。
一房、十五本はありそうなバナナを抱えて戻ってきた少年には苦笑するしかない。
笑顔で差し出されたバナナを受け取り、お礼を言って、甘いデザートを楽しんだ。
「どうしよう。このまま九階層をめざす? 今日は休んで、明日挑戦しても良いんだけど…」
「どうせなら、十階層まで転移出来るように進んでおきたいが」
「だね。明日にはダンジョンから出る予定だし、今日中に扉か階段を見つけておこうか」
休憩していた冒険者たちも先を進むらしい。
魔獣の取り合いをしたくないので、彼らとは離れた場所からジャングルに入ることにした。
五階層より下の転移扉はランダムに出現するため、地図はあまり役に立たない。
「じゃあ、めぼしい物を採取しつつ、扉を探そうか」
「そうだな。魔獣は任せろ」
階層ごとにジャングルになる果物は違うので、ナギはひそかに楽しみにしている。
今度は何が採れるだろう。果実を守る主はいるのか、気になった。
ジャングルの中に踏み入ると、途端に熱気に包まれる。
熱を遮るローブを深くかぶり、ナギは好奇心に煌めく蒼い瞳を巡らせた。
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