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黒への分かれ道
第二章:7話 『それぞれの帰宅後』
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街中で魔法を使ったことによって体に負担をかけてしまい、魔力の消費とともに体力も失ったアレス。体に妙な倦怠感を持っていた。
「ただいまー……」
「おかえりなさいませ、アレス様!」
「―――ッ!?」
すっかり忘れていた。玄関を通ると必ず2~4人のメイド、または執事が出迎えてくれる。この時アレスは疲れによって注意力が散漫していたため、メイドからの出迎えに反応が遅れてしまう。
アレスは気だるそうに「ああ」とだけ言ってメイドたちに反応した後、真っ先に自分の部屋に向かうが、階段を登りきる直前につまずいて、こけそうになった。まだ残っている握力を使って重い扉を押して、開ける。大きなため息をついてから鞄を机に置き、体重をベッドに預ける。
(………………疲れたな……)
意識が薄れる………。
視界の色彩に黒がどんどん加えられていく。部屋の明かりが鬱陶しいくらい輝いているが、眠気が優っているため黒が有利だ。
ボーッとしてきた………。
もう、動きたくないな……。
体の力が徐々に抜けていく…。
数秒後、アレスの意識は暗闇におちた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
時刻は7時を過ぎた頃か。部屋の外から聞こえてくる賑やかな声に反応して意識が覚醒する。ちょっとした寝癖がついた深い青髪をがさがさと手櫛でいたずらに整え、手を使わないで勢いよくベッドから起き上がった。
「腹減ったぁーー!……って、もう7時過ぎてんじゃん!飯ッ!!」
明かりは寝る前に消していたため、辺りは薄暗かった。暗闇に目が慣れている今なら、足元をわざわざじっくり確認しなくても明かりをつけに行くことができる。しかし、深い青髪の少年――ダインは明かりの下には行かないでそのまま扉に向かった。
未だに残っている眠気を食欲がかき消してくれるため、意識ははっきりと覚醒している。それでも、瞼は少し重いと感じているが。
ダインがしっかりした足取りで扉まで歩き、扉を開けようと手をかけた時、
ブーッ、ブーッ、ブーッ…
警告音に似たような音が制服のズボンの右ポケットから聞こえ、振動が伝わった。
「っと、一体誰からだ……?」
そう言って、ダインがポケットから取り出したのは、丸い形をした黒い塊だった。大きさはテニスボールの直径ほどで、厚さ3、4cmぐらいの片手に収まるもの。
これは現代でいうところの携帯電話のような役割を担っており、遠く離れた場所にいる相手と会話をするための道具だ。空中に正方形で10cmほどの青白いガラスのようなものを発現させ、そこに顔を映し合いながら話し合うこともできる。青白い靄とは、液晶のような物と考えればいいだろう。
しかし、それ以上の機能はない。メールで文章を送るだとか、ゲームをするなどといったことはできない。
一昔前までは、複雑な術式を作り上げ、組み上げた術式の情報を鏡に流して相手の顔を表示し、対話するというのが主流だったが、新たな技術ができてから5年が経った今、この技術は衰退しつつある。
「ホントにこの『シェアリンカー』ができてから便利になったな………っと、早くでなきゃな……」
シェアリンカーの中央を軽く押し込むと、薄暗い闇が支配している部屋にいきなり小さな光が現れる。目が少しくらみ、視線を一旦別の方に向けるが、すぐに光の方に戻した。
「はいはい、こちらダインくんです………ってあんたか。今日は何の要件ですか、カイン先生?」
そこに映っていたのは入学式の時とは違う形をした黒フルフェイスを被った男だった。
「はっはっは、まだなってないよ。明日から正式な採用だしね。まぁ、今回は要件というか聞いて欲しいことがあっただけ………個人的なことで」
「聞いて欲しい?個人的?」
ダインは首を少しだけ傾げて聞き返した。
「そう!聞いてくれよ!今日王都の道で彼を見かけたんだ!」
「それで、いても立ってもいられずにいたずらしたと?」
黒フルフェイスの行動を先読みし、この後の発言を先に言ってしまうダイン。それに対しカインは笑いながら続きを話した。
「そうそう、道端に亀裂をいれ、子供を幻影で作り出して、作り上げた子をその道端に送り出す。あとは声を変換して女の子の声でキャァーーっと叫べばあら不思議!皆振り向いてくれた」
「女の声でキャァーとか……そんなん普通皆振り向くぞ。不思議でも何でもない」
カインは「つれないな~」とだけ反応した後、そのまま話題の続きを話し始めた。
「中でも彼……アレス君はぶっちぎりでいい反応を見せてくれたよ。皆より早く動き出してた。それに彼の魔法も見られたから僕は満足だね」
「そうですかい。んで…………そんだけ?」
「そうだよ。これが言いたかっただけだよ」
「わかりました、なら切りますよ」
ダインは一度大きなため息をついてからカインに返答する。そしてすぐに会話を切り、シェアリンカーをポケットにしまった。
腹が減ったから。
「さて、今日の飯何かな~」
鼻歌交じりに部屋から出て、食事に向かった。
「ただいまー……」
「おかえりなさいませ、アレス様!」
「―――ッ!?」
すっかり忘れていた。玄関を通ると必ず2~4人のメイド、または執事が出迎えてくれる。この時アレスは疲れによって注意力が散漫していたため、メイドからの出迎えに反応が遅れてしまう。
アレスは気だるそうに「ああ」とだけ言ってメイドたちに反応した後、真っ先に自分の部屋に向かうが、階段を登りきる直前につまずいて、こけそうになった。まだ残っている握力を使って重い扉を押して、開ける。大きなため息をついてから鞄を机に置き、体重をベッドに預ける。
(………………疲れたな……)
意識が薄れる………。
視界の色彩に黒がどんどん加えられていく。部屋の明かりが鬱陶しいくらい輝いているが、眠気が優っているため黒が有利だ。
ボーッとしてきた………。
もう、動きたくないな……。
体の力が徐々に抜けていく…。
数秒後、アレスの意識は暗闇におちた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
時刻は7時を過ぎた頃か。部屋の外から聞こえてくる賑やかな声に反応して意識が覚醒する。ちょっとした寝癖がついた深い青髪をがさがさと手櫛でいたずらに整え、手を使わないで勢いよくベッドから起き上がった。
「腹減ったぁーー!……って、もう7時過ぎてんじゃん!飯ッ!!」
明かりは寝る前に消していたため、辺りは薄暗かった。暗闇に目が慣れている今なら、足元をわざわざじっくり確認しなくても明かりをつけに行くことができる。しかし、深い青髪の少年――ダインは明かりの下には行かないでそのまま扉に向かった。
未だに残っている眠気を食欲がかき消してくれるため、意識ははっきりと覚醒している。それでも、瞼は少し重いと感じているが。
ダインがしっかりした足取りで扉まで歩き、扉を開けようと手をかけた時、
ブーッ、ブーッ、ブーッ…
警告音に似たような音が制服のズボンの右ポケットから聞こえ、振動が伝わった。
「っと、一体誰からだ……?」
そう言って、ダインがポケットから取り出したのは、丸い形をした黒い塊だった。大きさはテニスボールの直径ほどで、厚さ3、4cmぐらいの片手に収まるもの。
これは現代でいうところの携帯電話のような役割を担っており、遠く離れた場所にいる相手と会話をするための道具だ。空中に正方形で10cmほどの青白いガラスのようなものを発現させ、そこに顔を映し合いながら話し合うこともできる。青白い靄とは、液晶のような物と考えればいいだろう。
しかし、それ以上の機能はない。メールで文章を送るだとか、ゲームをするなどといったことはできない。
一昔前までは、複雑な術式を作り上げ、組み上げた術式の情報を鏡に流して相手の顔を表示し、対話するというのが主流だったが、新たな技術ができてから5年が経った今、この技術は衰退しつつある。
「ホントにこの『シェアリンカー』ができてから便利になったな………っと、早くでなきゃな……」
シェアリンカーの中央を軽く押し込むと、薄暗い闇が支配している部屋にいきなり小さな光が現れる。目が少しくらみ、視線を一旦別の方に向けるが、すぐに光の方に戻した。
「はいはい、こちらダインくんです………ってあんたか。今日は何の要件ですか、カイン先生?」
そこに映っていたのは入学式の時とは違う形をした黒フルフェイスを被った男だった。
「はっはっは、まだなってないよ。明日から正式な採用だしね。まぁ、今回は要件というか聞いて欲しいことがあっただけ………個人的なことで」
「聞いて欲しい?個人的?」
ダインは首を少しだけ傾げて聞き返した。
「そう!聞いてくれよ!今日王都の道で彼を見かけたんだ!」
「それで、いても立ってもいられずにいたずらしたと?」
黒フルフェイスの行動を先読みし、この後の発言を先に言ってしまうダイン。それに対しカインは笑いながら続きを話した。
「そうそう、道端に亀裂をいれ、子供を幻影で作り出して、作り上げた子をその道端に送り出す。あとは声を変換して女の子の声でキャァーーっと叫べばあら不思議!皆振り向いてくれた」
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「そうですかい。んで…………そんだけ?」
「そうだよ。これが言いたかっただけだよ」
「わかりました、なら切りますよ」
ダインは一度大きなため息をついてからカインに返答する。そしてすぐに会話を切り、シェアリンカーをポケットにしまった。
腹が減ったから。
「さて、今日の飯何かな~」
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