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留守番戦争
第一章:13話 『分岐点の一歩目』
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アレスに黒い紙を渡してくるカイン。
「その紙にはもう僕の血が染み込んでいるから、後は君の血をささげるだけだYO!」
「俺が契約するとでも思ってんのか?」
「まあまあ聞いてくれよ。君はこれを受け取るだけでいいんだ。後は君の好きにすればいい。破り捨てたりは~まぁできないんだけど…、入りたいときに使ってくれればいいかな。」
そう言うと、カインは手に持っていた血印呪黒の文書をアレスのズボンの右ポケットに入れた。アレスはそれを投げ返そうとしたが、アレスの心の中で何かがそれを抑止した。それはおそらくカインの言ったとおりの感情―憎しみや恨み、憤怒、厭悪だろうが、アレスはそのことに気づいていない。いや、正しくは気づかないようにしている。
「んじゃ、またいつかね。今日は両親がいないんだからゆっくり考えなよ。」
カインはその紙を渡したらすぐに部屋から出て行った。
「待てっ!!………くそッ!」
アレスはその後を追いかけたが、すでに廊下にはカインの姿は消えていた。
「アレス様!ご無事ですか!?」
苛立ち胸に秘め、取り逃がした後悔から俯いていると廊下の先の方からアレスに声をかけてくる女性がいた。ベテランメイドのテーラだ。服が所々ボロボロになっていて、スカートは戦闘に邪魔だったのか膝上まで破けている。
「こっちは無事だよ。アイリスも怪我はない?」
アレスの問いかけに返事はしないで、首を縦に振り自身の無事を2人に伝える。
「テーラこそ大丈夫なのか?結構な数がいたと思うんだが…」
「はい。侵入者らも撃退しました。」
テーラは唇を緩ませ、アレスに無事であることをより明確に伝えるために微笑んで応える。
「ただ…奴ら妙なんです。」
「妙?」
アレスが聞き返す。
「何というか…奴らから殺意というか、攻撃の意思が感じられなかったんです。まるで時間稼ぎのために足止めされたような…」
その考えは当たっている。実際、テーラが相手にしたのは下っ端、アレスが対面した方が本命。あの集団は時間稼ぎのためにテーラを相手にさせられて、カインがアレスと対話する時間を作っていたに過ぎない。
「致命傷を負わせた敵も取り逃がしてしまいました、申し訳ありません…」
テーラは深々と頭を下げる。
「いや、テーラが無事ならいいんだ。それよりもおかしくないか?」
「おかしいと言いますと?」
「あの黒組織は何であのタイミングでこの屋敷に攻め込むことができたんだ、ってこと。普段この屋敷には、いつもならテーラぐらいの…獣神ではないにせよ、それなりの戦力になるメイドや執事が他に3人いるのに、今日に限ってはテーラしかいない。そこを突かれた……。それだけじゃない、ユー…母さんや父さんもいないこともあいつは知ってた…。」
「つまり、屋敷の情報が筒抜けになっていたということですか?」
アレスは首を縦に振り肯定する。
「そういえば、アレス様はあの男と何を話されていたんですか?」
「あの男…って知ってたのか?俺があいつと話していることを。」
テーラは廊下をずっと先に行ったキッチン部屋の前で下っ端と戦っていたはずだったが、アレスとカインが言葉を交わしていたことがわかっていたようだった。
「はい、私がアレス様のもとに来る最中に、あの扉から黒服の男がこちらに走って来るのが見えましたので……。ただ、すぐに消えてしまったんですが…」
「そうか……でも、こっちも何もなかったよ。見ての通りピンピンしてる。」
「さようでございますか…」
後輩のメイドを失ってしまったためか、テーラはいつも以上にアレスの事を気にかける。いつも以上に言葉に重みがあった。
アレスの言葉に納得したテーラだったが、この会話を盗み聞いていたアイリスは疑問を持つ。
――なんで嘘をつくの…――
6歳の…それに両親を失って心の均衡が崩れているにもかかわらず、この少女は感覚で感じ取っていた。
「とにかく、厨房に行こう。ルキエルが倒れたままだし……早く弔ってやらないと…」
「はい、ルキエルもアレス様にそう思っていただける事をあの世で喜ぶでしょう…」
「アイリスはどうする?」
未だにベッドの上で怯えているアイリスは言葉を使わずに首を横に振って自分の意思を伝えた。
「わかった、ここで待っていてくれ。」
アレスはテーラと一緒に厨房へ歩いて向かう。先ほどまで体の芯に響いてくるような重い轟音が鳴っていたのが嘘だったかのように静かだ。廊下を進めば進むほど床や壁に戦闘した跡が多く見られた。
「あった。」
【オフェンシブアーマー】を使って、走った時と比べて膨大な時間がかかった。ルキエルのことを考えれば尚更だった。
あの時見た悍ましい光景。まるで故意的に作ったかのように綺麗な円を描いた血の溜まりの中央に倒れるルキエルの姿……それがある部屋を恐る恐る覗く。
しかし―――
「…っ!!…………なん…」
―――そこにあるべき体はどこにもなく、むしろこの場で何も起こっていないとすら錯覚させるほど、厨房は綺麗なものだった。
=====================
――屋敷近くの鬱蒼とした森にて――
「ご無事で何よりでしたねぇ……テーラ……それに、アーレース…さぁま。」
テーラと戦闘を行なった黒服の集団とともに行動する女性がいた。その女性―ルキエル・フレンヤードはとても楽しげに愉しげに嬉しげに喜ばしげに悦しげに………嗤っていた…………………………………
「その紙にはもう僕の血が染み込んでいるから、後は君の血をささげるだけだYO!」
「俺が契約するとでも思ってんのか?」
「まあまあ聞いてくれよ。君はこれを受け取るだけでいいんだ。後は君の好きにすればいい。破り捨てたりは~まぁできないんだけど…、入りたいときに使ってくれればいいかな。」
そう言うと、カインは手に持っていた血印呪黒の文書をアレスのズボンの右ポケットに入れた。アレスはそれを投げ返そうとしたが、アレスの心の中で何かがそれを抑止した。それはおそらくカインの言ったとおりの感情―憎しみや恨み、憤怒、厭悪だろうが、アレスはそのことに気づいていない。いや、正しくは気づかないようにしている。
「んじゃ、またいつかね。今日は両親がいないんだからゆっくり考えなよ。」
カインはその紙を渡したらすぐに部屋から出て行った。
「待てっ!!………くそッ!」
アレスはその後を追いかけたが、すでに廊下にはカインの姿は消えていた。
「アレス様!ご無事ですか!?」
苛立ち胸に秘め、取り逃がした後悔から俯いていると廊下の先の方からアレスに声をかけてくる女性がいた。ベテランメイドのテーラだ。服が所々ボロボロになっていて、スカートは戦闘に邪魔だったのか膝上まで破けている。
「こっちは無事だよ。アイリスも怪我はない?」
アレスの問いかけに返事はしないで、首を縦に振り自身の無事を2人に伝える。
「テーラこそ大丈夫なのか?結構な数がいたと思うんだが…」
「はい。侵入者らも撃退しました。」
テーラは唇を緩ませ、アレスに無事であることをより明確に伝えるために微笑んで応える。
「ただ…奴ら妙なんです。」
「妙?」
アレスが聞き返す。
「何というか…奴らから殺意というか、攻撃の意思が感じられなかったんです。まるで時間稼ぎのために足止めされたような…」
その考えは当たっている。実際、テーラが相手にしたのは下っ端、アレスが対面した方が本命。あの集団は時間稼ぎのためにテーラを相手にさせられて、カインがアレスと対話する時間を作っていたに過ぎない。
「致命傷を負わせた敵も取り逃がしてしまいました、申し訳ありません…」
テーラは深々と頭を下げる。
「いや、テーラが無事ならいいんだ。それよりもおかしくないか?」
「おかしいと言いますと?」
「あの黒組織は何であのタイミングでこの屋敷に攻め込むことができたんだ、ってこと。普段この屋敷には、いつもならテーラぐらいの…獣神ではないにせよ、それなりの戦力になるメイドや執事が他に3人いるのに、今日に限ってはテーラしかいない。そこを突かれた……。それだけじゃない、ユー…母さんや父さんもいないこともあいつは知ってた…。」
「つまり、屋敷の情報が筒抜けになっていたということですか?」
アレスは首を縦に振り肯定する。
「そういえば、アレス様はあの男と何を話されていたんですか?」
「あの男…って知ってたのか?俺があいつと話していることを。」
テーラは廊下をずっと先に行ったキッチン部屋の前で下っ端と戦っていたはずだったが、アレスとカインが言葉を交わしていたことがわかっていたようだった。
「はい、私がアレス様のもとに来る最中に、あの扉から黒服の男がこちらに走って来るのが見えましたので……。ただ、すぐに消えてしまったんですが…」
「そうか……でも、こっちも何もなかったよ。見ての通りピンピンしてる。」
「さようでございますか…」
後輩のメイドを失ってしまったためか、テーラはいつも以上にアレスの事を気にかける。いつも以上に言葉に重みがあった。
アレスの言葉に納得したテーラだったが、この会話を盗み聞いていたアイリスは疑問を持つ。
――なんで嘘をつくの…――
6歳の…それに両親を失って心の均衡が崩れているにもかかわらず、この少女は感覚で感じ取っていた。
「とにかく、厨房に行こう。ルキエルが倒れたままだし……早く弔ってやらないと…」
「はい、ルキエルもアレス様にそう思っていただける事をあの世で喜ぶでしょう…」
「アイリスはどうする?」
未だにベッドの上で怯えているアイリスは言葉を使わずに首を横に振って自分の意思を伝えた。
「わかった、ここで待っていてくれ。」
アレスはテーラと一緒に厨房へ歩いて向かう。先ほどまで体の芯に響いてくるような重い轟音が鳴っていたのが嘘だったかのように静かだ。廊下を進めば進むほど床や壁に戦闘した跡が多く見られた。
「あった。」
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しかし―――
「…っ!!…………なん…」
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――屋敷近くの鬱蒼とした森にて――
「ご無事で何よりでしたねぇ……テーラ……それに、アーレース…さぁま。」
テーラと戦闘を行なった黒服の集団とともに行動する女性がいた。その女性―ルキエル・フレンヤードはとても楽しげに愉しげに嬉しげに喜ばしげに悦しげに………嗤っていた…………………………………
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