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第5話

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「…り…うり、夕理」

まどろみの中で、ずっと聞きたかった人の声がする。おまけに優しく頭を撫でられている気がして、思わずその手に頭を擦り付けると、ふふっと笑い声が溢れてくる。ずっとこの世界に浸っていたい。生徒会長のことを何とも思っていなかったつもりだったけれど、構われなくなるとこんなに寂しくて、他の人に構っているとこんなにも胸がざわめくなんて、もう答えはひとつなんだろう。

生徒会長の業務を全うしているだけの行動が、特別な意味を持つように見えてしまうから、こんなに好きになっちゃったんだ。相当悪い人だ、あの人は。夢の中にまで出てくるようになっちゃって、本当に、困る。

「…かい、ちょ…」
「何の夢を見ているんですか?」
「えへへ、かいちょうのこえだ…」

声が聞こえるだけで勝手に口角が緩んでしまうなんて、もうだいぶ末期症状ではなかろうか。

「そんな可愛い顔で寝ていたら、襲われますよ。最近やっと、厄介な1人を払い除けたばかりなのに、まだ虫除けは続くのでしょうかね」

そういいながら、上半身を抱えられて、抱きしめられる。生徒会長に抱きしめられている夢の中にいる俺は、目の前の何かにぎゅっとしがみついた。

「あんなに聞かん坊だったあなたがこんな風に甘えるなんて、想像もつきませんでした」

まだ聞こえている声が何を言っているのかはよくわからないけれど、目の前の何かからは、何だかいい匂いがする。…いい、におい…

「っわーーーーーっ」
「いたた」
「え、ななな、なに、なんで、え?」

目が覚めると、そこは高校の屋上で、俺は夢の中の通り、生徒会長に抱きしめられていた。

「え、ちょ、え」
「何でって、あなたから抱きついてきたこと、忘れてしまったんですか」
「え、いや、あの、それは、えっと…なんていうか…」
「私の夢を見ていてくださったようで、何よりです」
「あ、いや、あの…というか、一旦、離していただいても…」

生徒会長の胸板に手を突っ張って脱走を試みるが、腰に回った腕はびくともしない。

「いやです。あなたから抱きついてきたから、もう離す必要はないですね」

そう言う生徒会長の顔は、ずっと前に屋上で脅してきた時以来、初めて見る笑顔だった気がする。

「夕理、好きですよ」
「は…」
「あなたの返事はもう必要ないです。先ほど頂いていますので」

先ほどって俺がぐっすり眠っている間じゃないか。それに言った本人は覚えていないのに、勝手にそれを返事扱いするなんて、狡すぎる。

「今日もきちんと私のネクタイを身につけていて、えらいですね、夕理。私の所有物という感じがします」
「いや、これはっ、その…カバンの中で、どっちが俺のかわかんなくなったからだっ」
「あなたに私のネクタイを着けたときが、生徒会長でよかったと初めて思った瞬間です」
「え」
「それに、ネクタイの着用も義務付けられましたし、屋上を引き続き一般生徒立ち入り禁止にする案を採択させることもできましたし、朝の挨拶活動の名の下にあなたを独り占めできましたし…外面さえ取り繕えば、生徒会は活用の幅が広くて、非常に便利でした」

半分訂正させてほしい。この生徒会長は、確かにバカだけど、全っ然、全く、一ミリも、真面目じゃない。
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