俺を注意してくる生徒会長の鼻を明かしてやりたかっただけなのに

たけむら

文字の大きさ
上 下
3 / 11

第3話 前編

しおりを挟む
「おーい、夕理?」
「…」
「歩きながら寝てんのか? もしかして」

翌朝。昨日の屋上の一件からずっと生徒会長の姿が頭の片隅にチラついて、何をするにもあまり集中できない。そんな時間がずっと続いている。

昨日屋上で見たあの生徒会長の姿が、彼の真の姿だった? いつも穏やかで偉ぶっていなくて、俺みたいな2つ下から舐められてタメ口を聞かれてしまうような彼が、別人のようだった。今まで自分は、生徒会長のことを心の中で舐めていたのだと気がつくと同時に、何だか昨日の生徒会長の手のひらの上で転がされていただけだったんじゃないか、とさえ思えてくる。

「お前、ネクタイ持ってきた?」
「あっ」
「昨日生徒会長に言われたんだろ? 今日こそ持ってこいって。仏の顔も3度までだぞ」

そうだ、ネクタイをカバンの中から探し出すと脅されたんだっけ。実はずっとカバンの中にネクタイを入れっぱなしにしている。昨日カバンを探されると聞いて取り出しておこうと思って、だけど今朝になったらすっかり忘れていた。

「やば」
「何? 忘れたの?」
「いや…」

昨日の獲物をなぶるような視線を思い出し、少しだけ鳥肌が立つ。何となく、今日はあの人に会いたくない。

黙り込んでしまった自分を不思議そうに見つめてくる悪友の背中に半分隠れるようにして、あの人のいつもの定位置から離れたところを通るべく、悪友のシャツを引っ張って制御しながら、門へと向かう。

「なんだよ、今日はひとりで突っ走ってかないのかよ」
「おはようございます、水沢さん」
「ひえっ」

後ろから悪友のシャツをつかんでさりげなく右側へと誘導していたのに、なぜか、真隣に、生徒会長が、立っている。

「夕理、俺先行ってるから」

じゃあな、とシャツを握りしめていた手を振り払って、悪友はさっさとどこかへ行ってしまう。こう言う肝心な時に逃げないでほしい。ピンチの友人を見捨てるか? 普通。

「今日はネクタイ、ちゃんと持って来ましたか?」
「あ、の」

動けうごけ俺、と必死に心の中で唱えてはいるけれど、声は出てこないし、やっぱり体も動かない。生徒会長の視線に絡め取られたかのように、身動きひとつできない俺の頬に、生徒会長が右手を滑らせる。

「昨日言っておいたでしょう? カバンの中、見られてもいいんですか?」

背の高さのリーチを存分に活用して、生徒会長は耳元にささやきを落としてくる。その言葉の僅かな吐息にも、耳が知らず熱を持っていくのがわかる。

「耳、赤くなってますよ。可愛いですね」
「ちがっ」
「仕方ないですね、今日はその可愛さに免じて、ネクタイ貸してあげますよ」

そう言いながら、生徒会長は、左手だけで自分のネクタイを緩める。その仕草が何だか板についていて、ちょっと悔しい。釘付けになっている自分をよそに、生徒会長は、大きな輪になったネクタイを首にかけてくる。きちんとネクタイを締めるために近づいた瞳の距離と、首元のあたりを動く見えない手の雰囲気に、落ち着かない気持ちになる。

永遠のような、一瞬のような時間が過ぎたあと、目の前の生徒会長は満足そうに微笑んだ。

「ちゃんと明日返してくださいね、ないと困りますので」
「っ…あんたはっ、今日、ネクタイなくていい…の、かよっ」
「心配してくださるのですか?」
「心配なんかじゃ」
「大丈夫ですよ。素行の悪い生徒に親切で貸してあげたといえば…許される」

ほら、いってらっしゃい、と雰囲気に飲まれてぼんやりとしている俺を押して、生徒会長はまた、登校中の生徒の群れへと戻っていった。ワイシャツ越しだし、そんなことありえないはずなのに、なぜかそのネクタイに熱がこもっているような気がする。

燻っている熱を吹き飛ばすが如く、早足で教室へ向かった先で、俺の姿を見た悪友はびっくり仰天した顔をしていた。

「夕理、ついにネクタイ着けたのか」

そんな悪友に生返事をして机に突っ伏すと、いつも開けている第一ボタンまできっちり締められていて、首が実に窮屈だった。しかし、もう机から起き上がる気にもなれない。

「おーい、今日は朝から変だぞ、お前」
「…っなんなんだ…」
「なんて?」
「ねる」
「あ、おいこら」

朝起きたばっかりだったけれど、この持て余している気持ちを落ち着かせるために机に突っ伏していたら、本当に眠くなってしまって、思わず爆睡をかましたなんて、あの生徒会長には口が裂けても言えない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

全寮制男子校でモテモテ。親衛隊がいる俺の話

みき
BL
全寮制男子校でモテモテな男の子の話。 BL 総受け 高校生 親衛隊 王道 学園 ヤンデレ 溺愛 完全自己満小説です。 数年前に書いた作品で、めちゃくちゃ中途半端なところ(第4話)で終わります。実験的公開作品

平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。

しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。 基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。 一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。 それでも宜しければどうぞ。

王道学園の副会長には愛しの彼氏がいるようで

春於
BL
【王道学園】腹黒ドS風紀委員長×真面目潔癖副会長 王道学園に王道転校生がやってきた だけど、生徒会のメンバーは王道ではないようで… 【月見里学園】 生徒会 〈会長〉御宮司 忍 (おんぐうじ しのぶ) 〈副会長〉香月 絢人 (かづき あやと) 〈書記〉相園 莉央 (あいぞの りお) 〈会計〉柊 悠雅 (ひいらぎ ゆうが) 〈庶務〉一色 彩葉/日彩 (いっしき いろは/ひいろ) 風紀委員 〈風紀委員長〉伊武 征太郎 (いぶ せいたろう) 王道転校生 浅見翔大 (あさみ しょうた) ※他サイトにも掲載しています

逃げるが勝ち

うりぼう
BL
美形強面×眼鏡地味 ひょんなことがきっかけで知り合った二人。 全力で追いかける強面春日と全力で逃げる地味眼鏡秋吉の攻防。

モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)

夏目碧央
BL
 兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。  ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?

お酒に酔って、うっかり幼馴染に告白したら

夏芽玉
BL
タイトルそのまんまのお話です。 テーマは『二行で結合』。三行目からずっとインしてます。 Twitterのお題で『お酒に酔ってうっかり告白しちゃった片想いくんの小説を書いて下さい』と出たので、勢いで書きました。 執着攻め(19大学生)×鈍感受け(20大学生)

俺の好きな男は、幸せを運ぶ天使でした

たっこ
BL
【加筆修正済】  7話完結の短編です。  中学からの親友で、半年だけ恋人だった琢磨。  二度と合わないつもりで別れたのに、突然六年ぶりに会いに来た。 「優、迎えに来たぞ」  でも俺は、お前の手を取ることは出来ないんだ。絶対に。  

総長の彼氏が俺にだけ優しい

桜子あんこ
BL
ビビりな俺が付き合っている彼氏は、 関東で最強の暴走族の総長。 みんなからは恐れられ冷酷で悪魔と噂されるそんな俺の彼氏は何故か俺にだけ甘々で優しい。 そんな日常を描いた話である。

処理中です...