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「どうしたんでしょうねえ、奥様。いつもなら真っ先に奥様に抱き着いて口づけを迫る旦那様が。今日はきっと雨が降りますねえ。」
「それは…そうね…。よほど忙しかったのかしら。」
伯爵家の次女として生まれた私は、まさか自分が公爵家嫡男に嫁ぐなんて夢にも思っていなかった。
だから未だにセガールの妻として多少至らないところがあるのは否めない。
突然の婚約申し込みから、あれよあれよという間にセガールの妻となった私は、日々周囲に支えてもらって妻としての仕事を何とかこなしている。
私が至らない分、セガールを忙しくさせている自覚のある私は、後ろ向きな気分を切り替えるように頭を軽く振ってすぐに自分の執務室に足を向けた。
コンコンッ
「ラシータ…こんなに頑張らなくてもいいのに…。」
「セガール、でもあなたが少しでも楽になるように私も力になりたいの。帰ってきて様子が少しおかしかったから、あなたがとても忙しくしているのだと思って…。」
「はぁ、なんで君はそんなに…。わかったよ、私の負けだ。でも無理はしないで。君はただ私のそばにいてくれるだけでいいんだから。」
「ふふふっ、そんなに甘やかしてはダメよ。もっと厳しくしてくれなきゃ。」
「じゃあ、厳しくするのは今晩まで取っておこうかな…。」
「えっ…」
「こほんっ、旦那様…。砂糖を吐きそうなのでそろそろ旦那様も執務に戻っていただけますか?書類が山のようにたまっておりますので…。」
「おい…」
「えっ…やっぱり忙しいのね?だから、あんなに早くから出かけたり忙しそうにしているのね…。ごめんなさい、もっと頑張ってあなたをきちんと支えられるようになるから。」
「ああ…ラシータ。なんて君はいじらしいんだ。たまらないな…。」
「セガール?」
「ああっ分かった分かった。じゃあ私も少し執務室にこもることにするよ。また後で…。」
そう言って私を抱きしめたセガールは部屋を出て行った。
「そんなに彼女を愛しているのに…なぜなんだっ…。」
ぽつりと呟かれた怒りを抑えたその男の声は、誰にも聞かれることもなくむなしく廊下に響いただけだった。
「それは…そうね…。よほど忙しかったのかしら。」
伯爵家の次女として生まれた私は、まさか自分が公爵家嫡男に嫁ぐなんて夢にも思っていなかった。
だから未だにセガールの妻として多少至らないところがあるのは否めない。
突然の婚約申し込みから、あれよあれよという間にセガールの妻となった私は、日々周囲に支えてもらって妻としての仕事を何とかこなしている。
私が至らない分、セガールを忙しくさせている自覚のある私は、後ろ向きな気分を切り替えるように頭を軽く振ってすぐに自分の執務室に足を向けた。
コンコンッ
「ラシータ…こんなに頑張らなくてもいいのに…。」
「セガール、でもあなたが少しでも楽になるように私も力になりたいの。帰ってきて様子が少しおかしかったから、あなたがとても忙しくしているのだと思って…。」
「はぁ、なんで君はそんなに…。わかったよ、私の負けだ。でも無理はしないで。君はただ私のそばにいてくれるだけでいいんだから。」
「ふふふっ、そんなに甘やかしてはダメよ。もっと厳しくしてくれなきゃ。」
「じゃあ、厳しくするのは今晩まで取っておこうかな…。」
「えっ…」
「こほんっ、旦那様…。砂糖を吐きそうなのでそろそろ旦那様も執務に戻っていただけますか?書類が山のようにたまっておりますので…。」
「おい…」
「えっ…やっぱり忙しいのね?だから、あんなに早くから出かけたり忙しそうにしているのね…。ごめんなさい、もっと頑張ってあなたをきちんと支えられるようになるから。」
「ああ…ラシータ。なんて君はいじらしいんだ。たまらないな…。」
「セガール?」
「ああっ分かった分かった。じゃあ私も少し執務室にこもることにするよ。また後で…。」
そう言って私を抱きしめたセガールは部屋を出て行った。
「そんなに彼女を愛しているのに…なぜなんだっ…。」
ぽつりと呟かれた怒りを抑えたその男の声は、誰にも聞かれることもなくむなしく廊下に響いただけだった。
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