見捨てられたのは私

梅雨の人

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最終話 東吾3

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小雪の葬儀が終わり、心の中にぽっかり穴が空いた俺を心配して子供たちが毎日にように会いに来てくれている。 

今日も子供たちが帰って行って一人になり、小雪のお気に入りの椅子に腰かける。 

ずっと肌身離さず持ち歩いていた小雪の遺書を取り出した俺は、静かに封を開けた。 

 

――東吾様へ―― 

 

東吾様、 


東吾様、こうして東吾様がこの手紙を読んでいるということは私は先に逝ってしまったということなのでしょう。 

 
先に東吾様を置いて逝ってしまって本当に申し訳ございません。 

つらい思いをあなたにさせてしまうだなんて。 

 

東吾様、東吾様が私を助けに来てくれた日のことを覚えていらっしゃいますか? 

あの日、東吾様は二階にいる私が助けを求めた時に颯爽と現れ攫うように連れ去ってくださいましたね? 

あの時、曇り空から太陽の光が光線のように地上に降り注いでいたのを希望の光のようだと感じたことを今でも覚えております。 

それまで東吾様に感じてしまっていた感情の蓋があの時に外れてしまったのでしょう。 

東吾さまをお慕いする気持ちを抑えることなど私にはできるはずもございませんでした。 

 

お忙しい東吾様がいつも時間をもぎ取っては私とすごしてくれたこと 

新婚旅行に連れて行ってくださったこと 

乗馬を経験させてくださったこと 

美味しいものを探しに二人で食べ歩いたこと 

私を甘やかして東吾様がいつも私に大量の贈り物を見繕って下さったこと 

私からの贈り物をいつも喜んで受け取ってくださったこと 

子供たちを授けて下さったこと 

私も子供たちも、皆を幸せに、笑顔にし続けて下さったこと 

ともに年を重ねしわくちゃになってしまった私を慈しんで下さったこと 

 

東吾様と過ごしたすべての時間が宝物のような想い出で、私は心から幸せでございました。 

ありがとうございました、東吾様。 

 

私も東吾様を同じ位幸せにして差し上げられていたら良いのですけれども。 

 

東吾様、子供たちのことをよろしくお願いいたしますね。 

向こうで東吾様のたくさんのお土産話を楽しみに気長に待たせて頂きます。 

 

いつまでも、いつまでも東吾様のことをお慕いしております。 

心から東吾様を愛させて頂いて本当にありがとうございました。 

 

愛おしい東吾様へ。 

 

小雪 

 

――― 

 

溢れる涙で文字が滲み嗚咽がもれる。
ぎゅっと読み終えた手紙を胸に抱きしめた。 

全身全霊で小雪を愛した、愛している。そして死しても尚小雪が愛おしくてたまらない。 

小雪はいつも幸せそうにしてくれていた。 

本当に心から幸せな人生を送れたのだと、こうして改めて私に教えてくれた小雪が愛おしくてたまらない。 

私たちはいつも二人でならどんなことがあっても幸せを分かち合ってきた。 

それでよかった、何も間違えていなかったのだと小雪が教えてくれた。 

小雪を見送ることは身を切るよりつらいが、こんな想いを小雪にさせなくてよかったと思う。 

 

震える俺の背中を帰ったと思っていた子供たちが抱きしめる。 


なんだお前たち、もう帰ったかと思っていたのに。 

そう言いたいのに、言葉にならない俺をずっと何も言わずに抱きしめる子供たちが愛おしい。小雪が残してくれた大事な子供たちにもう少し生きる勇気を分けてもらえた気がした。 

 

 

「おい、東吾」 

「なんだ、孝一朗か」 

相変わらず、ずかずかと屋敷に入り込んでくる孝一朗と酒を酌み交わす。 

 

「小雪が幸せな人生をおくれたのはお前のおかげだ。礼を言う。」 

「なんだ柄にもなく改まって。お前に礼を言われる筋合いはないぞ、孝一朗。」 


わいわい二人で言ってるそばから涙腺が緩くなってきたところで、俺たちの間を爽やかな風が吹き抜けた。なぜだか思わず二人で小雪の遺影を見つめた。 

 

そこには心から幸せそうな笑みを浮かべている小雪がいた。 


 

【完】 

 

長い間お付き合いくださいましてありがとうございました。 
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