見捨てられたのは私

梅雨の人

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東吾1

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俺の親父と小雪の親父は親友で、その縁もあってか幼いころから藤堂家を度々親父と訪れていた。 

そのころの俺はヒョロヒョロで人見知りで自分から誰かに話しかけるということが苦手だった。 

しかし小雪の兄貴の孝一朗はそんな俺の事情など知ったことかとどんどん俺の心の中の領域に勝手に侵入してきて、いつの間にか大人になってもなんだかんだと気の置けない親友になってしまっていた。 

 
藤堂家の屋敷で小雪を初めて目にしたときは、まだほんの小さな女の子だった。

だがそのころからすでに小雪の無邪気さとかわいらしさに癒されている自分を感じながらも何と声をかけていいのかわからなかった俺は、唯々遠くから眺めているだけだった。 

 
そんなことを十年ほど繰り返した俺は大分成長したと思っていたが、それでも俺を心配した親父は、他国の鉄道技術を学ぶために異国に赴くことになったついでにと俺を連れて行くことにしたらしい。 

出国して船に揺られているときに、小雪の笑顔が度々脳裏にちらついて異国で過ごしている間も何度も小雪のことを思い出していた。 


「思い切って話しかけてみればよかったな」 

なんて言葉が思わず口からこぼれ出ていた。孝一朗とは馬鹿ばかり言いあっていたのに結局小雪とは一言も話せずじまいだった。 

思いの外長く海外で過ごし、荒治療とでもいうべきか対面する人々と俺はいつも引き合わせられて、必死に会話をするにつれて帰国したころにはすっかりと人見知りをしていた過去が幻だったのではと言われるまでになっていた。 


帰国した俺は今度こそはと小雪に会いに行こうとしたが、時すでに遅く小雪は大河内亮真の妻になった後だった。 

ぽっかりと心に穴が開いたような気分でそれから忙しい日々を過ごしていたが、ある日妹の墓参りに出かけた先で偶然小雪と再会した。 

こんな偶然あるか?とかなり驚いたが、それよりも小雪が雨の中、男を引きずるようにしているのを目にして何事かと流石に驚いた。 

それからというもの、小雪に会えるかもと以前よりもかなり頻繁に墓参りに訪れた。 

おかげで小雪にその後何度か会うことが出来た。 

小雪は俺のことを覚えていなかった。
悩んだが初めて会ったということにして小雪に接することに決めた。


あの時、退院する小雪を大河内亮真が迎えに来なかった時からもしかしてと思っていたが、やはり夫婦仲はうまくいっていないようだった。 

探るようなことはしたくなかったが、大河内亮真の義理の姉が絡んでいるのだと簡単に知る事ができた。 
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