見捨てられたのは私

梅雨の人

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「小雪?!小雪?!大丈夫か小雪?!」 

「旦那様、どうかお静かに!あまり騒がしくされるなら部屋から出て行ってもらいますよ!」 

陣痛が始まって屋敷に産婆さんが駆けつけてきてくださいました。 

周期的に訪れる陣痛の感覚がどんどん短くなるにつれ、今まで感じたことのないような激しい痛みに襲われております。 

産婆さんはさすがになれているのか様子見をしながら用意をしてくれておりますが、東吾様は私よりもつらそうなお顔で何度も私が大丈夫か慌てふためいて問いかけてきております。 

東吾様があまりにも慌てていらっしゃるので、ついに産婆さんがあまり慌てるようなら部屋から出て行ってもらうとお怒りの御様子でございます。 

耳がシュンと垂れさがった子犬のようになった東吾様でございますが、それでもずっと私の手を握り締めて下さっております。 

 

痛みが襲ってくるたびに、次第に私の方が東吾様を握り締める手に力が入ってしまいます。 

「小雪…」 

泣きそう顔で私に寄り添って下さる東吾様が汗を拭きとってくださいます。 

痛みが激しくなり、陣痛が引いた瞬間に次第に疲れてしまって、つい眠りに落ちてはまた痛みによって眠りから目を醒ますことを繰り返してしまいます。 

 
「奥様、力んでください。そう。上手上手。そのまま…頭が出てきましたよ!」 

「ああっ…」 

あまりの痛みに頭の中が真っ白になります。 

「はい、奥様また力んで!そう、そのまま!」 

「小雪っ…!」 

「あああっ…東吾…さまっ…!」 

爪が食い込むくらい強い力で東吾様の手を握り締めております。 

「もう少し…そう…よしっ!出てきましたよっ!」 

 

おぎゃっ…おぎゃっ…おぎゃー 

 

「奥様、旦那様、おめでとうございます。元気な男の子ですよ!」 

「小雪!小雪、頑張ったな…頑張った…ありがとう、小雪…」 

「東吾様…」 

目の前で東吾様は私を抱きしめて男泣きに泣いております。 

初めて東吾様の涙を目に致しまして、私も思わずもらい泣きをしてしまいます。 

「まあまあ、仲の良いご夫婦だこと。よかったねえ、仲の良いご両親で。」 

そう言って産婆さんは生まれたばかりの我が子を私のお腹の上に横たえて下さいました。 

初めて見る我が子は目がまだ開いていませんのにお乳を口に含むとふぐふぐとおっぱいを飲み始めました。 

「かわいい…」 

産まれたばかりの我が子はとても小さくて暖かくて、まだどちらに似ているのか分かりませんが無事に産まれて来てくれたことに心から安堵いたしました。 

おっぱいを口に含んでいる我が子を見て、俺の…とつぶやいた東吾様に産婆さんは思わず呆れておりましたが。 

東吾さまと夫婦となり、この子の親になれたこと、そして東吾様とその喜びを分かち合えることに幸せを噛み締めたのでした。 
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