見捨てられたのは私

梅雨の人

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「おめでとうございます。これは間違いなくおめでたですね。今は、ええと…7週目です。つまり…予定日は来年の春3月の終わり頃になりますね。」 

お医者様のお言葉に喜びの衝撃を受けたと同時に東吾様がぎゅっと私を抱きしめてくださいます。 

「東吾様…」 

「小雪、ありがとう、ありがとう…俺たちの子供だぞ…ああ…こんなにうれしいものなのかっ…」 

「東吾様ったら…私もとても嬉しいです。東吾様がそんなに喜んでくださって…この子に会うのが待ちきれないですね…」 

「ああ…」 



「あの…」 

二人でまだまっ平らなお腹に手を当てて喜びを噛み締めておりましたが、お医者様がいらしたことをすっかり忘れておりました。 

人前で東吾様と抱きしめあっていたことに羞恥して真っ赤になる私を当たり前のように腕から話して下さらない東吾様は、お医者様に客間で待っていてくれるように頼んでおられます。 

「わかりました。ではそちらの部屋で待たせて頂きます。妊娠中の注意事項や、それと今後の予期される体調の変化などお伝えしたいこともございますので。」 

「ああ、助かるよ。すぐに行くから待っていてくれ。」 


それからお医者様は部屋を出ていかれました。 

 
「小雪、愛してるよ。本当にありがとう。それと今日はとにかく横になっていてくれ。俺は話が終わったらすぐに戻ってくる。もしも具合が少しでも悪くなったらすぐにこの呼び鈴で知らせるんだぞ?ああ、そうか、数人、使用人をこの部屋で待機させておこう。」 

「東吾様、そこまでしていただかなくても…」 

「頼む小雪、小雪が心配なんだ。何より俺には小雪が大事なんだよ。だから俺のためのと思って?」 

「東吾様…大好き…」 

思わずこぼれ出た言葉に羞恥ではっと戸惑った瞬間に、余裕のない東吾様に口づけをおくられておりました。とても情熱的でそれでもとても優しい口づけでございます。 


東吾様にその後抱きしめられたままじっとしておりましたら眠気に襲われてしまいました。いつのまにか私はそのまま瞳を閉じておりました。 

ですので、眠ってしまった私を気遣いながら東吾様が静かに部屋を出ていかれて、お医者様の話を神妙に聞き終わった後に、速攻で走って私の部屋に戻って来られたことなど気が付くことが出来ませんでした。 

「眠っている奥様の寝台のすぐそばで書類仕事を片付けている東吾様が何度も奥様の様子を確認していてとても微笑ましかったんですよ。」 

その次の日、過保護な東吾様に手を引かれて庭を散歩した後に休憩していると、お茶を持ってきてくれた使用人が、とても微笑ましそうにそう教えてくれました。 

その時の東吾様が目に浮かんできてますます東吾様を愛おしく感じてしまうのでした。 
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