見捨てられたのは私

梅雨の人

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「どうした小雪?」 

「源坊様のお子様、本当にかわいかったですね…あの小さな体で頑張ってお母さまのお乳をお求めになられて…」 

「そうだなぁ確かにかわいかったがやっぱり俺には小雪が一番だ。」 

「また、東吾様ったら。真面目に言っておりますのに。」 

「わかったわかった」 

「もう、東吾様ったらたら…え…?…」 

「小雪!」 

 

視界が急にぐわんぐわんと回り、東吾様の声が遠くに聞こえた気が致しました。
そして気が付けば寝台の上に寝かされておりました。 

「…東吾様…?」 

「…小雪、気分はどうだ?」 

「…気分は…少し体が重たいような気が致します…」 

「小雪…大丈夫だ、大丈夫だからな…」 

 
いつも飄々としていらっしゃる東吾様がこのように取り乱している表情を隠しきれていないのを目にするのは初めてのことでございます。 


だから東吾様を安心させなければと思ったことを言葉に表します。

「はい、東吾様。東吾様がいてくれるから、だから大丈夫ですよ…」 

「そうか、…そうだよな、小雪…」 

上掛けから東吾様へと伸ばした私の手を東吾様は両掌で握りしめてくださいます。 

「小雪…」 

自分の体に何が起きたのか分かりませんが、それでも死にそうな顔をしていらっしゃる東吾様をどうにかお慰めしなければと思考を巡らせます。しかし体が思うように動いてはくれません。 


コンコン 

「旦那様、お医者様が到着いたしました。」 

「早く入ってもらってくれ。」 


「失礼いたします。医師の坂東でございます。こちらが奥様の小雪様でございますね?」 

「ああ、頼む。」 

「承知いたしました。すぐに診断させて頂きます。奥様、失礼いたします。」 

「よろしくお願いいたします、先生。」 

 お医者様が診察してくださるのを神妙な顔で東吾様が見つめておられます。


「奥様、失礼ですが最後に月の物があったのはいつだったか覚えておられますか?」 

「月の物…ですか?あれは…ええと…」 

「先月の頭、確か3日だった。」 

「と…東吾様…」 

「小雪のことなら俺は何でも知ってるからな…。それで、先生?」 

 

先を急かすように東吾さまの視線がお医者様の言葉を待ち構えていらっしゃいます。 
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