見捨てられたのは私

梅雨の人

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「君は、大河内殿か。」 

「お久しぶりです、藤堂殿、小雪さん。」 

 

「お久しぶりでございます。お義兄…いえ、太賀様。」 

「大河内殿は一人か?」 

「ええ、ちょっと疲れた時にたまにこうして一人で来るようにしています。甘いものを何も考えずに頂くようにしているんですよ。一人で甘いものを食べると私は頭の中をすっきりさせることが出来るので割と気に入っているんです。やはり男一人でこういう店に入るのは最初は勇気が必要でしたがね…。」 

「ああ、なるほど。君と俺は同じ穴のムジナだな。俺と君はやることが一緒だ、嫌一緒だったが正解か。俺は今は一人でいるより小雪といることにしているからな。」 

「なるほど。小雪さんは藤堂殿にとても大切にしてもらっているのでんだね。」 

「はい、とても今幸せでございます。」 

「そうか、本当に良かった。あなたにはつらい思いばかりをさせてしまったから私なりに気になっていたんだ。」 

「それは…」 

「そこまでだ。その話はもう小雪には必要ない。過去は過去、だ。今小雪は俺と夫婦で幸せなんだから、君らが気にかけることは何もない。そうだろ、小雪?」 

「そうですね、東吾様。だから太賀様、お気になさらないでくださいませ。」 

「そうか…分かったよ、小雪さん。ああ、そうだ。美知恵と息子を待たせていたんだった。息子も成長してね、今日は乳母に任せて美知恵を屋敷で休ませてるんだよ。甘いものが好きみたいだから何個か持って帰ってやろうと思ってね。」 

「美知恵さんはお元気でいらっしゃいますか?」 

「ああ、おかげさまで元気にしているよ。小雪さんがとても幸せそうにしていたと伝えても良いだろうか。」 

「ええ、私からもよろしくお伝えくださいませ。」 

「良かった、ありがとう。ああ、必ず伝えておくよ。会えてよかった。一宮殿、小雪さん、お先に失礼します。」 

 

ルナ洋菓子店の箱を抱えて店を出て行った太賀様を見送った直後に東吾様の注文してくださったケーキと飲み物が運ばれてきました。 

 

「美味しそう…」 

「食おう、小雪。」 

「ええ、亮真様。ああ、どれからにいたしましょう。やっぱりこの洋ナシケーキから…いえ、最後に取っておきたい気も致しますし…どういたしましょうか…」 

「くくくっ、好きに食べたらいい、足りなければ追加で注文すればいいだけだ。」 

「でもそんなにたくさんはお腹に入らないでしょう?」 

「心配いらない。俺は大食漢だと以前教えたのを覚えているか?大食いでうちの母は乾いた笑いばかり出していたんだぜ?」 

「そこまでですか…では、大船に乗ったつもりで頂きますね、東吾様。」 

「ああ、食べよう食べよう!」 

 

ルナ洋菓子店と聞いて以前でしたら亮真様と琴葉様のことを思い出しては悲しい思いをしておりましたが、東吾様はそんな思いを一気に吹き飛ばしてくださいました。 

嫌な想いでも新たに楽しく幸せいっぱいの気分にさせて下さる東吾様は本当に不思議でおおらかな方でございます。 

まるでその全てで私を包み込んで幸せを分け与えてくださっているような気分にさせてくださいます。 

 

太賀お義兄様にお会いしてもようやく大河内家の皆様のことを思い出したくらいで、思うのは皆さまがご健勝で幸せに過ごせていますようにということだけでございました。 

東吾様と一緒になってから大河内家の皆様を思い出す暇もないくらい幸せにして頂けていたのだと改めて実感したのでした。 
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