見捨てられたのは私

梅雨の人

文字の大きさ
上 下
113 / 147

106

しおりを挟む
「小雪、この二人にはこの別荘の管理を夫婦で任せている。俺たちがいる間は必要最低限の掃除やら調理をしてもらって用がなければあそこにある二人に用意した家に戻ってもらう。」 

「奥様、始めまして。管理人の高西と妻の紗枝でございます。どうぞお気軽にご用があればお声をかけてくださいませ。」 

 「初めまして。小雪と申します。滞在の間どうぞよろしくお願いいたします。」

「奥様そんなに畏まらないでくださいませ…」

「さあ、もういいかな。中に入ろうか。小雪、こっちだよ。」 

「ええ、東吾様。」 

東吾様に手を引かれて別荘の中へ入ります。 

全体が淡い白色で統一されて、装飾品も品の良い壺にかわいらしい花々が活けられておりとても落ち着く空間となっております。 

 

「そしてここが俺たちが今日から一緒に過ごす部屋だ。」 

「わぁ…」 

 

建物の一階部分のそのほとんどを一つの空間にして、大きな窓ガラス越しにはきらきらと輝く湖が広がっております。 

「そこから出て直接湖を散策できるようになっている。ここは俺たちの所有地だから他人は決して足を踏み入れることが出来ないようになっているが、外に出るなら俺に絶対に声をかけてくれ。」 

 

はい、と頷くと嬉しそうな東吾様が次は、と部屋中を見せて下さります。 

窓際には座り心地のよさそうな長椅子とテーブルがゆったりと配置されておりまして、ここでのんびりと東吾様とすごせると思いますと心が躍ります。 

 

「そして、ここは内湯と露天風呂が仕切りでつながってるんだ。」 

十人は余裕で入れそうな内湯と露天風呂には温泉がかけ流されております。 

 

「後で一緒に入ろうな、小雪。」 

「…はい、東吾様…」 

「…じゃあ、次に行こうか、おいで小雪。」 

 

 

「ここは一応避暑地だから夏は比較的涼しいが冬はめちゃくちゃ寒いからな。こうして暖炉が備え付けられているんだ。」 

「冬景色の湖畔もとても美しいのでございましょうね。」 

「ああ、冬にもここに一緒に来ような、小雪。」 

「はい、東吾様。」 

「楽しみだ…ああ、そしてここは簡単な調理ができるようになっている。あまり必要ないとは思うけど。後あっちにあるのが小雪の化粧部屋だよ。見てみる?」 

「ええ、是非とも。」 

 

そう言って東吾様に連れて行ってもらった化粧部屋はと手も広くて私一人で使うにはもったいない気が致します。 

「ああ、小雪。広すぎて落ち着かないって顔だな。心配しなくていいぞ。ほらここに俺専用の椅子があるだろ?寂しくないようにいつも俺がここで小雪を待っててやる。」 

「恥ずかしいですわ…」 

「…かわいいなあ小雪は…。」 

「またかわいい可愛いと…東吾様ったら…」 

「はははっ本当のことだ。それに誰も聞いちゃいないさ。それで…ここが寝室だ。おいで、小雪。」 

一歩底に足を踏み入れると、大きな寝台と綺麗に輝く湖畔が目の前に広がっております。 

「…気に入った、小雪?」 

「東吾様…ここまで用意してくださって言葉にしようがございません。私は本当に幸せ者でございます…」 

「…小雪…」 

 

それが当然かのようになにかに吸い寄せられるように抱きしめあって、お互いにぴったりとくっついて隙が無いほどに求め合います。 

 

たくさんの愛を囁かれて何度も何度も終わりなく求められるのが心の底から嬉しくて、幸せで流れる涙を東吾様が啜ってくださるたびに本当に東吾様と夫婦になれてよかったと心から思うのでした。 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

完結 嫌われ夫人は愛想を尽かす

音爽(ネソウ)
恋愛
請われての結婚だった、でもそれは上辺だけ。

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

報われない恋の行方〜いつかあなたは私だけを見てくれますか〜

矢野りと
恋愛
『少しだけ私に時間をくれないだろうか……』 彼はいつだって誠実な婚約者だった。 嘘はつかず私に自分の気持ちを打ち明け、学園にいる間だけ想い人のこともその目に映したいと告げた。 『想いを告げることはしない。ただ見ていたいんだ。どうか、許して欲しい』 『……分かりました、ロイド様』 私は彼に恋をしていた。だから、嫌われたくなくて……それを許した。 結婚後、彼は約束通りその瞳に私だけを映してくれ嬉しかった。彼は誠実な夫となり、私は幸せな妻になれた。 なのに、ある日――彼の瞳に映るのはまた二人になっていた……。 ※この作品の設定は架空のものです。 ※お話の内容があわないは時はそっと閉じてくださいませ。

【完結】二度目の人生に貴方は要らない

miniko
恋愛
成金子爵家の令嬢だった私は、問題のある侯爵家の嫡男と、無理矢理婚約させられた。 その後、結婚するも、夫は本邸に愛人を連れ込み、私は別邸でひっそりと暮らす事に。 結婚から約4年後。 数える程しか会ったことの無い夫に、婚姻無効の手続きをしたと手紙で伝えた。 すると、別邸に押しかけて来た夫と口論になり、階段から突き落とされてしまう。 ああ、死んだ・・・と思ったのも束の間。 目を覚ますと、子爵家の自室のベッドの上。 鏡を覗けば、少し幼い自分の姿。 なんと、夫と婚約をさせられる一ヵ月前まで時間が巻き戻ったのだ。 私は今度こそ、自分を殺したダメ男との結婚を回避しようと決意する。 ※架空の国のお話なので、実在する国の文化とは異なります。 ※感想欄は、ネタバレあり/なし の区分けをしておりません。ご了承下さい。

業腹

ごろごろみかん。
恋愛
夫に蔑ろにされていた妻、テレスティアはある日夜会で突然の爆発事故に巻き込まれる。唯一頼れるはずの夫はそんな時でさえテレスティアを置いて、自分の大切な主君の元に向かってしまった。 置いていかれたテレスティアはそのまま階段から落ちてしまい、頭をうってしまう。テレスティアはそのまま意識を失いーーー 気がつくと自室のベッドの上だった。 先程のことは夢ではない。実際あったことだと感じたテレスティアはそうそうに夫への見切りをつけた

女性として見れない私は、もう不要な様です〜俺の事は忘れて幸せになって欲しい。と言われたのでそうする事にした結果〜

流雲青人
恋愛
子爵令嬢のプレセアは目の前に広がる光景に静かに涙を零した。 偶然にも居合わせてしまったのだ。 学園の裏庭で、婚約者がプレセアの友人へと告白している場面に。 そして後日、婚約者に呼び出され告げられた。 「君を女性として見ることが出来ない」 幼馴染であり、共に過ごして来た時間はとても長い。 その中でどうやら彼はプレセアを友人以上として見れなくなってしまったらしい。 「俺の事は忘れて幸せになって欲しい。君は幸せになるべき人だから」 大切な二人だからこそ、清く身を引いて、大好きな人と友人の恋を応援したい。 そう思っている筈なのに、恋心がその気持ちを邪魔してきて...。 ※ ゆるふわ設定です。 完結しました。

さよなら私の愛しい人

ペン子
恋愛
由緒正しき大店の一人娘ミラは、結婚して3年となる夫エドモンに毛嫌いされている。二人は親によって決められた政略結婚だったが、ミラは彼を愛してしまったのだ。邪険に扱われる事に慣れてしまったある日、エドモンの口にした一言によって、崩壊寸前の心はいとも簡単に砕け散った。「お前のような役立たずは、死んでしまえ」そしてミラは、自らの最期に向けて動き出していく。 ※5月30日無事完結しました。応援ありがとうございます! ※小説家になろう様にも別名義で掲載してます。

【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」 王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。 無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。 だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。 婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。 私は彼の事が好きだった。 優しい人だと思っていた。 だけど───。 彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

処理中です...