見捨てられたのは私

梅雨の人

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「ああーたまらん。なんでそんなに可愛いんだ小雪!」 

「ちょっ…東吾様!」 

「ああ、すまんすまん。ついつい」 

「ついついではございませんよ…あ…申し訳ございません。お騒がせしました。」 


「いえいえ、仲がよろしくて微笑ましいことでございます。ご夫婦でご旅行ですか?」 

「ええ…その…「ええ、新婚旅行ですよ。妻があまりにも可愛くて取り乱してしまって申し訳ない。」」 

「まあまあ、新婚旅行中でこの店によってくださったのですか?それならうんとサービスしないと!すぐにお持ちいたしましょう。」 

にこにこと機嫌のよさそうな女将さんが店の奥に入っていくのを見送って先ほどの会話を思い出します。 

東吾様にこうして私のことを妻として紹介されるのは初めてのことではありませんのに、心の準備が出来ていなかったせいか不意打ちのように『妻』と呼ばれて動揺を隠しきれておりません。 

とても胸の中がくすぐったくて鼓動がトクントクンと聞こえてきそうでございます。 

頬が赤くなっているのを東吾様に見られるのが恥ずかしくて両掌で隠そうとすると亮真様が私の隣にきてギュッと抱きしめてくださいました。 

 

周りのお客様方がざわめき、こちらを見ておられますが東吾様はどこ吹く風のごとく気にしておられません。 

「まあまあお客さま、本当に仲がよろしいことで。ほほほっとても羨ましい。こちらこの地域でとれたミカンで作ったゼリーというものなんですけれども良ければ召し上がってくださいませ。」 

「ありがとう女将。ありがたく頂くよ。ほら小雪。」「まあ…ありがとうございます。とてもおいしそうですね。」 

プルンプルンと揺れるゼリーを慎重に掬って口に含むと、すっきりとした甘みとともに果肉がジュワッと広がりました。とても食べやすくてその甘酸っぱい味に虜になってしまいました。 

「小雪、気に入ったか?」 

「ええ、とても美味しかったです!」 

「そうか、よかったな!じゃあ土産で売ってるか聞いてみよう。」 

「よろしいのですか?」 

「あたりまえじゃないか。ああ、そうだ。ついでに屋敷に送ってもらうよう手配して、これからもたまに取り寄せよう。」 

「東吾様…」 

「なんだ小雪、これ位の優しさでドキドキするようじゃあ先が持たないぞ?」 

「東吾様…」 

「小雪…可愛いなあ…」 

結果、東吾様の可愛いが再び飛び出して参りました。
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