見捨てられたのは私

梅雨の人

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琴葉1

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「待って、待って亮真さん!」 

いくら叫んでも振り返っても立ち止まってもくれないなんて信じられなかった。 

絶対に亮真さんは私のところに戻ってくる――。 

その後、そう信じていた私が亮真さんに必死に縋ると亮真さんは私を受け入れてくれた。 

どうにか小雪さんの代わりに私が亮真さんに愛されようと必死で縋った。 

あと少し、あと少しで亮真さんと繋がれるところで小雪さんの視線に気が付いた。それが愉快でおかしくて少し油断してしまったのがいけなかったのだろう。 

私の視線に目ざとく気が付いた亮真さんが小雪さんが私たちを見ているのに気が付いてしまった。 

そのまま私を小雪さんの前で受け入れてくれてくれたら傑作だったのに…はっとした亮真さんは我に返ったのか、私を嫌悪のまなざしで引きはがそうとした。

必死に縋る私を罵倒して、ついには大きなごみを力任せに放り投げるかのように払いのけた。
そしてそのまま小雪さんの後を追って慌ててその場からいなくなってしまった。 


私は別に亮真さんを本気で慕っていたわけではなかった。 

私のことをいつまでもきらきらとした瞳で見てくれていた亮真さんが妻となった小雪さんより私を優先してくれるのが嬉しかった。 

太賀とうまくいかなくて亮真さんにうまく取り入ればこのまま亮真さんの隣で一生何不自由なく、ちやほやされて暮らしていけると思っていた。 

小雪さんのさびしそうな顔を見るたびに優越感に浸れて義母とうまくいかない日々の苛立ちも、太賀と実はうまくいっていない不安も吹き飛ぶ爽快さを覚えてしまった。 

別に亮真さんに私を優先してなんて頼んだわけではない。亮真さんが私を小雪さんよりも優先することを選んでいただけなのに。 

屋敷まで亮真さんの使用人に送り届けてもらった後、太賀はしばらくお義父と部屋に籠って話し込んでいるようで、私は取り付く島もなかった。 

この家に嫁いできてからというもの徐々に太賀が私に冷たくなってきていたのは感じていたけれども、なぜわたくしがこんな扱いを受けなければならないのか意味が分からなかった。 

わたしをもっと見てもっと愛してと願ってもなぜか太賀の瞳には熱が全くこもっていなかった。 

こんなに、こんなに太賀を愛しているのに。 
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