見捨てられたのは私

梅雨の人

文字の大きさ
上 下
88 / 147

84

しおりを挟む
琴葉お義姉様が部屋から出ていかれてから、亮真様にずっと抱きしめられておりました。

どの位の間そうしていたでしょう。 もう時間の感覚がおかしくなってきているような気が致します。



「小雪、夕餉に行くぞ。」 

「行く…のですね?」 

「ああ…部屋を出たかったのだろう?」 

「よろしいのですか?」 

「ああ。」

亮真様が手慣れた様子で私の身だしなみを整えてくださるのを呆然と見つめておりますと不意にふわりと抱きかかえられておりました。 

抱きかかえられているとはいえ部屋から出ることが出来てほっと致します。 

亮真様の腕の中から見える屋敷の中は以前と変わりありませんが、そばに控えている使用人はやはり戸惑っているように思えます。


昼食を兼ねた早めの夕餉ということでたくさんの料理が並べられております。 

「あの、亮真様。手を…」 

「ああ、君の手は本当に小さくて柔らかいな。」 

亮真様は私を膝の上に抱えたまま器用にも片手は私の手をそしてもう片方で箸を操っておられます。 

「昼食を食べていなかったから腹が減ったな。小雪、美味いか?」 

「はい…」 

「そうか…」 

「あの…亮真様も召し上がりませんか?私ばかり頂いて申し訳ないですわ…」 

「…。」 

亮真様は突然はぁッと大きなため息を吐いた後、ぎゅっと私を抱きしめてこられました。 

その後黙ったままの亮真様は何も言わずに料理を私の口に運んでくださりました。 

側に控える使用人たちはこちらを見ないように壁際に控えております。 

「恥ずかしがることはないだろう?俺たちは夫婦なのだから…ふっ…」

結局膝の上に乗せられたまま食事を終えるころには私の顔は羞恥で顔が真っ赤になってしまいました。 

使用人の皆もこちらをなるべく見ないように違う方向を向いております。 

 「ご馳走様でした」
「さあ、行こうか小雪。」
食事を終えてからも当たり前とばかりに亮真様に抱きかかえられて廊下に出てきました。 

「亮真様、重くないですか?」 

「君はもう少し食べでもいいくらいだ。」 

「そうですか?」 

「ああ、そうだ…。もっと美味いものをたくさん食べさせてやらなければいけないな…。」 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです

こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。 まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。 幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。 「子供が欲しいの」 「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」 それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。

本編完結 彼を追うのをやめたら、何故か幸せです。

音爽(ネソウ)
恋愛
少女プリシラには大好きな人がいる、でも適当にあしらわれ相手にして貰えない。 幼過ぎた彼女は上位騎士を目指す彼に恋慕するが、彼は口もまともに利いてくれなかった。 やがて成長したプリシラは初恋と決別することにした。 すっかり諦めた彼女は見合いをすることに…… だが、美しい乙女になった彼女に魅入られた騎士クラレンスは今更に彼女に恋をした。 二人の心は交わることがあるのか。

モラハラ王子の真実を知った時

こことっと
恋愛
私……レーネが事故で両親を亡くしたのは8歳の頃。 父母と仲良しだった国王夫婦は、私を娘として迎えると約束し、そして息子マルクル王太子殿下の妻としてくださいました。 王宮に出入りする多くの方々が愛情を与えて下さいます。 王宮に出入りする多くの幸せを与えて下さいます。 いえ……幸せでした。 王太子マルクル様はこうおっしゃったのです。 「実は、何時までも幼稚で愚かな子供のままの貴方は正室に相応しくないと、側室にするべきではないかと言う話があがっているのです。 理解……できますよね?」

私が妻です!

ミカン♬
恋愛
幼い頃のトラウマで男性が怖いエルシーは夫のヴァルと結婚して2年、まだ本当の夫婦には成っていない。 王都で一人暮らす夫から連絡が途絶えて2か月、エルシーは弟のような護衛レノを連れて夫の家に向かうと、愛人と赤子と暮らしていた。失意のエルシーを狙う従兄妹のオリバーに王都でも襲われる。その時に助けてくれた侯爵夫人にお世話になってエルシーは生まれ変わろうと決心する。 侯爵家に離婚届けにサインを求めて夫がやってきた。 そこに王宮騎士団の副団長エイダンが追いかけてきて、夫の様子がおかしくなるのだった。 世界観など全てフワっと設定です。サクっと終わります。 5/23 完結に状況の説明を書き足しました。申し訳ありません。 ★★★なろう様では最後に閑話をいれています。 脱字報告、応援して下さった皆様本当に有難うございました。 他のサイトにも投稿しています。

わたしは不要だと、仰いましたね

ごろごろみかん。
恋愛
十七年、全てを擲って国民のため、国のために尽くしてきた。何ができるか、何が出来ないか。出来ないものを実現させるためにはどうすればいいのか。 試行錯誤しながらも政治に生きた彼女に突きつけられたのは「王太子妃に相応しくない」という婚約破棄の宣言だった。わたしに足りないものは何だったのだろう? 国のために全てを差し出した彼女に残されたものは何も無い。それなら、生きている意味も── 生きるよすがを失った彼女に声をかけたのは、悪名高い公爵子息。 「きみ、このままでいいの?このまま捨てられて終わりなんて、悔しくない?」 もちろん悔しい。 だけどそれ以上に、裏切られたショックの方が大きい。愛がなくても、信頼はあると思っていた。 「きみに足りないものを教えてあげようか」 男は笑った。 ☆ 国を変えたい、という気持ちは変わらない。 王太子妃の椅子が使えないのであれば、実力行使するしか──ありませんよね。 *以前掲載していたもののリメイク

【完結】私の婚約者はもう死んだので

miniko
恋愛
「私の事は死んだものと思ってくれ」 結婚式が約一ヵ月後に迫った、ある日の事。 そう書き置きを残して、幼い頃からの婚約者は私の前から姿を消した。 彼の弟の婚約者を連れて・・・・・・。 これは、身勝手な駆け落ちに振り回されて婚姻を結ばざるを得なかった男女が、すれ違いながらも心を繋いでいく物語。 ※感想欄はネタバレ有り/無しの振り分けをしていません。本編より先に読む場合はご注意下さい。

お飾りの妃なんて可哀想だと思ったら

mios
恋愛
妃を亡くした国王には愛妾が一人いる。 新しく迎えた若い王妃は、そんな愛妾に見向きもしない。

処理中です...