見捨てられたのは私

梅雨の人

文字の大きさ
上 下
77 / 147

73

しおりを挟む
「とにかくこんなところで立ち話はやめよう。小雪さんが風邪をひいてしまう。」 

「ああ、すまないな、小雪。早く中に入ろう。」 

「小雪さん、これよければ使って?」 

一宮様はふわりと暖かな外套 を私の肩にかけてくださりました。 

一宮様の、男性の匂いのするその大きな上着はとても暖かくて一気に張りつめていた心がほぐされていくのを感じました。

亮真様にいつもこのように大事にされていたお義姉様は今の私と同じような心地よさを感じていらっしゃったのでしょうか。本当にとても大きくて…暖かくて…心の琴線が緩んできてしまいます 


「えっ??小雪さんっ?」 

「小雪っ、どうしたっ?」 

「おい、お前の上着匂いがきついんじゃないのか?」 

「え??いや、それはないと思うが…そうなのかい?小雪さん?」 


お二人の慌てぶりと軽快なやり取りを聞いているとここしばらく感じることのできなかった安心感がどっと押しかけてきたような気がいたしました。 

涙が止まらない私をお兄様が抱き上げて下さいました。 

◇◇◇◇ 

「相当無理してたんだろう。」 

「もう向こうには返す必要もないだろう…小雪が望めば、な。」 

「ああ、それは俺も同意見だ。なんで小雪さんがあんな詰まらない奴らに傷つけられる必要がある。おかしいだろ?しかし…眠ってる姿も…いい…」 

「おい、こら。見るなよ。」 

「怒るなよ。あああっくそっ、さっさと早く帰国しておけばよかった…。」 

「それでも小雪がお前を選んだかはわからないぞ?」 

「それでも、だ。まさかあの時妹の墓参りでばったり居合わせるとはなあ。運命という奴だろうこれは。」 

「はぁ、小雪も厄介な奴ばかり引き寄せるから困ったものだな。とにかく小雪に無理強いしたくない。向こうに戻るというのならそれまでだ。」 

 ◇◇◇◇ 

どの位の間涙を流していたのでしょうか。意識がぼんやりと戻ってくるとお兄様と一宮様が小さな声で話しているのが聞こえてきました。

あんな風に泣いてしまった後なので恥ずかしくてどのような顔で向き合えばよいのか戸惑ってしまいます。 

お兄様は私を横抱きにしてずっと抱きしめていて下さっております。そして一宮様は私たちの正面に座っておられるようです。 

お兄様が向こうに戻るというのならそれまでとおっしゃっておられましたが、おそらく私のことを話していらっしゃったのでしょう。 

「…ごめんなさい、お兄様。いつも心配ばかりおかけしてしまって…」 

「小雪、目が覚めたのか?まだ寝てていいんだぞ?」 

「いえ、もう、その…あんな無様なさまをお見せしてしまって…恥ずかしい…」 

「あー………」 

「ああ、小雪。東吾は気にしなくていいから、さあ、向こうの部屋に行こう。」 

「そう…ですか? 

なぜか固まっておられる一宮様を残したまま本当にお兄様は私を抱きかかえて部屋を出て行きました。 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。

ごろごろみかん。
恋愛
婚約者には、何よりも大切にしている義妹がいる、らしい。 ある日、私は階段から転がり落ち、目が覚めた時には全てを忘れていた。 対面した婚約者は、 「お前がどうしても、というからこの婚約を結んだ。そんなことも覚えていないのか」 ……とても偉そう。日記を見るに、以前の私は彼を慕っていたらしいけれど。 「階段から転げ落ちた衝撃であなたへの恋心もなくなったみたいです。ですから婚約は解消していただいて構いません。今まで無理を言って申し訳ありませんでした」 今の私はあなたを愛していません。 気弱令嬢(だった)シャーロットの逆襲が始まる。 ☆タイトルコロコロ変えてすみません、これで決定、のはず。 ☆商業化が決定したため取り下げ予定です(完結まで更新します)

〈完結〉【コミカライズ・取り下げ予定】思い上がりも程々に。地味令嬢アメリアの幸せな婚約

ごろごろみかん。
恋愛
「もう少し、背は高い方がいいね」 「もう少し、顔は華やかな方が好みだ」 「もう少し、肉感的な方が好きだな」 あなたがそう言うから、あなたの期待に応えれるように頑張りました。 でも、だめだったのです。 だって、あなたはお姉様が好きだから。 私は、お姉様にはなれません。 想い合うふたりの会話を聞いてしまった私は、父である公爵に婚約の解消をお願いしにいきました。 それが、どんな結末を呼ぶかも知らずに──。

〈完結〉だってあなたは彼女が好きでしょう?

ごろごろみかん。
恋愛
「だってあなたは彼女が好きでしょう?」 その言葉に、私の婚約者は頷いて答えた。 「うん。僕は彼女を愛している。もちろん、きみのことも」

私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです

こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。 まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。 幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。 「子供が欲しいの」 「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」 それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。

戻る場所がなくなったようなので別人として生きます

しゃーりん
恋愛
医療院で目が覚めて、新聞を見ると自分が死んだ記事が載っていた。 子爵令嬢だったリアンヌは公爵令息ジョーダンから猛アプローチを受け、結婚していた。 しかし、結婚生活は幸せではなかった。嫌がらせを受ける日々。子供に会えない日々。 そしてとうとう攫われ、襲われ、森に捨てられたらしい。 見つかったという遺体が自分に似ていて死んだと思われたのか、別人とわかっていて死んだことにされたのか。 でももう夫の元に戻る必要はない。そのことにホッとした。 リアンヌは別人として新しい人生を生きることにするというお話です。

婚約者は、今月もお茶会に来ないらしい。

白雪なこ
恋愛
婚約時に両家で決めた、毎月1回の婚約者同士の交流を深める為のお茶会。だけど、私の婚約者は「彼が認めるお茶会日和」にしかやってこない。そして、数ヶ月に一度、参加したかと思えば、無言。短時間で帰り、手紙を置いていく。そんな彼を……許せる?  *6/21続編公開。「幼馴染の王女殿下は私の元婚約者に激おこだったらしい。次期女王を舐めんなよ!ですって。」 *外部サイトにも掲載しています。(1日だけですが総合日間1位)

悪名高い私ですので、今さらどう呼ばれようと構いません。

ごろごろみかん。
恋愛
旦那様は、私の言葉を全て【女の嫉妬】と片付けてしまう。 正当な指摘も、注意も、全て無視されてしまうのだ。 忍耐の限界を試されていた伯爵夫人ルナマリアは、夫であるジェラルドに提案する。 ──悪名高い私ですので、今さらどう呼ばれようと構いません。

〈完結〉毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

処理中です...