見捨てられたのは私

梅雨の人

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「とにかくこんなところで立ち話はやめよう。小雪さんが風邪をひいてしまう。」 

「ああ、すまないな、小雪。早く中に入ろう。」 

「小雪さん、これよければ使って?」 

一宮様はふわりと暖かな外套 を私の肩にかけてくださりました。 

一宮様の、男性の匂いのするその大きな上着はとても暖かくて一気に張りつめていた心がほぐされていくのを感じました。

亮真様にいつもこのように大事にされていたお義姉様は今の私と同じような心地よさを感じていらっしゃったのでしょうか。本当にとても大きくて…暖かくて…心の琴線が緩んできてしまいます 


「えっ??小雪さんっ?」 

「小雪っ、どうしたっ?」 

「おい、お前の上着匂いがきついんじゃないのか?」 

「え??いや、それはないと思うが…そうなのかい?小雪さん?」 


お二人の慌てぶりと軽快なやり取りを聞いているとここしばらく感じることのできなかった安心感がどっと押しかけてきたような気がいたしました。 

涙が止まらない私をお兄様が抱き上げて下さいました。 

◇◇◇◇ 

「相当無理してたんだろう。」 

「もう向こうには返す必要もないだろう…小雪が望めば、な。」 

「ああ、それは俺も同意見だ。なんで小雪さんがあんな詰まらない奴らに傷つけられる必要がある。おかしいだろ?しかし…眠ってる姿も…いい…」 

「おい、こら。見るなよ。」 

「怒るなよ。あああっくそっ、さっさと早く帰国しておけばよかった…。」 

「それでも小雪がお前を選んだかはわからないぞ?」 

「それでも、だ。まさかあの時妹の墓参りでばったり居合わせるとはなあ。運命という奴だろうこれは。」 

「はぁ、小雪も厄介な奴ばかり引き寄せるから困ったものだな。とにかく小雪に無理強いしたくない。向こうに戻るというのならそれまでだ。」 

 ◇◇◇◇ 

どの位の間涙を流していたのでしょうか。意識がぼんやりと戻ってくるとお兄様と一宮様が小さな声で話しているのが聞こえてきました。

あんな風に泣いてしまった後なので恥ずかしくてどのような顔で向き合えばよいのか戸惑ってしまいます。 

お兄様は私を横抱きにしてずっと抱きしめていて下さっております。そして一宮様は私たちの正面に座っておられるようです。 

お兄様が向こうに戻るというのならそれまでとおっしゃっておられましたが、おそらく私のことを話していらっしゃったのでしょう。 

「…ごめんなさい、お兄様。いつも心配ばかりおかけしてしまって…」 

「小雪、目が覚めたのか?まだ寝てていいんだぞ?」 

「いえ、もう、その…あんな無様なさまをお見せしてしまって…恥ずかしい…」 

「あー………」 

「ああ、小雪。東吾は気にしなくていいから、さあ、向こうの部屋に行こう。」 

「そう…ですか? 

なぜか固まっておられる一宮様を残したまま本当にお兄様は私を抱きかかえて部屋を出て行きました。 
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