見捨てられたのは私

梅雨の人

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忙しくしていたせいで食事を部屋に運んでもらってばかりだったので、亮真様とも顔を合わせることはございませんでした。
夜に亮真様が訪れてくることもございませんでしたので、白けてしまった気持ちが加速したかのように、亮真様のことを考えることもございませんでした。 

「おはようございます奥様。よく眠られておりましたね。昨日までの疲れが出てしまったのでしょうかねえ。」 

「そうね、タカさん。でも今日はゆっくり眠ることができたおかげでその疲れもだ大分とれたわ。あら、もう太陽があんなに高いところまで昇っているわね。」 

「奥様、お食事はいかがなされますか?この時間だと多めの昼食を作るようにいたしましょうか?」 

「そうね…でもそんなに作ってもらっても食べきれなかったら料理人に申し訳ないわ。いつもの量で早めの昼食をお願いできるかしら?」 

コンコンっ 

「小雪入るぞ?」 

「亮真様、おはようございます。寝坊してしまいました。」 

「いや、いい。この数日忙しかっただろう。それで今日の予定なんだがー」 

「旦那様、失礼いたします。旦那様にお客様でございます。注文の品が出来上がったので旦那様に直接確認してほしいと申しておりますがどういたしましょうか。」 

「注文の品…?…ああ、あれか。わかった。少し待ってもらっていてくれ。小雪、着替えたら今日はその…一緒に街に出て買い物にでも出かけないか?その…何が欲しいか考えておいてくれ…では」 

買い物に出かけないかと亮真様がおっしゃるだなんて。 

一緒に出掛けようと誘ってくださるだなんて初めてのことでございます。 

生憎、孝一朗お義兄様が鬼のように大量の贈り物をしてくださったばかりですので全く思い浮かびませんが。 


その後食事を済ませた私は執務室にいらっしゃる亮真様に会いに向かいました。 

向かっている途中、身ぎれいな商人風の方が私に頭を下げてきました。 

「おおっ!奥様の小雪様でいらっしゃいますね?私は高松屋の主人でございます。この度はご贔屓にして下り感謝しております。あのような素材はとても希少価値の高いものでして、さすが大河内様でございます。このようにお美しい奥様なのですからそれも当たり前のことなのでしょう。奥様にお送りするのを心待ちにしていらっしゃいましたのでようやく出来上がってほっといたしました。おっと、喋りすぎました。では私はここで失礼いたします。ごきげんよう。」 

一言も私が発言することもないまま高松屋さんは帰っていかれました。 
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