見捨てられたのは私

梅雨の人

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翌日朝の支度を終えて部屋を出ると、亮真様が壁に寄りかかって私が部屋から出てくるのを待っておられました。 

「一緒に朝食に行こうと待っていた。君の足が不自由な頃毎日抱きかかえて行っていたのが懐かしいな。」 

「…そうですね。」 

(---なぜ今そんなことを言うの?) 

「小雪、昨日は大丈夫だったか?」 

「大丈夫とは、何のことでございますか?」 

「一人で帰らせてしまった。」 

「ええ。それはもちろん」 

「もちろん…か。そうか。それはそうと、一宮氏のことだが以前君が墓参りの途中で大変だった時に助けてくれたのが彼だったというのは本当か?」 

「ええ、その通りでございます。そのようにお伝えしていたはずですが?」 

「あ、ああ。そうだったな。いや、あの時は忙しくて私もそこまで気に留めていなかったから。」 

(妻が外出中に熱で倒れた時に、忙しくて気に留めることが出来ないのですね――。すこし、白けてしまうわ…。) 

「小雪?」 

「それで、亮真様は何がおっしゃりたいのでしょうか?」 

「何がというか、意外で。」 

「意外とは?」 

「いや、君が私以外の男と知り合いだということが…いや、なんでもない。今日は、君は何をする予定なんだ?」 

「今日は屋敷の使用人へこの季節風邪をひかないように、厚手の上着を手配する予定です。お屋敷の管理費の計算とお給料の日も近いので、その準備にもそろそろ取り掛かる予定ですが。」 

「そうか、それは忙しそうだな。それなら外に行く暇もないだろうな…小雪、出来たらしばらく外出は控えてくれないか?」 

「それは…それはなぜなのですか?」 

「君をあの男と…いや、君はまだ体調が全開になったわけではないのだし、屋敷で暖かくしていてほしいんだ。」 

「ずっと屋敷にこもることは出来かねますが…」 

「それでも出来るだけ外に出ないでほしい。」 

普段声を感情をあらわにしない亮真様が必死に言い募るのを初めて目にしました。 

それでも、この屋敷にずっとこもっているだなんて私にはできそうもありませんが… 
「理由をお伺いしても?」 

「それは、君が…」 

「私がどうしたのでしょう。」 

「いや、なんでもない。」 

「そうですか…ではご馳走様でした。」 

「小雪、もういいのか?あまり食べていないじゃないか。」 

「いえ…もう十分頂きましたので。申し訳ございませんがお先に失礼させて頂きます。」 

 
◇◇◇◇

「タカさん、使用人の上着について最終確認したいの。いくつか案があったけど最後は多数決で決めるというのはどうかしらね。」 

「あら、奥様がお決めにならなくてよろしいのですか?」 

「私はどの案も素晴らしいと思っているから後は着るほうが選んでくれたらいいのよ。一度みんなを集めて聞いてくれるかしら?それが終わったらみんなの寸法は測っているから発注するだけね。何とか今日中に終わらせましょう。出来るだけ早くみんなに身に着けてもらいたいものね。」 

「奥様…ありがとうございます。」 

「後それから、みんなのお給料の手配と、この屋敷の管理費の計算と…」 

「奥様、頑張りすぎですよ。お体を崩されては元も子もありませんからね。一人で無理なさらないで、私たちをどんどんこき使ってくださいませ。」 

「どんどんこき使うなんてできないわよっふふふっ」 

この屋敷の使用人が入れ替わってからというもの、タカさんを筆頭に皆がとても私を慕ってくれているようです。 

出来るだけ外に出てほしくないと亮真様に言われたからではありませんが、結局その後予定よりも一日延びて四日間屋敷に缶詰め状態になりました。
 
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