見捨てられたのは私

梅雨の人

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「いやだわ、小雪さんも亮真さんも。場所をわきまえてくれなければ困るわよ。」 

「琴葉、そんなに言うことはないだろう?弟夫婦が仲が良くて喜ぶべきとこじゃないか。」 

「…」 

「なんだ、琴葉。弟夫婦が仲良くて何か都合が悪いことがあるのか?」 

「それは…」 

「ならいいじゃないか。ほら亮真。旨そうな酒があるぞ。飲んでみよう。」 

「太賀、私も頂くわ。」 

「…小雪さんはお茶以外に何か飲みたいものはないかい?」 

「お義兄様、私はこのお茶で十分です。お気遣い頂きありがとうございます。」 

「小雪、まだ茶は入っているか?」 

「ええ、亮真様。」 

「そうか。ほかに飲みたいものは…兄さんがもう聞いていたな。…ほら、箸が止まっている。何かほかに食べたいものはないか?」 

「いえ…十分美味しく頂いております。ありがとうございます。」 

「そうか…」  

その後琴葉お義姉様はたくさんお酒をお召し上がりになっておられました。琴葉お義姉様がお酒に強いのかは存じ上げませんが、お開きになるころにはすっかりと出来上がっておりました。 

「太賀、手を貸してよっ。亮真さんもお願いっ。」 

「義姉さん、飲みすぎだ」 

「あらぁ、たまにはいいじゃない?それにこうして二人に支えられてると昔を思い出すわぁ。小さい頃はよく三人でこうしていたでしょぉ?太賀と亮真がいつも一緒でぇ、周りが羨ましそうに私に視線をよこしてくるのよね。ふふふっ。それなのにっ…亮真さんが結婚してしまって…。寂しいわっ。」 

「何を言ってるんだ琴葉」 

「小雪さんも小雪さんよねっ。新婚なのにっ亮真を置いて実家に帰るだなんてぇ。亮真さんはその間すごぉく寂しそうにしてたのよぅ?だから私が毎日のようにぃ亮真さんの様子を見に行ってはぁ元気になってもらおうって…すごく頑張ったのに。それでやっと調子が戻ってきたのよぉ。知らなかったでしょっ?」 

「義姉さん。あの時は本当に世話になったが、だからと言ってそんなことを小雪に言っても仕方ないだろ?」 

「仕方なくないわよっ。元気のない亮真さんに寄り添ったのは私なのよぅ。」 

「琴葉いい加減にしろ。小雪さん、すまないな。気にしないでくれ。」 

「何よっ、太賀まで小雪さんに優しくしてぇ…太賀がやさしくするのは妻である私にだけでしょぉっ?もうやだぁ。なんだか私が悪いみたいじゃないっ。ぐすっ…」 

「別に泣かなくてもいいだろ義姉さん?」 

目の前で太賀お義兄様と亮真様に支えられた琴葉義姉様が三人並んで出口へと向かっております。 

私は出口へ続く石畳の上を三人で歩いて行かれるのを後ろからゆっくりとついて行きます。 


出口に向かって歩いて行かなければならないのに、足が重く感じられてなかなか前に進めないのはなぜなのでしょうか。 

琴葉お義姉様に強引に腕をつかまれているだけの太賀お義兄様に対し、亮真様はまるで宝物を扱うかのように全身で琴葉お義姉様をお支えになっております。 

折角おいしかったお料理も、亮真様の暖かなお気遣いもこの寒空の下でなかったことになりそうなほど胸に隙間風が入ってまいります。 

この気持ちは嫉妬でしょうか。それとも諦めでしょうか。
心の底では亮真様が私にどんなにやさしくしてくださっても、…やっぱり亮真様にとって琴葉お義姉様が何より大事なのではないかという思いに蓋をしておりましたが…

どんどん進んでいく三人の姿は緩く曲がる植え込みを進み見えなくなってしまいました。 
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