見捨てられたのは私

梅雨の人

文字の大きさ
上 下
42 / 147

38

しおりを挟む
――妙子様、ご無沙汰しておりました。ねえ。妙子様。少し弱音を吐いても良いでしょうか?妙子さまのことですもの。そんな遠慮はなしよっておっしゃって下さることでしょう。
 

ねえ、妙子様。想いあうお二人を、死がこんなに早く別つだなんて神様は本当にいらっしゃるのでしょうか…。 

私事ですが…私は亮真様をお慕いしているのです。
幸せな夫婦になりたいのです。
亮真様が私と夫婦になって幸せだと感じてほしいのです。

でも、難しいですね。薄々感づいておりましたが、やっぱり私の一方通行みたいです。 

ふふふっ、おかしいですわね。亮真様と夫婦になれて嬉しいはずなのにいつも苦しいのです。

琴葉お義姉様に亮真様がやさしくして差し上げるのを見る度に心の中に冷たい風が吹き荒れるのです。完璧な私の片思いのようです。

だから思うのです。なぜ神様は妙子さまの代わりに私をそちらに連れていかれなかったのかと。ねえ妙子様。神様はおそらく私と間違えて妙子様を連れていかれたのではないでしょうか。

そうすれば妙子様ご夫婦はずっと一緒にいられたわけですし、亮真様だって私の存在にうんざりすることなく琴葉お義姉様に寄り添うことが出来たのではないでしょうか、

ねえ、妙子様。

亮真様の優しさに期待することも止められませんのに、亮真様のお心は違う方にあるようです。誰かをお慕いするのはこのように苦しくて悲しくて寂しいことだったのですね。 こんなことなら…亮真様をお慕いするのではなかったっ…


「ふっ。…」 
 

涙が止まりません。妙子様、私はどうしたらいいのでしょう… 
 

「よければ使ってくれ」 

急に男性の声が背後から聞こえてきました。
肩を震わせ振り返りますと、その男性の苦笑した声が返ってきました。 

「驚かせてしまったか、悪い、俺だよ。一宮東吾。以前君と、君の親友の夫君を助けた男だ。」 

「一宮様…。あっ、申し訳ございません。このようなみっともない姿を…。」 

「あーー、いや、そんなことはなぞ。君の泣き顔は美し…あー。とにかく気にしなくていい。君が落ちつくまで俺が邪魔なら向こうに行っているから。」 

「…いえ、その。大丈夫です。ハンカチを汚してしまいまして申し訳ございません。」 

「ああ、気にしなくていいさ。君が持っているといい。無理して涙を止める必要などないのだから。」 

「ありがとうございます、一宮様。…今はその優しさが身に染みます。妙子さまが一宮様に引き合わせてくれたのかもしれませんね。」 

「妙子様?もしかしてそちらの?」 

「ええ、私の大切な親友です。残念ながら数か月前に…今日もここでこうして私の話を聞いてもらっていたのです。」 

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

完結 嫌われ夫人は愛想を尽かす

音爽(ネソウ)
恋愛
請われての結婚だった、でもそれは上辺だけ。

業腹

ごろごろみかん。
恋愛
夫に蔑ろにされていた妻、テレスティアはある日夜会で突然の爆発事故に巻き込まれる。唯一頼れるはずの夫はそんな時でさえテレスティアを置いて、自分の大切な主君の元に向かってしまった。 置いていかれたテレスティアはそのまま階段から落ちてしまい、頭をうってしまう。テレスティアはそのまま意識を失いーーー 気がつくと自室のベッドの上だった。 先程のことは夢ではない。実際あったことだと感じたテレスティアはそうそうに夫への見切りをつけた

【完結】二度目の人生に貴方は要らない

miniko
恋愛
成金子爵家の令嬢だった私は、問題のある侯爵家の嫡男と、無理矢理婚約させられた。 その後、結婚するも、夫は本邸に愛人を連れ込み、私は別邸でひっそりと暮らす事に。 結婚から約4年後。 数える程しか会ったことの無い夫に、婚姻無効の手続きをしたと手紙で伝えた。 すると、別邸に押しかけて来た夫と口論になり、階段から突き落とされてしまう。 ああ、死んだ・・・と思ったのも束の間。 目を覚ますと、子爵家の自室のベッドの上。 鏡を覗けば、少し幼い自分の姿。 なんと、夫と婚約をさせられる一ヵ月前まで時間が巻き戻ったのだ。 私は今度こそ、自分を殺したダメ男との結婚を回避しようと決意する。 ※架空の国のお話なので、実在する国の文化とは異なります。 ※感想欄は、ネタバレあり/なし の区分けをしておりません。ご了承下さい。

その眼差しは凍てつく刃*冷たい婚約者にウンザリしてます*

音爽(ネソウ)
恋愛
義妹に優しく、婚約者の令嬢には極寒対応。 塩対応より下があるなんて……。 この婚約は間違っている? *2021年7月完結

【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」 王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。 無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。 だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。 婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。 私は彼の事が好きだった。 優しい人だと思っていた。 だけど───。 彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

報われない恋の行方〜いつかあなたは私だけを見てくれますか〜

矢野りと
恋愛
『少しだけ私に時間をくれないだろうか……』 彼はいつだって誠実な婚約者だった。 嘘はつかず私に自分の気持ちを打ち明け、学園にいる間だけ想い人のこともその目に映したいと告げた。 『想いを告げることはしない。ただ見ていたいんだ。どうか、許して欲しい』 『……分かりました、ロイド様』 私は彼に恋をしていた。だから、嫌われたくなくて……それを許した。 結婚後、彼は約束通りその瞳に私だけを映してくれ嬉しかった。彼は誠実な夫となり、私は幸せな妻になれた。 なのに、ある日――彼の瞳に映るのはまた二人になっていた……。 ※この作品の設定は架空のものです。 ※お話の内容があわないは時はそっと閉じてくださいませ。

処理中です...