見捨てられたのは私

梅雨の人

文字の大きさ
上 下
24 / 147

24

しおりを挟む
「俺に任せて君はついて来てくれ。」 

聞きなれない男性の声が聞こえたと思ったら、あっという間に妙子さまの旦那様は背の高い男性に運ばれて行きます。 

呆然としている私を振り向いたその男性は早くあなたも一緒に来るんだと再び告げ私を待っていてくださいます。 

這う這うの体でどうにかその男性に遅れないように歩き続けておりますと、休憩所で待たせておいた運転手が血相を変えてかけてまいりました。 

ずぶ濡れの状態で休憩室に到着した私は、すぐに妙子さまの旦那様とその男性ともに車に乗りお医者様のもとへ急ぎました。 

体が冷えすぎたのでしょう。妙子さまの旦那様の体が震えております。今の私のように。 

視界がだんだんぼやけて頭がぼうっとしております。頭の奥がズキンズキンと鈍い痛みを訴えて背中がぞわっと冷える感覚に冷や汗が出てきました。 


妙子様、どうか妙子さまの旦那様をお救いください 

徐々に視界がぼやけて猛烈な眠気に襲われたわたくしはそのまま意識を手放しておりました。 

◇◇◇◇

おでこにひやりと冷たいものを置いてくださっている方がおります。その気持ちよさに誘われるように意識が戻りました。 

ゆっくり目を開けますと、先ほど私と妙子さまの旦那様を助けてくださった男性が私の横に座っておられました。 


「ああ、よかった目が覚めたね。気分はどう?すぐに医師を呼んでもらおう。おい、君、医師を呼んできてくれ。」 

「あの、私は一体…」 

「ああ、びっくりしたよ。ここについたとたん、君はいきなり意識を失って倒れたんだ。すごい熱があるじゃないか。君の抱えていた男性と同様に真っ青になって熱も引かないし心配したよ。今日はこの医院は人手が足りないといっていたから君の看病を俺がかってでたんだ。といっても頭に乗せる氷水を冷たいのに取り換えることくらいしかできていなかったんだが。あと、きみのところの運転手に君のことをご家族に伝えてもらうように頼んだから、今は何も考えずにここでゆっくりしたらいい。」 


「そこまで初対面の方にご迷惑をおかけするのは気が引けてしまいますので…。」 

「…初対面ねぇ。まあいいか。気にしなくていい。それよりも、君の名前を教えてもらってもいいだろうか。先ほど君の名前を聞き忘れていたからな。」 

「わたくしでございますか?」 

「ああ、私は一宮東吾だ。」 

「大河内…大河内小雪と申します。改めてこのたびは助けていただいてありがとうございました。」 

「気にすることはないさ。ああ、でも驚いたよ。あんなところで君のような美しい女性がびしょ濡れでさ。あの雨の中息を切らして大の男を引きずっていたんだ。俺でなくても何事かと思うぞ?」 

「それで、妙子さまの旦那様は…?」 

「ああ、君の夫君ではかったのか。まだ熱でうなされているが時期に目が覚めるだろう。」 

「よかった…。あの方は私の亡くなった大切な親友の旦那様なのです。ちょうどお墓参りに伺って倒れられているのを目にしましたもので無我夢中で…。」 

急にその時の自分の姿を思い浮かべて恥ずかしくなってしまいました。 

一宮様はそんな私を笑うことなどせずにじっと私のことを見つめておられました。 

これが私と一宮東吾さまの出会いでございました。 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ゼラニウムの花束をあなたに

ごろごろみかん。
恋愛
リリネリア・ブライシフィックは八歳のあの日に死んだ。死んだこととされたのだ。リリネリアであった彼女はあの絶望を忘れはしない。 じわじわと壊れていったリリネリアはある日、自身の元婚約者だった王太子レジナルド・リームヴと再会した。 レジナルドは少し前に隣国の王女を娶ったと聞く。だけどもうリリネリアには何も関係の無い話だ。何もかもがどうでもいい。リリネリアは何も期待していない。誰にも、何にも。 二人は知らない。 国王夫妻と公爵夫妻が、良かれと思ってしたことがリリネリアを追い詰めたことに。レジナルドを絶望させたことを、彼らは知らない。 彼らが偶然再会したのは運命のいたずらなのか、ただ単純に偶然なのか。だけどリリネリアは何一つ望んでいなかったし、レジナルドは何一つ知らなかった。ただそれだけなのである。 ※タイトル変更しました

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

本編完結 彼を追うのをやめたら、何故か幸せです。

音爽(ネソウ)
恋愛
少女プリシラには大好きな人がいる、でも適当にあしらわれ相手にして貰えない。 幼過ぎた彼女は上位騎士を目指す彼に恋慕するが、彼は口もまともに利いてくれなかった。 やがて成長したプリシラは初恋と決別することにした。 すっかり諦めた彼女は見合いをすることに…… だが、美しい乙女になった彼女に魅入られた騎士クラレンスは今更に彼女に恋をした。 二人の心は交わることがあるのか。

わたしは不要だと、仰いましたね

ごろごろみかん。
恋愛
十七年、全てを擲って国民のため、国のために尽くしてきた。何ができるか、何が出来ないか。出来ないものを実現させるためにはどうすればいいのか。 試行錯誤しながらも政治に生きた彼女に突きつけられたのは「王太子妃に相応しくない」という婚約破棄の宣言だった。わたしに足りないものは何だったのだろう? 国のために全てを差し出した彼女に残されたものは何も無い。それなら、生きている意味も── 生きるよすがを失った彼女に声をかけたのは、悪名高い公爵子息。 「きみ、このままでいいの?このまま捨てられて終わりなんて、悔しくない?」 もちろん悔しい。 だけどそれ以上に、裏切られたショックの方が大きい。愛がなくても、信頼はあると思っていた。 「きみに足りないものを教えてあげようか」 男は笑った。 ☆ 国を変えたい、という気持ちは変わらない。 王太子妃の椅子が使えないのであれば、実力行使するしか──ありませんよね。 *以前掲載していたもののリメイク

「他に愛するひとがいる」と言った旦那様が溺愛してくるのですが、そういうのは不要です

ごろごろみかん。
恋愛
「私には、他に愛するひとがいます」 「では、契約結婚といたしましょう」 そうして今の夫と結婚したシドローネ。 夫は、シドローネより四つも年下の若き騎士だ。 彼には愛するひとがいる。 それを理解した上で政略結婚を結んだはずだったのだが、だんだん夫の様子が変わり始めて……?

その眼差しは凍てつく刃*冷たい婚約者にウンザリしてます*

音爽(ネソウ)
恋愛
義妹に優しく、婚約者の令嬢には極寒対応。 塩対応より下があるなんて……。 この婚約は間違っている? *2021年7月完結

【取り下げ予定】お幸せに、婚約者様。私も私で、幸せになりますので。

ごろごろみかん。
恋愛
仕事と私、どっちが大切なの? ……なんて、本気で思う日が来るとは思わなかった。 彼は、王族に仕える近衛騎士だ。そして、婚約者の私より護衛対象である王女を優先する。彼は、「王女殿下とは何も無い」と言うけれど、彼女の方はそうでもないみたいですよ? 婚約を解消しろ、と王女殿下にあまりに迫られるので──全て、手放すことにしました。 お幸せに、婚約者様。 私も私で、幸せになりますので。

融資できないなら離縁だと言われました、もちろん快諾します。

音爽(ネソウ)
恋愛
無能で没落寸前の公爵は富豪の伯爵家に目を付けた。 格下ゆえに逆らえずバカ息子と伯爵令嬢ディアヌはしぶしぶ婚姻した。 正妻なはずが離れ家を与えられ冷遇される日々。 だが伯爵家の事業失敗の噂が立ち、公爵家への融資が停止した。 「期待を裏切った、出ていけ」とディアヌは追い出される。

処理中です...